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○初めに
 2024年1月1日に石川県能登地方でマグニチュード7.6、震度7の大地震が発生しました。
 以下は、2月10日に、たんぽぽ舎で行われた山崎久隆さんの講演「地震・津波は止められないが原発は止められる_今すぐ『止める、冷やす、閉じ込める』対策を」の内容の紹介です。
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[ レジュメ ] (※)
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    レジュメの文章中に、当会が収集した記事の内容に近いものがある場合に
    参考記事として、リンクをつけました。参考になさってください。

[ 動画先頭:0:12:40〜 ](※)
 (※)山崎氏のYoutube動画の先頭部分へリンクです。
[ 1枚目の静止及び山崎氏のコメント ](※)
 

○ アイコンから山崎氏のコメントページへ

(1)2024年2月10日
日本は活断層だらけ_原発余地なし
(2)2024年2月10日
能登半島地震の震央分布図
(3)2024年2月10日
震央分布_1日0時〜3日20時
(4)2024年2月10日
想定した断層運動は96km
(5)2024年2月10日
想定を超えて動いた断層の範囲
 
(6)2024年2月10日
能登半島の震央分布(2023・2024年)
(7)2024年2月10日
確率論的地震動予測地図2020版
(8)2024年2月10日
要約推定震度分布
(9)2024年2月10日
日本海側の断層の位置_佐竹建治教授
(10)2024年2月10日
能登半島地震と志賀原発の実態
 
(11)2024年2月10日
志賀1号機_志賀2号機
(12)2024年2月10日
志賀原発_空中写真
(13)2024年2月10日
志賀原発_空中写真_2
(14)2024年2月10日
送電系統の損傷状況
(15)2024年2月10日
赤住線の補修作業概要
 
(16)2024年2月10日
発電所前面海域の水位上昇
(17)2024年2月10日
波高計の設置位置概要
(18)2024年2月10日
波高計について
(19)2024年2月10日
波高計の使用方法とデータ抽出方法
(20)2024年2月10日
水位変動の評価を確定するまでの時系列
 
(21)2024年2月10日
使用済燃料プールの浄化系_系統図と燃料の数
(22)2024年2月10日
2号機_低圧タービン「伸び差大」警報発生
(23)2024年2月10日
2号機_蒸気タービン概要図(伸び差大)
(24)2024年2月10日
使用済燃料貯蔵プール水が床面に飛散
(25)2024年2月10日
プール水溢水
 
(26)2024年2月10日
変圧器のオイル漏れ
(27)2024年2月10日
2号機_主変圧器_油漏れ_停止中
(28)2024年2月10日
2号機_主変圧器油漏れ概要図
(29)2024年2月10日
1号機_起動変圧器_油漏れ_停止中
(30)2024年2月10日
2号機_常設代替交流電源設備
 
(31)2024年2月10日
2号機_非常用ディーゼル_地下式軽油タンク
(32)2024年2月10日
2号機_格納容器フィルタ付ベント装置
(33)2024年2月10日
2号機_大容量淡水貯水槽
(34)2024年2月10日
地震想定_断層評価は間違っていた
(35)2024年2月10日
敷地内断層_S-4_標高35m盤トレンチ
 
(36)2024年2月10日
【御視察場所】S-4_標高35m盤トレンチ
(37)2024年2月10日
【追加の連動評価】
(38)2024年2月10日
海域(半径30km範囲)の評価概要
(39)2024年2月10日
陸域(半径30km範囲)の評価概要
(40)2024年2月10日
津波想定_津波評価はそもそも間違い
 
(41)2024年2月10日
能登半島北部沿岸域断層帯の評価結果
(42)2024年2月10日
物揚場
(43)2024年2月10日
津波に備える
(44)2024年2月10日
津波に備える_2
(45)2024年2月10日
能登半島は地震による隆起地形_宍倉正展
 
(46)2024年2月10日
東京大などが調査した主な海岸隆起
(47)2024年2月10日
海岸線の赤い部分が陸地化したとみられる
(48)2024年2月10日
隆起により陸地化した海岸
(49)2024年2月10日
隆起により陸地化した海岸_2
(50)2024年2月10日
隆起した港
 
(51)2024年2月10日
地震後の海面_離水した波食棚
(52)2024年2月10日
12:03の時間海面+3.8〜3.9m
(53)2024年2月10日
14:20の時間海面+約3.6m
(54)2024年2月10日
隆起により出現した海底部分
(55)2024年2月10日
隆起により出現した海底部分2
 
(56)2024年2月10日
隆起により出現した海底部分3
(57)2024年2月10日
隆起により出現した海底部分4
(58)2024年2月10日
隆起により出現した海底部分5
(59)2024年2月10日
隆起により座礁した漁船
(60)2024年2月10日
M1面の標高(m)
 
(61)2024年2月10日
隆起の繰り返しによる海食崖
(62)2024年2月10日
9.6_11.5_14.5_17.2メートル
(63)2024年2月10日
原発の防災計画は机上の空論
(64)2024年2月10日
基本的な避難ルート
(65)2024年2月10日
1月1日のここは通れたマップ
 
(66)2024年2月10日
1月1日のここは通れたマップ_2
(67)2024年2月10日
1月4日のここは通れまたマップと志賀原発30km
(68)2024年2月10日
通れた道マップ_1月8日現在
(69)2024年2月10日
原発30キロ圏_400人8日間孤立_避難計画機能しない
(70)2024年2月10日
EALによる段階的避難/要配慮者は早期避難
 
(71)2024年2月10日
周辺のモニタリングポストの測定状況
(72)2024年2月10日
石川・のと里山海道(地震発生直後)
(73)2024年2月10日
石川・のと里山海道_2
(74)2024年2月10日
石川・のと里山海道_3
(75)2024年2月10日
避難道路_過半が寸断_実効性揺らぐ
 
 

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○ レジュメ
 
「大地動乱の時代」_原発は廃炉に_地震・津波は止められないが原発は止められる_今すぐ「止める、冷やす、閉じ込める」対策を_山崎久隆


                2024年2月10日 たんぽぼ舎共同代表 山崎久隆

 1 2024年能登半島地震が発生

 2024年1月1日16時10分、「2024年(令和6年)能登半島地震」が発生した。 震源断層は北東から南西に延びる150km程度の、主として南東傾斜の逆断層 である。 震源は北緯37.5度、東経137.2度、深さは16キロで、ごく浅くマグニチュードは7.6 に達した。
  最大震度7 を記録した 地震の前後には、震度5強の地震 も発生していた。その後も多数の地震が続いている。

 地震と共に津波も発生し、最大波高は 輪島港で1.2メートル と記録されている。しかし輪島港の1.2メートルは正確ではない。
 現地調査の結果、最大到達は6メートルを超えると推定されている。地震と同時に発生した 地盤の隆起により4メートル以上もせり上がり 、海岸線が250メートルも後退したところがあるため正確な津波波高は計測できなかった。津波は 北海道から長崎県対馬まで日本海全域で確認 されている。

  活断層により発生する地震として、過去100年で最大の地震 である。(これ以上の規模の地震は全てプレート境界型地震)
 観測史上最大の地震が能登半島で発生したことは、地震学者の多くにとって想定外だった。それまで警戒されていたどの断層も、能登半島北部の断層より動きやすいと考えられており、地震本部が2020年に発表した「全国地震動予測地図2020年版」では、 能登半島の確率は低く書かれていた 。そのこともあってか、 能登半島では2年半前から群発地震が続いていた ものの、大地震の発生を想定した防災や警告もなされていなかった。

 81年の新耐震基準(*)により建てられた住宅は半分にも満たなかった。そのうえ群発地震による度重なるダメージを受けていたこともあって、 新耐震基準を満たすはずの住宅も全壊したものが多数 出ている。
(旧耐震では震度5強まで耐えられることとされていたが、新耐震では震度7でも人命に重大な影響を与える被害を出さないことが基準とされている。なお、この間にも2000年耐震基準「新耐震基準の運用厳格化」の改定がある。)

 日本で地震が発生しないところはない。大小織り交ぜて地震は日本中どこでも発生している。ある場所で過去に大きな規模の地震が発生していたとしても、 地表に活断層など痕跡が残らないことさえある 。このため「この場所は大きな規模の地震がない」と言えるところはそんざいしない。

 2 2024年能登半島地震による原発への影響

 ◎北陸電力志賀原発
 以下は北陸電力からの発表を筆者がまとめたものである。

 地震は石川県志賀町にある北陸電力志賀原発に重大な影響を与えた。
 震源から65キロほど離れている志賀原発では、震度5強程度の揺れに遭遇したとされる。「 1号機原子炉建屋地下2階震度5強、三成分合成399.3ガル 、水平方向336.4ガル、上下方向329.9ガル」としている。
  現在の基準地震動は水平600ガル、上下405ガル。今回の地震ではそれを下回っていた とされる。しかし一部の周波数域では超過していたことが、その後の調査で明らかになった。 1号機で最大957ガルを観測し、基準地震動を元にした想定値を39ガル上回っていた。2号機も25ガル上回る871ガルだった。 今後基準地震動を1,000ガルに引き上げる予定とされるが、それで十分とは思えない。

 志賀原発には2基の原発がある。1号機は54万キロワットのBWR、2号機は135.8万キロワットのABWRだが、どちらも運転停止中、炉心に燃料はなく、危険は使用済燃料を貯蔵しているプールだ。冷却水は継続されており、冷却用のポンプも稼働している。

 原発には外部電源が3系統5回線あり、そのうち2号機に接続されている50万ボルト1系統2回線は停止している。火災は起きていない。原因は変圧器の絶縁に使う油の配管が損傷したための油漏れ。
 1号機側の起動変圧器も油漏れで遮断した。 火災が起きていないのに噴霧消火設備の起動及び放圧板が動作 したことも確認されており、その原因は油圧の変化による作動ではないかと推定されている。
 変圧器の油漏れは、 1号機側で3600リットル、2号機側で3500リットルと発表されたが、5日になって2号機では19,800リットル漏れていたと上方修正 された。変圧器の復旧見通しは立っていない。従ってこれら回線も回復できない。
 2号機の電源は27.5万ボルトの1回線で受電している。1号機は6.6万ボルトの1系統1回線で受電している。

 6台の非常用ディーゼル発電機は1台が定期検査中、5台が待機中。別に高圧電源車1台、その他の電源車7台も待機中。

  燃料プールへの水の補給は、ポンプが一時停止したものの約40分で復旧 し継続中。
 プール水は、地震発生時のスロッシングにより一部が漏えいしたが水位は保たれている。その量と放射能は、 1号機が95リットルで合計17,100ベクレル、2号機で約326リットルで含まれる放射能量は約4,600ベクレル 。外部への漏えいはしておらず放射能の影響はない。

 その他の影響として、海岸に設置された 「物揚場」の埋立部の舗装コンクリートで沈下 が発生し段差ができていた。
  1号機放水槽及び1号機補機冷却排水連絡槽防潮壁の基礎の沈下 が発生していた。これは津波対策として設置された鋼製防潮壁の基礎部分で地震の影響により数cm程度沈下していた。
  1号機高圧電源車使用箇所付近の道路に数cm程度の段差 が発生していた。

 これらの事実関係は、北陸電力の発表毎に変転している。
 絶縁油の漏洩量も、津波到達の事実も、当初の発表から悪い方に変化し続けた。その背景には 22年に敷地内断層が「活断層ではない」 とされたことで、2号機の新規制基準適合性審査を進めることができるとの社の「ほっとした空気」に水を差さないようにと意識的に、あるいは無意識的にも安全側に事実を解釈しようとする心理が働いたのだろう。これは原発の安全性にとって極めて危険で質の悪い行動心理である。

 ◎東京電力柏崎刈羽原発

 震源からは120キロほど離れている。しかし海底の断層が動いて 柏崎刈羽原発にも0.4m程度の津波 が襲っていた。ただし、これは原発の記録ではなく柏崎市鯨波海岸での記録である。

 2007年の中越沖地震では、柏崎刈羽原発設計時に想定した揺れを超えて施設内外で重大な破損が3,700箇所も見つかった。そのうち 建屋地下にある鉄筋コンクリート製のくいの損傷 に至っては地震発生から14年もたった2021年に発覚する事態さえ起きていた。柏崎刈羽原発6号機の大物搬入口で、基礎杭8本の内1本が地中で破損していたことが明らかになったのである。

 以下は、今回の能登半島地震に関する東電の発表を筆者がまとめたもの。
 柏崎市、刈羽村で震度5強の揺れを記録している。原発では地震の揺れは比較的小さく3号機の原子炉建屋基礎マット上では87.1ガル。6号機中央制御室の記録を詳細に確認をしたところ、原子炉建屋3階にある原子炉自動停止信号を発信する制御用地震計にて設定値(水平185Gal)を上回った信号が出ていた。運転はしていないためスクラムはしていないが、運転していたらスクラムする揺れだった。
 長周期揺れの影響で 燃料プール水がスロッシングであふれだした。2、3、4、6、7号機で確認 されている。最大は6号機の600リットルである。
 その他には、一部の火災報知機が警報を鳴らしたが、いずれも誤報と東電は判断している。
 外部への放射性物質の拡散は確認されていない。モニタリングポストも正常値の範囲である。
  周辺の道路に亀裂 が見つかるなど、時間と共に影響が明らかになってきている。

 3 志賀原発は止まっていたことが重要

 志賀原発は今回の地震で外部電源を半分失った。しかし最低限必要な電源が限定されてたことで過酷事故は起こらなかった。志賀原発は運転を停止していたので冷却すべき燃料体はプールにあった。
 プールは水深は8メートル以上あり、燃料体の長さ4メートルの倍の水が満たされている。地震の影響で冷却水のポンプが停止し水面がスロッシングにより揺れて溢水したため、一時冷却水の量が減少したが、約40分後にポンプが再起動したことで水位も回復した。

  プールの燃料は1号機で672体、2号機で200体あるが、17日程度までは補給がなくても冷却は継続できる(100度以下に保てる)と北陸電力は分析 している。その間、非常用ディーゼル発電機が稼働する、電源車から給電するなどでポンプが稼働できるはずだが、それでも稼働しなければ代替の注水を消防車から行うことになる。
 しかしこれは「今の状態」だからだ。運転中だったらこうはいかない。

 4 志賀原発がいま稼働していたらどうなっていたか‥・

 原発が稼働中ならば地震の揺れでスクラムできるかがまず問題になる。志賀原発の制御棒は下から押し込む方式だ。地震の第一撃のP披(上下動)でスクラム用の蓄圧タンクからの配管類が破損したらスクラムしない。また、直下地震ならば最初の一撃で上下動と水平動(S波)がほぼ同時に来る。それが重力加速度以上のものであれば、燃料と制御棒が干渉して入らない可能性も否定できない。原子炉スクラム失敗は原子炉の熱量を減らせないまま本業の揺れに襲われる最悪の状況を作り出す。今回の地震が志賀原発直下で起きていたとすれば、このリスクがあった。

 今回の地震で志賀原発では地下2階の基礎マットにある地震計で三成分合成399.3ガルの揺れを記録した。これは基準地震動で想定している揺れの6割ほどだ。しかしそれでも設備の多くに損傷などが生じた。
 特に問題なのは、起動変圧器などの電源設備の損傷である。原発が稼働していたら、起動変圧器などの絶縁油が大量に漏れ出したとたん、アーク放電が発生したら 柏崎刈羽原発3号機と同じ火災 に発展していた恐れがある。
 また、外部電源の半分が失われているから、このままでも冷温停止には相当な困難が生じていたと思われる。そのうえ起動変圧器に火災が起きていたら、電源は全て非常用ディーゼル発電機頼りになっていたであろう。
 今回、非常用ディーゼル発電機は5台が待機していたが、その後 起動試験をしたら1台が止まっている

 5 電源設備の損傷火災は過去に何度も経験

 1、2号機のどちらの変圧器でも設備損傷で絶縁油の大量流出が発生している。設備が破損してしまうと、短期間に回復は不可能、今回の地震でも復旧には半年かかるとしている。

 これと同じ状態になったのが、2007年7月の柏崎刈羽原発だ。
 運転中だった3号機は、地震の揺れにより電源設備が損傷、アーク放電火災が発生し絶縁油に引火、黒煙を上げて燃え続けた。運転中の原発は送電系統に大電力が流れているため設備損傷による放電火災が起こりやすい。
 地震発生と同時に原子炉はスクラムしたので発電もそこで止まったが発電機は直ぐには止まらない。惰性で回り続けるときに「コーストダウン電流」が発生する。柏崎刈羽原発3号機でも、そうした電流が流れていた。
 さらに、地震により地盤が変状したため、原子炉建屋に隣接する起動変圧器の位置が原子炉建屋とずれてしまい、間をつなぐ回路が破損したためアーク放電火災が発生した。
 その火花は難燃性の絶縁油でも発火させ、起動変圧器が炎上した。

 まとめると、次の三つの条件で火災は起きた。
  1.起動変圧器と変圧器接続母線部が上下にずれたこと。
  2.起動変圧器二次側から絶縁油が漏れ出したこと。
  3.起動変圧器二次側の母線接続ダクト内で回路の短絡によりアーク放電が発生したこと。
 このうち、志賀原発では絶縁油の漏えいが起きた。

 もし(志賀)原発が稼働していたら大電流が流れていてアーク放電火災が起きた可能性は否定できない。その場合、かなりの確率で火災に至ったと考えられる。なお、絶縁油は引火点が130度、発火点が250度以上とされている。

 東日本大震災でも 女川原発1号機のタービン建屋の配電盤で発生した遮断機損傷によるアーク放電火災 は、10台並んでいた変圧器の全てに可燃性ケーブルを伝って延焼、8時間燃え続けた。この火災で残留熱除去系のポンプが停止している。
 福島第一原発事故にかき消された感があるが、地震に伴う重大な損傷だった。

 起動変圧器の絶縁油が漏れた際に、電源ケーブルが損傷し、アーク放電が発生、それにより絶縁油やケーブルが発火して火災事故になる。原発火災の典型的なストーリーだが、確実な対策はない。
 志賀原発の基礎マット上の加速度は399.3ガルだが2007年に柏崎刈羽原発3号機の基礎マット上で観測された地震動は南北308、 東西384 、上下311ガルと、ほぼ同等程度。それで柏崎3号機では変圧器火災が起きていた。

 地震による外部電源の喪失も回避不可能だ。
 今回の志賀原発の電源遮断は構内変圧器の損傷が原因とされるが外部の系統にも損傷が起きている。このうち6.6万ボルトの 赤住線では、送電は続いていたものの設備に損傷 が見つかっている。修理のため回線を切り替えて修理し、現在は復旧しているという。
 最大震度を記録した地域が志賀原発の北側に広がっていて、送電系統の南側は比較的揺れが小さかったにもかかわらず、こうした事態になる。
 志賀原発の周囲が震度7クラスで揺れていたら全系統は寸断されていた。加えて構内電源設備も損傷し、外部からの受電はできなくなり、頼みは非常用ディーゼル発電機と電源車だけになっていた可能性が高い。

 6 志賀原発直下で今回と同じ地震が起きたら・・・

 今回の地震は志賀原発の建っている地域では震度6弱である。原発の地震計も震度5強だ。
 しかし志賀原発の直下や沖合には今回の地震を起こした断層と同じ規模の活断層がエネルギーを溜めたまま存在すると考えるべきだ。
 それが活動したら珠洲市や輪島市と同様の地殻変動が起きる可能性が高い。

 東北大の遠田晋次教授は1月9日に、今回の地震の規模は、この地域で3000〜4000年の間隔で発生するものだったとする見解を東北大の報告会で発表している。
 「日本海側は活断層の密集域で、長期評価や強震動評価を行う必要がある。 今回の地震が半島南西側の活断層に影響し、別の地震の発生確率が高まる可能性もある 」としている。
 半島南西側の活断層とは、まさに志賀原発の沖合や直下におる断層も含まれるのである。

 このような地震では、原発の「止める、冷やす、閉じ込める」機能に、どのような危険性をもたらすのか。

 「止める」は先に書いたスクラム失敗の可能性がある。

 「冷やす」は、海水の取水ができなくなる事態だ。今回の地震では輪島など能登半島の海岸線85キロから90キロにわたって4メートル以上の隆起が観測された。 原発の取水口は海面から約6.2メートル下 だが、4メートル隆起すれば余裕はわずか2.2メートルに過ぎず、それ以上の隆起が起きない保証はない。また、4メートルもの隆起が起きれば、原発まで約200メートルの距離を通る地下の海水管が無事で済むとは考えにくい。海水管が走るトンネルも多数の断層が存在しているから、この影響で途中でつぶれたら海水取水はできなくなる。さらに引き波4メートルを想定して造られた海水取り入れ口は合計8メートルも水面が下がれば取水できない。志賀原発が想定していたのは引き波で4メートルの海面低下だけだ。

 「閉じ込める」については冷やす能力が失われればどうなるか、福島第一原発事故で経験したとおりだ。使用済燃料は今回の場合は13年も止まっていた原発だから、発熱量は大きく下がっていた。そのため冷却が止まった場合でも時間的に余裕があった。しかし運転中の原発の場合は、スクラムが機能して原発が停止しても、炉心の冷却が止まれば数時間でメルトダウンする。最初の数時間が決定的に重要である。
 電源火災や送電線の遮断に加えて、海水冷却設備の破壊が起きれば福島第一原発事故を再現する危険性が高まる。

 7 志賀原発直下でも起こり得る地震

 今回の能登半島地震と同程度かそれ以上の地震は、今後は半島中部や下部でも起こり得ると考えなければならない。
 志賀原発の沖合にある断層群や佐渡沖に向かって伸びる断層で地震が発生しやすくなっていると、東北大学の遠田晋次数授らが解析で明らかにした。このうち西端部分には志賀原発のある志賀町沖合も含まれている。
 遠田教授は今回の活動は3,000年に一度の規模である可能性があるとしている。これほど長いスパンの地震活動は、文献記録はなく地質調査などで見つけ出すことも難しい。加えて海底断層となると、原発の立地調査に伴う超音波では却って起こらないとの結論に結びつく調査ばかりを行っている。実際に能登半島地震の震源断層になったと思われる海岸線の断層が連動する可能性を示す研究があるのに北陸電力も国も無視していたため今回の地震活動を見逃した。

 8 地震の想定は誤り

  志賀原発訴訟において井戸謙一裁判長は2006年に「運転差止」の判決 を出した。その後高裁では棄却されたが、その時の 判決文 は実に的を射た正確なものであった。

 「マグニチュード6.5を超える大規模な陸のプレート内地震であっても、地震発生前にはその震央付近に対応する活断層の存在が指摘されていなかったと言われている例やマグニチュード6.5を超える大規模なプレート内地震が発生したのに、これに対応する地表地震断層が確認されなかったと言われている例が相当数存在している」(中略)「そうすると、被告が設計用限界地震として想定した直下地震の規模であるマグニチュード6.5は、小規模にすぎるのではないかとの強い疑問を払拭できない。」

 今回の能登半島地震はマグニチュード7.6だが、この地震を起こした断層は 未知の断層であるとの見解も地震調査委員会の平田直会長から 示されている。仮に知られていた断層が連動して活動していた場合でも、事前にこれだけの規模で活動することは予測されていなかった。

 判決は地震想定が過小であることを指摘し
 「被告が想定した基準地震動S1、S2を超える地震動を生じさせる地震が発生する具体的可能性があるというべきである。そのような地震が発生した場合、被告が構築した多重防護が有効に機能するとは考えられない。」と結論づけている。

 これに関連し、 日本活断層学会の鈴木康弘会長は「M7級想定できたー沿岸活断層、認定急げ」 と題して問題提起の文書を発表、
 「能登半島北岸の直線的な海岸線が、沿岸の海底にある活断層の活動によってできたものであることを知る研究者は多かった。地震は当然想定されるべきだったが、それができず不意打ちの形になってしまった。」として、
 このような事態になった原因の一つに原発の存在を指摘する。
 「海底活断層は短く認定されがちで、能登半島北岸沖にある断層の長さも20キロ程度の短い断層に分割されるとされていた。短い断層は大きな地震を起こさないとされるため、大地震の危険性を見逃すことになる。」
 その原因が原発立地による超音波探査で
 「2007年の新潟県中越沖地震も海底活断層によるものだったが、東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)を巡る政府の審査では音波探査が過度に重視された結果、大幅な過小評価になっていた。」と指摘し、
 安全性の確認のために行われているはずの断層調査が、却って原発立地に不都合な断層を短く判定し、大地震発生の可能性を隠蔽する手法として使われる傾向にあることを批判している。

 志賀原発の近傍にある海底断層や陸上で知られている断層は、新規制基準適合性審査での評価では細かく分断された断層を個別に評価し、連動して活動する想定は不十分だ。例えば志賀原発に最も近い福浦断層と兜岩沖断層について、連動する可能性を指摘する論文もあるが北陸電力は
 「いずれか一方の断層のみが震源断層として活動すると判断されることから、両断層の連動を考慮しない。」としている。

 そして今回の地震で動いた断層は大きなものだけでも3つほどあるとみられ、連動したことで大地震を生み出したと考えられているのだが、笹波沖断層帯と能登半島北部沿岸域断層帯の連動性についても
 「笹波沖断層帯(全長)と能登北部沿岸域断層帯間については、笹波沖断層帯(束部)と猿山沖セグメントの連動を考慮した文献はない。さらに、当社の連動の検討結果からも、連動する可能性を示唆するデータがなく、笹披沖断層帯(全長)、能登半島北部沿岸域断層帯の連動を考慮したケースとは異なることから、連動を考慮しないと評価した。」としているのである。

 プレート境界からの強い力が働く場所としては、能登半島の先端部も中央部も下部も変わらない。その中で志賀原発が建っている地域では2006年の判決で北陸電力が過小評価していると指摘された邑知潟断層帯は重要な活断層である。

 さらに今回、 原発からわずか9キロ北にある富来川南岸断層も動いた と考えられている。この断層は能登半島地震で動いた断層から20キロ離れており、これほどの距離で活断層地震が連動した記録は過去にないという。記録が可能になったのはここ100年程度だから、その間ということになるが、いままで地震を起こす断層が20キロも離れて活動することは想定外だった。

 しかも富来川南岸断層は北陸電力の想定では内陸の9キロしか活断層と認めていない。しかし海中にもその断層は伸びており、過去6000年以上の期間、能登半島を隆起させ続けてきた活断層であると、立石雅昭新潟大学名誉教授(新潟県技術委員会委員)は次のように書いている(原発ゼロと自然エネルギーブログより)
 『2007年に発生した能登半島地震と同様に、北にのし上がるような逆断層の富来川南岸断層が地震を起こし、その度に隆起したとすれば、12〜13万年前の中位段丘の段丘崖に刻まれた海食ノッチ(窪み)も、北に向かって高くなるであろうという予測のもとに,海食崖のノッチの高度を敷地の南から富来川まで測定しました。予測は的中、ノッチは明らかに北に向かって高くなっていきました。1箇所で2〜3露頭、測定しました。図の赤は高い方のノッチ、青は低いノッチです。場所に寄れば、3段あるいは4段あります』
 『このノツチの高度分布から,富来川南岸断層が12〜13万年間、継続的に隆起してきたことは明らかです。しかも、低い方の6000年前にできたと思われるノッチも北に向かって高くなっていますから、この北に高くなる運動は6000年前以降も同じ傾向で続いていることも明らかです。』

 さらに、大きな地震の動きに引きずられて動く断層がある。これを「お付き合い断層」と呼ぶそうだ。この断層は自ら活動することはないが、近くで大きな地震が発生すると、その力によって動かされる。志賀原発の直下には数多くの断層が走っており、これらは活断層ではないとしているが、近くの地震で動いた場合、上に建っている原発は大きな被害を受ける。志賀原発に限らず原発の多くは敷地内に断層を抱える。これらが「お付き合い」で動く可能性まで否定することはできない。

 9 「原子力防災」は崩壊している

 原発が過酷事故を起こした際には、原子力防災計画に基づき、住民は避難しなければならない。避難範囲は、国の防災対策指針に基づけば稼働中の原発で全交流電源喪失や冷却システムの全停止で原子力災害対策特別措置法第15条に基づき、原子力緊急事態解除宣言が出されたら5キロ圏内に設定されているPAZ(予防的防護措置を準備する区域*)の住民は、30キロ圏外に避難を開始するか、避難準備を開始することになっている。同時にUPZについては、屋内退避が発令される。その後、放射性物質の拡散が続き空間線量が一定水準以上になった場合、UPZにも避難指示が出される。

 今回の地震で志賀原発が施設内緊急事態や全面緊急事態が発生していたら、UPZから避難を開始しなければならないが、周辺道路の状況は深刻なものだった。
 特に原発から北側と東側では、主要道路のほとんどが地震の影響で遮断されていた。
 志賀原発防災計画において最も重要な道路である「のと里山海道」は大きな被害を受けていた。金沢市から能登半島へ延びる道路は、至る所で道路が陥没して車が通れない状況になり、羽咋市の柳田インターチェンジから、のと里山空港インターチェンジまでの上下線で通行止めになっている。

 原子力防災に関しては、規制委は原子力防災対策指針を策定している。しかしこれは原子力事業者への規制基準にはなっていない。原子力防災も地域防災計画の一つとして、自治体が防災計画を作ることになっている。しかし能登半島地震の実態は、指針の内容さえも機能しない現実を示している。

 この事態について、山中伸介原子力規制委員長は次のように述べている。
 『基本的に我々は基準を満たしていれば許可をいたしますけれども、 稼働について何か我々が、その許可をするということはございません し、防災基本計画を立てられるというのは、自治体と内閣府の連携によって立てていただくというのが基本的なところかというふうに思います。』
 『我々原子力規制委員会は、原子力災害の複合災害を受けたときにどうすべきかというのを科学的、技術的に助言をする、そういう組織であるというふうに理解をしておりますし、決して稼働を我々が何か許可をしたというわけではございませんし、自治体のサポートを、科学的、技術的に原子力について行うのが我々の務めだというふうに考えています。』
(1月24日記者会見議事録より)

 原子力防災計画については、自治体と内閣府の原子力防災会議の責任であり規制委はサポートの立場でしかない。新規制基準適合性審査を通ってしまうと防災計画が崩壊状態でも助言しかしない。しかし防災指針は規制委の責務である。その規制が実行不可能な状況に現在能登半島が置かれていることぐらいは理解できるだろう。そのことをどのように感じているのか。特に、再稼働した原発の立地自治体は深刻に考えるべきだ。

 *PAZ(Precautionary Action Zone:予防的防護措置を準備する区域)。実用発電用原子炉の施設において異常事象が発生した際、EAL(緊急時活動レベル)に基づいて、放射性物質放出の有無にかかわらず屋内退避、避難などの予防的防護措置が迅速に行えるように準備する区域を言う。
 *UPZ(Urgent Protection action planning Zone:緊急時防護措置を準備する区域)。実用発電用原子炉の施設において異常事象が発生した際、OIL(運用上の介入レベル)及びEAL(緊急時活動レベル)に基づいて、住民等の緊急防護措置(避難、屋内退避、安定ヨウ素剤の予防服用等)が迅速に行えるように準備する区域を言う。


 10 大地動乱の時代に突入している

 石橋克彦神戸大学名誉教授の提唱した「大地動乱の時代」は、 1993年北海道南西沖地震(M7.8) に始まっていた。( 1983年の日本海中部地震(M7.7) も含めれば、1983年からということになる。)

 2011年の東日本大震災を挟み、1993年2月7日能登半島沖の地震(M6.6)、 1995年兵庫県南部地震(M7.3)2000年鳥取県西部地震(M7.3)2004年新潟県中越地震(M6.8)2007年能登半島地震(M6.9)2007年新潟県中越沖地震(M6.8)2008年岩手・宮城内陸地震(M7.2)2016年熊本地震(M7.3) そして 2024年1月1日の能登半島地震(M7.8) 。たった20年ほどの間に10回もの地震が発生している。

 これらは大平洋プレート、フィリピン海プレートからの巨大な力によりユーラシア・プレート内に溜まったストレスが解放されて断層が動いた地震だが、能登や新潟では何度も繰り返し起きてきた。それだけ地震を起こすエネルギーが溜まっているところと言える。
 しかし動いていない地域も地下ではストレスが溜まった断層が存在している。

 しかも、南海トラフ地震の切迫度はこれまで以上に高まっているとの指摘もある。歴史地震を見ていけば、プレート境界巨大地震の前後に内陸地震が多発してきたのは事実だ。
 2004年、2007年の中越、2008年の岩手・宮城内陸地震の4年ほど後に東日本太平洋沖地震が発生している。

 2024年能登半島地震で、南海トラフ地震との相関を感じずにいられない。その前後には必ず、北陸地方から中国、四国、九州地方の内陸の地殻内地震が多発すると考えられる。特に、中央構造線は巨大な活断層で、これが動けば瀬戸内海を中心に甚大な被害を出す。その真ん中に伊方原発が建っている。
 若狭湾の原発群も、甲楽城・浦底断層系、上林川断層、熊川断層等が活動したら、原発に深刻なダメージを与える恐れがある。
 他にも、警固断層と玄海原発、日奈久断層と川内原発、宍道断層と島根原発など、原発の周囲には大きな断層がたくさんある。

 今すぐにしなければならないことは、来るべき地震に備えて、今から「止める」「冷やす」「閉じ込める」対策を取ることである。
 運転中の原発を「止める」、核燃料をプールに移して「冷やす」、核燃料や放射性廃棄物を堅牢な施設に移して「閉じ込める」対策を実施し、地震に遭遇しても少なくても「燃料溶融」にだけは至らないように対策をすることだ。
 これに失敗し、第二の東電福島第一原発事故を引き起こしたら、日本は今度は世界中から非難を浴びることになる。制裁も行われるだろう。
 何処の原発であっても、世界中に放射性物質の拡散を伴う災害をまき散らすことになる。それを数十年に二度も起こす国は、非難されても仕方がないのである。
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