日本・韓国・オーストラリアの原子力潜水艦問題
 
初めに
 日本には非核三原則があるので、原子力潜水艦(原潜)は持てないはずです。
 しかし、防衛省の有識者会議の提言、高市政権の誕生等により、原潜を保有しようという動きが顕著になってきています。
 そこで、たんぽぽ舎共同代表の山崎久隆氏の「高市政権の成立により具体化する 原潜導入計画という『核の軍事利用』への道 防衛力『抜本的強化』と原子力潜水艦導入構想の危険性」への記事の冒頭部を以下に紹介します。

<<<引用開始

 2025年9月19日、防衛省の有識者会議は「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議報告書」と題する文書を公表した。その中で注目すべきは、「VLS(垂直発射装置)搭載潜水艦の整備」と「次世代の動力の活用」が明記された点である。

 この「次世代動力」とは、実質的に小型原子炉による原子力推進艦、すなわち原潜を意味している。複数の関係者発言からも、この意図は隠しようがない。報告書はあたかも「技術的検討」と装っているが、実際には原潜導入への政策的地ならしにほかならない。日本の防衛政策の根幹を覆し、憲法・法律・国際規範のすべてに抵触する危険な内容である。

 さらに10月に発足した高市政権は、自民党と日本維新の会による連立政権として誕生した。両党が一貫して主張してきたのは「防衛力の質的強化」「抑止力の次元の違う強化」であり、事実上の「攻撃型軍拡」路線である。この政権の下で、「検討段階」とされてきた原潜構想は、いよいよ現実の政策課題として具体化し始めている。

 「防衛力の抜本的強化」とは、単なる装備更新ではない。日本を「核の軍事利用」へと踏み込ませる質的転換を意味する。戦後日本が築いてきた「非核・専守防衛・平和国家」という基盤を根底から破壊する動きであり、断じて看過できない。

>>>引用終了

 日本・韓国・オーストラリアの原潜についての記事一覧を以下に作成しました。原潜問題の理解の一助になれば幸いです。
 ただし、軍事関連の記事は、発表者の立場等により、大きな偏りが出ている場合がありますので、内容の正当性等は読者の良識で判断してくださいようお願いします。

 

●記事一覧
=============================
●国産-原子力潜水艦-提言_
=============================
(1) 衆議院_内閣委員会 1960/3/11 第34回国会 衆議院 内閣委員会 第15号 昭和35年3月11日
 出席委員    委員長 福田 一君
   (中略)
   理事 石山 權作君
 出席国務大臣
   (中略)
   国務大臣 中曽根康弘君(※)
   (中略)
001 福田一
○福田委員長 これより会議を開きます。
 科学技術庁設置法の一部を改正する法律案を議題とし、前会に引き続き質疑を許します。石山權作君。
   (中略)

024 石山權作
○石山委員 せんだってあなたに日本の原子力兵器ができるかといったら、できないとあなたはお答えになりました。それは地方新聞に出ておりましたよ。ですからあなたのしゃべることは影響がある。(中略)海運の場合は低姿勢で、商業ベースに合うまで基礎を築かれる、こういうのは私も大へんいいことだと思っております。ただあなたたちになりますと、潜水艦の方でも一つ利用してみようかというふうなことになりかねない。これは今言われたようにいわゆる商業ベースからすれば三倍も四倍もかかって、採算のとれないコストになるわけですから、そういうところまであなたの方で研究なさるまいと思いますが、海の底に沈むいわゆる原子力の利用というふうなことをお考えになっているわけですか
 
025 中曽根康弘
○中曽根国務大臣 自民党は日本を近代国家にするために非常に科学技術政策を重要視してくれまして、そのために進歩的政策をとってくれたのでありますが、それでもまだ外国から比べると足りないと私は思います。(中略)
 潜水艦につきましては、日本は原子力関係の兵器は持たないということをちゃんと内閣もきめておりますし、また実際実力自体がそんなことはありませんので、かりに万一やろうといってもやれるものではありません。いわんや内閣がそういう方針を持っておるのでありますから、原子力潜水艦とか原子力商船というものを作る段階ではまだ絶対ないのであります。
 
※引用者注:この時の中曽根氏の肩書は第2次岸内閣改造内閣の科学技術庁長官かつ原子力委員会の委員長である。(WIKIより)

(2) 中国 1983/12/10 核兵器搭載疑惑がある英空母インビンシブルの日本寄港が明らかに
(3) 衆議院_質問主意書 1983/12/28 核搭載可能艦の寄港に関する質問主意書_提出者_岩垂寿喜男
核搭載可能艦の寄港に関する質問主意書
右の質問主意書を提出する。
提出者  岩垂寿喜男
----------------------------------------------------------
 申すまでもなく「非核三原則」は、日本政府が内外に宣言した国是であり、中曽根総理大臣も再三にわたつて、これを厳守することを国民に公約してきました。
 しかし、日本政府は核搭載の疑いの濃い原子力空母エンタープライズやカール・ビンソン、さらに原子力潜水艦の寄港を政府の折衝や核の有無の確認などをあいまいにしたまま、「アメリカ政府からの事前協議がないから、核兵器は持ち込まれていないと確信する」という口実で承認してきました。
 これらの経過が、国民の疑惑と不安を強めていることは否定すべくもありません。 
 そこでこれに関連して、以下質問いたします。

一 英国の核搭載空母インビンシブルの寄港計画が、英国政府の方針変更によつて中止されたとのことですが、この問題についての日英両国政府の交渉の経過を明確にされたい。
二 核の有無を明らかにしないアメリカ以外の第三国の核搭載可能艦の寄港については、今後どう対応されるのか、その原則を明確に示されたい。
----------------------------------------------------------
答弁本文情報
内閣総理大臣 中曽根康弘
----------------------------------------------------------
一について  英国政府は、インビンシブル等の英国艦船が昭和五十九年初め我が国を親善訪問したいとして、我が国の意向を打診してきたが、昭和五十八年末、この訪問計画についてはもはや検討しないことに決定した旨通報してきたものである。
 政府は、英国政府に対して、将来の英国艦船の親善訪問を原則として歓迎する意向を表明し、また、我が国は非核三原則を堅持するとの立場を説明した。

二について
 外国艦船の我が国への寄港については、今後とも、非核三原則を堅持するとの立場を踏まえて対処する所存である。

(4) ATOMICA 1998/2/1 軽水炉
PWRは、最初、原子力潜水艦用として開発され、その後逐次開発・改良が重ねられ現在にいたっている。BWRはPWRの開発にやや遅れて開発された。

(5) 中国 2002/5/26 原潜・空母 サンディエゴ海軍基地 浮かぶ原子炉、街に脅威 汚れる海
 1954年、世界初の米国原潜ノーチラス号が進水する。これまでに就役した原潜は世界で430隻を超える。建造数が最も多いのはロシア(旧ソ連)の約230隻。第2位は米国の約190隻で、うち49隻は弾道弾発射型である。米海軍は原潜のほかに、建造中を含め11隻の空母と9隻の巡洋艦を保有する。

(6) 乗り物ニュース 2018/8/24 原子力と通常動力でどう違う? 日本に原潜が不要な理由
 原子力潜水艦を持つ国は2018年現在、アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス、インドの6か国に限られます。
 この米ロ中3カ国は自国から離れた遠い海に出て航海することを考えているということです。その場合、原子力潜水艦の持つ航続距離と快適性が不可欠なものになります。

 日本の国土面積は約38万平方キロメートルと、陸地だけでいえば世界第61位の広さです。(中略)これだけ広範囲に渡る守備範囲を持つ海上自衛隊ですが、原子力潜水艦は必要ありません。なぜならば、日本の防衛の基本理念が「専守防衛」だからです。
 専守防衛を基本理念にしている我が国の海上自衛隊は、自国から遠く離れた海での潜水艦の運用は考えていません。海上自衛隊が相手にするのは、我が国に対して侵略してくる脅威です。そのため、自らが外国に赴いて戦闘するということはないからです。

 原子力潜水艦は、長期間に渡って潜航し続けることができますが、難点があります。それは「うるさい」ということです。原子炉で発生させた蒸気を使ってタービンを回し、その力でプロペラ軸を回しますが、この時に使う減速歯車が騒音の原因といわれています。
 かつてに比べ騒音レベルは下がってきているといいますが、頻繁に原子炉の停止・再稼動をさせることが難しい原子力潜水艦においては、基本的にこのポンプの動きを止めることはできません。

 対する通常動力潜水艦は、原子力潜水艦が不得意とする静粛性に優れています。なぜならば、ディーゼル機関を止めてバッテリー駆動に切り替えることによって、艦内で発生させる音をほぼ皆無にすることができるからです。
 海上自衛隊の「そうりゅう」型潜水艦には、新たに「AIP(非大気依存推進)機関」が搭載されました。これは簡単にいうと、ヘリウムガスを加熱、冷却して得られる体積の変化を利用し動力を得るという装置です。これにより、従来のバッテリー駆動と比べて潜航時間が延びたといいます。

 海上自衛隊は、敵性潜水艦の行動を探知するべく、日本の近海に潜んでいます。もし、敵性潜水艦が近づいてきた場合、ディーゼル機関を停止させて、補助動力装置に切り替えます。ここで海上自衛隊の潜水艦は、ほぼ無音状態になります。
 専守防衛を掲げる日本の場合、原子力潜水艦よりも通常動力潜水艦の方が圧倒的に有利に戦うことができるのです。

(7) ヤフー 2021/11/19 日本は原潜を保有すべきか 世界の海軍専門記者に聞いた(上)
 オーストラリアが9月、アメリカとイギリスとの新たな安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」を通じて、原子力潜水艦を導入することを決めた。また、今や韓国と北朝鮮の南北朝鮮も原潜の保有を目指している。
 日本を取り巻く近隣諸国での原潜保有計画が進む中、9月の自民党総裁選では、4候補のうち、河野太郎、高市早苗両氏が「原潜保有を検討すべき」との考えを示した。 
 
 日本は原潜を保有すべきかどうか。ジェーン年鑑を発行し、軍事情報分析で知られる英ジェーンズ・グループの新旧2人の海軍担当専門記者に聞いた。
 1回目のこの拙稿では、シンガポール在住の国際軍事専門誌『ジェーンズ・ネイビー・インターナショナル』のリズワン・ラフマット記者の見方を紹介する。
 
 ――アメリカが将来、中国に対峙するため、日本に南シナ海での海自潜水艦による共同監視活動を求めてこないか。そして、そのために日本に原潜の保有を求めてくる可能性はないか
 「その可能性は低いだろう。南シナ海は潜水艦が入り交じり、非常に混雑している。ベトナムタイなど東南アジア諸国はますます潜水艦を購入している。これに加え、アメリカやオーストラリア、中国もこの地域に潜水艦を派遣している。このような状況の下、潜水艦の衝突事故が現実の脅威となり、周辺諸国はそれを防ぐためのプロトコル(規約)を結ぼうとしている。この新たなプロトコルは『水中CUES(海上衝突回避規範)』となるだろう。このような混雑した状況で、アメリカが日本に原潜を配備させて南シナ海に派遣し、貢献を求めるという可能性は低いと考えている」
 
 ――日本には原潜を建造する技術が十分にあると思うか。
 「日本の原潜建造は挑戦的(チャレンジング)だろう。よく知られているように、日本は非核三原則を堅持し、核武装と原潜保有に反対してきた。日本は原子力発電所での経験はあるが、これまでの過去の立場を考えると、兵器や艦船、潜水艦向けに核技術を小型化する専門性は有していないかもしれない。このため、日本が原潜の保有を決めた場合には、海外のパートナー国との協力が必要になるだろう」

(8) ヤフー 2021/11/20 日本は原潜を保有すべきか 世界の海軍専門記者に聞いた(下)
 「国民の命や平和な暮らしを守るために必要なものは何なのか。あらゆる選択肢を排除せず、冷静かつ現実的な議論をしっかり突き詰めていく」
 岸信夫防衛相は11月12日、国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の3点セットの来年末までの改定に向けて設置した「防衛力強化加速会議」の初会合でこう述べた。
 
 「あらゆる選択肢を排除せずに議論する」と言うのであれば、この会議で日本の原子力潜水艦の保有の可否は議論されるのか。
 実は政府は2004年に3度目の防衛大綱(16大綱)を策定するのに合わせ、2001年に極秘に原潜保有の可否を検討した。しかし、この時は原子力基本法との法的な整合性や予算、技術運用面で課題があり、断念したとされる。
 
 2回目のこの拙稿では、イギリス在住の海軍専門記者兼アナリストのティム・フィッシュ氏の見方を紹介する。
 
 ――オーストラリアが原子力潜水艦の導入を決め、南北朝鮮も原潜の保有を目指している。日本も原潜を保有する必要があるか。
 「日本には攻撃型原潜(SSN)は必要ない。日本の海上安全保障上の主な脅威は中国と北朝鮮であり、両国とも地理的に極めて近い。海上自衛隊の通常動力の攻撃型潜水艦(SSK)は、日本海と黄海、東シナ海、南シナ海、さらには西太平洋、インド太平洋海域で活動するための優れたプラットフォーム(基盤)になっている」
 「オーストラリアが最終的に攻撃型原潜を選んだ理由は、フランスとの契約で当初得る予定だった12隻の通常動力型潜水艦を保有したとしても、オーストラリア海軍がインド太平洋地域に常時2、3隻以上を派遣することが難しかったからだ。というのも、オーストラリア海軍の基地は、潜水艦を運用する海域とはかなりの距離があるためだ。
 「日本が原潜を建造する場合、それを正当化する理由は『主要な海軍大国としてのステータスシンボル(地位の象徴)を得る』ということでしかない。現実的な観点から見ると、原潜は海自の活動に必須ではない
 
 ――日本には原潜を建造する技術が十分にあると思うか。
 日本が本当に望むのであれば、日本には原潜を建造するための資金も技能も技術もある。日本は商業用の原子力産業を有している。
 日本はオーストラリア、いや世界のどの国よりも原潜を建造するには良い位置にいる。本当のチャレンジは『原潜建造は価値のある投資である』と国民を説得できるかどうかにある

(9) 赤旗 2022/6/21 維新・国民 原潜保有論の愚 「原子力の平和利用」に反する
 ロシアのウクライナ侵略を悪用した大軍拡をめぐり、日本維新の会や国民民主党などは「日本も原子力潜水艦を保有すべきだ」と主張していますが、原潜保有は一般的な軍拡とは異質の危険性や問題点を抱えています。
 日本が保有すれば「原子力の平和利用」を基本理念とした原子力基本法に真っ向から反します。
 防衛省が2022年度予算に計上した通常動力型潜水艦の建造費は1隻736億円ですが、米海軍が20年に契約した、核兵器搭載可能なコロンビア級弾道ミサイル搭載型潜水艦(SLBM)の1隻あたり平均建造費用は約75億ドル。急激な円安の下、換算すると1兆円を超えます
 どう考えても「専守防衛」や非核三原則といった国防の基本方針に真っ向から反します。

(10) 財界 2022/7/20 元防衛大臣・森本敏「日本の課題は国家と国民の主体性と自主性を取り戻すこと」
―主体性を持つべきというテーマは、戦後77年一貫して提起されている課題ですよね。
 
 森本(元防衛大臣) 55年体制は崩壊しました。今は次の時代に備える時期です。例えば、核問題を議論するなら、日本は独自に核を保有することは憲法上できませんが、非核三原則(核を持たず、作らず、持ち込ませず)を改正して、三番目の米国による核の持ち込みを許し、自ら原子力潜水艦を保有するべきだと思います。

(11) モーターファン 2023/12/26 「そうりゅう型」潜水艦と非大気依存推進(AIP)システムの特徴
 海上自衛隊の通常動力型潜水艦「そうりゅう」型の1番艦は2009年に就役した。以降、同型艦が相次いで建造、就役している。本艦の主機にはディーゼル・スターリング・エレクトリック方式を採用している。
 
 非大気依存推進(AIP)システムと呼ばれる方式の機関部を搭載した潜水艦だ。AIPとは「Air-Independent Propulsion」の略称だ。AIPシステムの中核は液体酸素とディーゼル燃料(ケロシン)を使う外燃機関のスターリング機関発電機が担う。スターリング機関(※)とは、シリンダー内のガスや空気を外部から加熱・冷却し、その体積変化(加熱膨張と冷却収縮)から運動(仕事)を取り出す機関を指す。
 
 しかし原潜は騒がしい。活動中の原潜の原子力機関は止めることができないから、静音化技術で対策されているとはいえ、稼働中の機関部からの騒音をなくすことはできない。一方、通常動力艦は機関を完全停止することが可能だ。
 
 2020年就役の11番艦「おうりゅう」ではAIPシステムにリチウムイオン蓄電池を採用した。従来の鉛電池より各要素で高性能であり、潜水艦での使用特性に合っている。蓄電池技術の進化にともなって水中連続航行性能も向上している。
 
(※)引用者注:出力応答性も悪いため自動車やオートバイなどの乗り物に使用するのにも不向きで、潜水艦の補助動力(AIP)など効率よりも粛音性能を要求されるような特殊な事例でしか乗り物での実績がない。(WIKIから引用)

(12) 日経 2024/2/19 防衛費43兆円の増額、官民の技術開発を検討 有識者会合
 防衛省は19日、防衛力の抜本的強化に関する有識者会議の総会を初めて開いた。座長の榊原定征・経団連名誉会長は2023〜27年度の5年間で43兆円を投じる計画の防衛費を巡り、円安や物価高騰を踏まえた増額も視野に入れた議論を提起した。
   有識者会議は2022年12月に決定した安全保障関連3文書に基づき「戦略的・機動的な防衛政策の企画立案」の強化へ助言を得るために設置した。宇宙・サイバー・電磁波の領域も扱う。個別の施策は各部会で議論する。
 森本敏元防衛相ら防衛省・自衛隊の元幹部に加え、澤田純NTT会長や若田部昌澄早大教授といった企業幹部や経済の専門家らが参加する。

(13) 日経 2024/9/5 河野氏「自衛隊の原潜配備、議論を」 総裁選の政策発表
 河野太郎デジタル相は5日、自民党総裁選(12日告示ー27日投開票)で掲げる政策を発表した。自衛隊への原子力潜水艦配備について議論する必要があると述べた。
 「日本も原潜を配備して(他国の潜水艦が)東シナ海から太平洋へ出るところを押さえる戦略をとる。こういう議論をしなければいけない時代だ」と説明した。米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に日本が加わることも提起した。

(14) 中国 2024/9/26 総裁選 非核三原則見直し論なぜ 「持ち込ませず」是非
 非核三原則の争点化に動いたのは、保守層の支持が厚い高市早苗経済安全保障担当相だった。今月9日のテレビ番組で「『持ち込ませず』は見直してもいいのではないか」と訴えた。核を積んだ米艦船の領海通過を有事でも拒めば、「核抑止力が全く機能しない」と、以前から主張している。
 
 石破茂元幹事長が政策発表記者会見で呼応する。日米連携を密にしておかないと「核の傘」を差してもらえないと主張。「持ち込ませず」の原則を形骸化する核共有について「三原則に触れるものでは基本的にはない。この話はもう少し真面目にしなきゃいかん。核攻撃を受けた国だけに」と述べた。
 
軽武装・経済重視」を理念とした宏池会(旧岸田派)出身の林芳正官房長官は5日の会見で「原子力基本法の現行解釈に従えば、わが国が原潜を保有することは難しい」と述べている。
 
-------------------------------------------------
   非核三原則を巡る歴代政権の主な動き
-------------------------------------------------
1957年5月 岸伸介首相が国会で答弁
      憲法解釈としては核兵器はもてるが、
      政策としては持つ意志がない
 
1963年3月 池田勇人首相が国会で答弁
      核弾頭を持った潜水艦は、
      私は日本に寄港を認めない
 
1967年12月 佐藤栄作首相は国会で答弁
      核は保有しない、核は製造もしない、
      核を持ち込まない。
 
1971年11月 非核三原則が衆院決議で「国是」となる
 
2002年5月 小泉内閣の福田康夫官房長官が非核三原則
      の見直しの可能性に言及
 
2009年9月 民主党の鳩山由紀夫首相が
      国連安保理首脳級特別会合で演説
      非核三原則の堅持を改めて誓う
  2022年2月 岸田文雄首相は非核三原則を盾に、
      安倍晋三元首相が唱えた「核共有」を否定

(15) 共同 2025/6/15 防衛費GDP比2%超提言 有識者報告書、原潜配備論も
 防衛省が設置した「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」は19日、政策提言をまとめた報告書を中谷防衛相に提出した。ロシアのウクライナ侵略を教訓に「防衛産業戦略」を新たに策定し、装備品の国内生産や継戦能力の確保に官民一体で取り組むよう求めた。抑止力・対処力の向上に向け、原子力潜水艦を念頭に「次世代の動力」を活用した潜水艦導入も提言した。

(16) 読売 2025/9/19 「次世代の動力」潜水艦や国営工廠など提言 有識者会議が防衛相に報告書
 報告書は長射程ミサイル発射装置を備えた潜水艦について「抑止力の大幅な強化につながるため、重視して整備を進めるべきだ」と指摘。長距離の移動や潜航ができるよう、従来の例にとらわれず、次世代動力を含む研究・開発を行うことを求めた。

(17) 時事 2025/9/19 潜水艦に「次世代動力」 装備移転の拡大提言―有識者報告書
 潜水艦に長射程ミサイルを積めば、日本海や東シナ海、太平洋に潜りながら広く敵の地上の攻撃拠点まで打撃力が届く。海に囲まれる日本は潜水艦を潜航できる海域が広い。敵から見ると、水中に隠れた発射拠点を探して破壊するのは難しい
 
 日本で原潜を巡る議論はタブー視されてきた。「原子力利用は平和の目的に限る」と明記する原子力基本法に反するとの見方がある。長射程ミサイルを積んだ原潜が遠く離れた海まで行くことは専守防衛から逸脱するとの指摘も野党の一部から出る。

(18) 日経 2025/9/19 原潜の導入議論へ布石 「動力は前例とらわれず」有識者提言
(19) 防衛力抜本的強化_有識者会議 2025/9/19 「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」報告書
●VLS(垂直発射装置)搭載潜水艦
 潜水艦は隠密裏に展開できる戦略アセットである。スタンド・オフ防衛能力を具備させれば抑止力の大幅な強化につながるため、重視して整備を進めていくべきである。長射程のミサイルを搭載し、長距離・長期間の移動や潜航を行うことができるようにすることが望ましく、これを実現するため、従来の例にとらわれることなく、次世代の動力を活用することの検討も含め、必要な研究を進め、技術開発を行っていくべきである。

(20) 赤旗 2025/9/29 主張 原潜保有 「攻撃的兵器」憲法は許さない
 VLS搭載の原子力潜水艦は、性能上、相手国国土の壊滅的な破壊のためにのみ用いられ、政府が憲法上いかなる場合にも保有が許されないとしている「攻撃的兵器」に当たり得るものです。
 「抑止力の大幅な強化」を理由にしていますが、こうした敵基地攻撃能力の増強は、米国の対中国軍事戦略に付き従い、東アジアの軍事緊張を激化させ、戦争の危険を高めるもので許されません。

(21) ハンギョ 2025/10/23 日本、防衛費「GDP2%以上」に向けて増額…原潜導入の推進も
(22) たんぽぽ 2025/10/25 原潜導入計画という「核の軍事利用」への道 山崎久隆
 1 憲法9条と専守防衛の原則を蹂躙する
 だが、長射程ミサイルを搭載可能な原潜は防衛装備ではなく、明白な「先制攻撃兵器」である。これは憲法9条が禁じる「武力による威嚇・行使」に該当する。
 
 2 原子力基本法・原子炉等規制法を無視した「違法」構想
 原子力基本法第2条は、「原子力の研究・開発および利用は平和の目的に限る」と定める。原潜の推進動力炉は、その目的が「軍事行動の遂行」である以上、明白にこの条文に反する。
 
 3 非核三原則とNPT体制を形骸化させる
 原潜導入には、高濃縮ウラン燃料の供与が不可欠である。オーストラリアのAUKUS協定をめぐり、IAEAは2023年に「原潜燃料供与がNPT体制の抜け道となる」と警告を発している。日本が同様の仕組みを導入すれば、NPTの信頼性は根底から揺らぐ。
 
 4 AUKUS型軍事連携による「従属型原潜導入」
 米議会調査局(CRS, 2023年報告)によれば、1隻あたりのコストは約45億豪ドル(約4.5兆円)に達する。この高額な艦艇を日本が導入すれば、防衛予算は膨張し、経済基盤を圧迫する。 「日米同盟強化」の名の下で進むのは、従属的軍事連携の深化であり、独立国家としての主体性の喪失である。
 
 5 「経済安全保障」政策による軍産複合体の再興
 6 国民的議論の欠如と民主主義の崩壊
 米国からの装備調達には、米側の機密保持契約が適用され、国内の検証・監視は不可能となる。このような手法は、国民の知る権利と文民統制を完全に形骸化させるものである。
 
 7 市民運動・反核運動の再生こそ急務
 8 「平和国家」から「潜在核国家」への転落を止めよ

(23) 東京 2025/10/27 高市政権が原潜保有の道に踏み込んできた
(24) 乗物NEWS 2025/11/4 潜水艦はなぜ黒い?GPSなしでも水中進む「海の忍者」
 一般的な護衛艦が灰色主体なのに対し、潜水艦が黒く塗られているのは、光の届きにくい海中で目立たないという効果に加え、より直接的な理由があります。
 船体表面は、敵のアクティブ・ソナー音波を吸収して探知されにくくする「吸音タイル」で覆われています。タイルの主成分であるゴムに、耐久性と吸音性を高めるカーボンブラックが配合されるため、必然的に黒くなるのです。
 
 航法には現在位置を推定する慣性航法装置(INS)を用います。ただ、INSは時間とともに誤差(ドリフト)が蓄積するため、定期的に浅い深度でマストを展開し、受信専用のGPSアンテナなどで位置を更新します。
 探知リスクが生じるのは、電波受信そのものではなく、浅深度への浮上やマスト展開に伴う視認・レーダー反射の増大という行為自体です。ゆえに、INSの高精度化は潜水艦の隠密性と直結します。

(25) 共同 2025/11/6 小泉防衛相、原潜の必要性に言及 「周りの国々は保有」
 小泉進次郎防衛相は6日のTBS番組で、原子力潜水艦導入の必要性に言及した。トランプ米大統領による韓国の原子力潜水艦建造承認に触れ「周りの国々は皆、原潜を持つ」と指摘。潜水艦の動力について「今までのようにディーゼルか、それとも原子力かを議論していかなければいけないくらい日本を取り巻く環境は厳しくなっている」と述べた。

=============================
●米国-韓国原潜建造-承認_
=============================
(26) ハンギョ 2025/7/18 韓国外相候補「米国と協議して原潜保有、原子力協定改正を検討」
(27) 産経 2025/9/28 ロシア、北朝鮮に原子炉提供か 潜水艦用、韓国報道
(28) 信濃毎日 2025/10/29 韓国、原潜開発を米に理解要請 「燃料供給を」
 【慶州共同】韓国の李在明大統領は29日に行ったトランプ米大統領との首脳会談で「韓国が原子力潜水艦の燃料供給を受けられるよう決断してほしい」と述べ、原潜の開発に理解を求めた。韓国が自ら原潜を建造して日本海などで防衛任務を担えば、米軍の負担軽減につながると主張。

(29) 産経 2025/10/29 韓国、原潜の保有は保革問わず歴代政権の「悲願」 中国刺激に懸念の声も
 韓国による原潜開発の着手は、北朝鮮が核拡散防止条約(NPT)からの脱退を宣言した1993年にさかのぼる。周辺国の脅威に対応するため、当時の金泳三(キム・ヨンサム)政権以降、水面下で計画が推進されたが実現に至らなかった。技術面や財源の問題に加え、米側が核不拡散の原則を挙げて濃縮ウランの供給などを拒んだことが影響した。

(30) サーチコリアニュース 2025/10/29 韓国大統領が「原潜の燃料供給」を要請、トランプ氏の反応は…
(31) ロイター 2025/10/29 韓国大統領、原潜用燃料の供給に意欲 トランプ氏との会談で
(32) 信濃毎日 2025/10/29 韓国大統領、原潜の燃料供給を要請
(33) 日経 2025/10/30 韓国の原潜計画 東アジアの安保力学を一変 日本の保有論にも影響
(34) 毎日 2025/10/30 韓国の原潜独自建造を承認 米韓で利害一致 双方の思惑は
 トランプ米大統領は30日、韓国の原子力潜水艦の独自開発を承認すると表明した。背景には、海軍力を増強する中国をけん制するうえで、韓国の協力を得る狙いがあるとみられる。韓国も原潜の開発を進める北朝鮮への対応を迫られており、米韓の利害が一致した形だ。

(35) 毎日 2025/10/30 韓国、原潜開発に意欲 北朝鮮の核に対応、国民の「安心感」狙う
(36) ハンギョ 2025/10/30 李大統領がトランプ大統領に「原潜の燃料供給」を公式要請したわけは
(37) 毎日 2025/10/30 韓国の原潜「建造を承認」 トランプ氏 独自開発後押し
(38) ハンギョ 2025/10/31 核燃料だけを要請したのに「潜水艦は米国で作れ」
 トランプ大統領はこの日、「韓国はフィラデルフィア造船所(フィリー造船所)で、原子力潜水艦を建造する」と述べた。韓国は潜水艦船体の建造技術と小型原子炉の製造技術があるため、米国から核燃料さえ供給してもらえれば、原潜を国内で自主建造できるという立場だったが、トランプ大統領のこの発言で軌道修正を余儀なくされた。

(40) 中央日報 2025/10/31 韓国、何度も挫折した原潜「30年の夢」…別途協定など複数の関門
 トランプ米大統領が30日、自ら「韓国の原子力潜水艦建造を承認した」と述べたが、別途の協定締結など現実的な関門が複数あるという指摘が出ている。
 韓米が現在締結している「原子力の平和的利用に関する協力協定」は韓国が原子力を軍事的目的で活用できないよう制限している。
 米エネルギー省が依然として韓国をエネルギー安全保障上注意を要する「センシティブ国」に分類している点も変数だ。
 慶南大のイ・ビョンチョル極東問題研究所教授は「高濃縮ウラン(HEU)使用は不拡散・外交リスクが大きく、低濃縮または高純度低濃縮ウラン(HALEU)を使用する原子炉が必要」とし「したがって米国の協力だけでなく国際原子力機関(IAEA)安全措置(セーフガード)に合わせる努力も必須
 1990年代半ば、軍の一部では長期的に原子力潜水艦が必要だという意見が提起された。
 盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権だった2003年6月には当時の趙成台(チョ・ソンテ)国防部長官が盧武鉉大統領に原子力潜水艦建造計画を報告した。
 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2017年9月22日、トランプ大統領と会い、米海軍の原子力潜水艦の売却またはリースを打診した。

(41) 毎日 2025/10/31 韓国の原潜建造、トランプ氏承認
(42) ハンギョ 2025/11/1 【社説】「諸刃の剣」韓国の原潜、活動領域は朝鮮半島に制限せよ
(43) ハンギョ 2025/11/3 「無限潜航」「潜水艦をとらえる潜水艦」?…原潜に対する「致命的な誤解」
 原潜は推進システムが小型原子炉であるため、バッテリーの充電のために水上に浮上する必要はなく、無制限の潜航持続能力があるという。ただし、無制限の潜水能力は「理論上」にすぎない
 海軍側の説明によると、実際には米国の原潜では、乗務員の疲労のため、2カ月の潜航が最長だという。原子炉は無限に動かすことができるが、乗務員の体力の枯渇やストレスのため、2カ月後には浮上せざるを得ないということだ。
 韓国が運用するディーゼル潜水艦に非大気依存推進(AIP)を装着すれば、最長で3週間ほど潜航できるため、原潜の実際の潜航能力はディーゼル潜水艦の約3倍にとどまる。

(44) ハンギョ 2025/11/3 「水深の浅い朝鮮半島水域に適切か」…慎重論の中でも急速に進められる韓国の原潜
 韓米首脳会談後、原子力潜水艦の建造に向けた論議が急ピッチで進められている。韓国政府は北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)など核の脅威に対応するため、原潜が必要だと主張しているが、軍内部でも水深が浅く作戦半径が狭い朝鮮半島の水域には適していないという「慎重論」が提起されている。

(45) 日経 2025/11/4 米国防長官、韓国の原潜導入「積極的に支援」 30年代後半に進水計画
 韓国メディアの報道によると、政府は4日の国務会議(閣議)で米国との協議で原潜の燃料を確保できる場合、2030年代後半にも原潜の進水が可能だとの見方を示した。

(46) 朝鮮日報 2025/11/4 李在明大統領は「国内で独自設計」要求、トランプ大統領 「米国内で建造」承認
 だが米国内で原潜を建造せよという「逆提案」を受けて変数が生じた。保守系野党「国民の力」のユ竜源(ユ・ヨンウォン)議員は「フィラデルフィア造船所に行ってみたが、(大型の商船・軍艦の施設はあるものの)潜水艦の建造施設はなかった」と語った。トランプ大統領の要求通りにしようと思ったら、ハンファオーシャンがそこに潜水艦の建造施設を新設投資しなければならない。

(47) ハンギョ 2025/11/4 原潜、「非核化という目標」のパラドックス【コラム】
(48) 中央日報 2025/11/4 「燃料承認」求めたら「米国で建造を」
(49) ハンギョ 2025/11/4 ニューヨーク・タイムズ「原潜で韓国のバランス外交は終わったとの評価」
(50) ハンギョ 2025/11/7 韓国、暮れゆく原潜時代に なぜ原潜

=============================
●豪-原潜建造_
=============================
(51) ニューズウィーク 2016/4/29 メイドインジャパン潜水艦「ごうりゅう」幻に、仏勝利の舞台裏
 初の大型武器輸出として日本が目指したオーストラリア向け潜水艦「ごうりゅう」の受注は、幻に終わった。首脳同士の絆のもとで日本は勝利を疑わず、途中で変わったゲームの流れについていけなかった。勝利したフランスは自分たちが劣勢にあることを認識し、現地の事情に通じた人材を獲得、弱点を地道に克服して勝負をひっくり返した。

(52) 日経 2021/9/16 原潜開発の豪首相「核武装を目指さず」 周辺国は警戒
(53) BBC 2021/9/16 英米豪 新たな安全保障の枠組みを構築 中国に対抗
 イギリス、アメリカ、オーストラリアの3カ国は15日、安全保障の特別な枠組みを構築したと発表した。最新の軍事技術を共有するもので、中国への対抗が目的とみられる。
 この協力体制により、オーストラリアは初めて、原子力潜水艦の製造が可能になる。
 枠組みは「AUKUS(オーカス)」と名付けられた。人工知能(AI)や量子技術、サイバーも対象分野に含める。
 3カ国は、インド太平洋地域において中国が影響力と軍事的存在感を増していることを懸念している。

(54) 日経 2021/9/17 海中抑止力で米中攻防 米英 豪に原潜技術供与
(55) 日経 2025/8/5 三菱重工の改良「もがみ型」護衛艦、オーストラリアが選定と発表

戻る 記事終了 戻る