[2025_09_19_09]「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」報告書(防衛省・自衛隊:防衛力の抜本的強化に関する有識者会議2025年9月19日)
 
参照元
「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」報告書

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※以下は原子力潜水艦関連の事項を中心に抜粋したものである。
 1 はじめに

 本有識者会議は、2022 年 12 月に策定されたいわゆる戦略三文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)において、戦略的・機動的な防衛政策の企画立案の機能を抜本的に強化するに当たって、有識者から政策的な助言を得るための会議体を設置することとされたことを受けて設置された。

 2024 年 2 月から 1 年半にわたり、防衛力の抜本的強化による経済成長への貢献をテーマとして「総会」を、経済成長の前提となる我が国の安全の確保をテーマとして「部会」を、それぞれ開催し、課題を整理して政策に反映する観点から、精力的に議論を行ってきた。

 会議においては、ロシアによるウクライナ侵略に伴う新たな戦い方の顕在化、中東情勢や、我が国周辺にみられる軍事活動の一層の活発化、更には米国においても新たな国家防衛戦略の策定が見込まれるなど、国際情勢が劇的なスピードで変化する中、今後の政策検討に資する多くの意見が委員から示されてきた。本報告書は、戦略三文書の中間時点において、これまで積み重ねてきた議論の内容を取りまとめるとともに、今後、防衛力の抜本的強化に向けて特に強く取組を求めていきたい事項についての提言をまとめたものである。
 本報告書が、防衛省において今後行われていく本格的な検討の礎となるとともに、提言内容について関係省庁が連携し、政府全体として取り組んでいただくことを期待する。

 (中略)

 1.情勢認識

 国際社会全体に衝撃を与えたロシアによるウクライナ侵略は、開始から3年を超えた今もなお続いている。その間、中国はデュアルユース製品や技術の提供を通じてロシアを支え、北朝鮮はロシアと軍事同盟を結ぶとともに、兵士を前線に送り直接参戦している。いずれも海を隔てて我が国と隣接するロシア、中国、北朝鮮の戦略的連携は、戦略三文書策定時とは次元が異なる様相を呈しており、仮に東アジアで事態が生起した場合、同様に三者が連携する公算は高いと考えられる。

 今年の 1 月に発足した米国のトランプ第 2 次政権では、米国第一主義を高く掲げ、世界経済に多大な影響を及ぼしている。同盟国や同志国に国防費、駐留費等の応分の負担を求め、例えば、NATO 加盟国に対して対 GDP 比で 5%の防衛費を支出すべきと主張しており、NATO 加盟国は本年 6 月、2035 年までに国防支出を少なくとも対 GDP 比 3.5%、国防・安全保障関連支出を最大で対 GDP1.5%、合わせて対 GDP 比 5%とする目標に合意した。これらは米国の構造的変容とでもいうべきであり、一過性のものとはならない可能性がある。
 欧州においても、防衛力強化のための資金確保や防衛産業基盤の強化を目指す欧州再軍備計画が合意されるとともに、国防支出及び国防・安全保障関連支出の合計を 5%とする目標に合意したフランスが自らの核抑止力を欧州の同盟国にも拡大させる検討をはじめるなど、NATO 加盟国は、すでに、米国に過度に依存しない体制構築に向けての動きが始まっている。

 中国は、経済の減速にもかかわらず、台湾周辺での大規模な演習実施など軍事的圧迫を著しく強めており、台湾海峡をめぐる情勢は目に見えて悪化している。同時に、我が国周辺のみならず、南シナ海、太平洋島嶼国や豪州周辺での活動をますます活発化させ、インド太平洋地域全体での軍事的プレゼンスを強めている。中国は、対米関係全般としては米国の動向を見極める姿勢を示しつつも、東南アジア諸国のほか、グローバルサウス諸国への対外援助・融資を通じて対外行動に影響力を行使し、自らの利益確保のために宣伝戦・外交攻勢を展開している。こうしたことを通じて、国際秩序の多極化に向け、着々と米国の影響力の相対化を図っている。

 東南アジア・南アジアに目を転じれば、全体として近年の経済成長の下支えにより、軍事力や産業力を中心に国力の強化が進んでいる。ASEAN 諸国間、あるいはインドと南アジア諸国・ASEAN 諸国間の協力など、多様なプレーヤー間の連携や協力が拡大・深化しており、インド太平洋地域における存在感を着実に高めつつある。このような傾向は今後も続き、国際社会の勢力図にも影響を与える可能性がある。

 このように、国家間の競争は複雑化の一途を辿っており、世界は、「法の支配」のもとに国際秩序を守ることより、「力による支配」が横行する流れになりつつある。そして、こうした国際情勢の大きな変化と同時に、ドローン、AI、通信、画像処理、ロボティクスなど、先端技術も日々進化を遂げている。これらの技術の研究開発能力やエコシステムは、経済成長のみならず国家安全保障に大きな影響を及ぼすものであり、これらをめぐる国家間の覇権争いもさらに激化していることを認識すべきである。

 このような技術の進化は、すでに戦場での戦い方を大きく変えている。ウクライナの戦場では、戦車や火砲、ミサイルを用いた戦闘に加え、大量のドローンを用いて、リアルタイムの戦況把握、固定目標や兵士のピンポイント爆撃などが行われており、その姿は SNSでも世界中に流布されている。さらに、一方が相手のドローンへの妨害手段を速やかに見つけて対処すれば、相手方は更に使用困難となったドローンを現場で改善し、数週間で再び投入するという、従来の装備品開発の流れとは全く異なる極めて速いサイクルがみられる。

 このように、これまでの想定を超えるスピードで変化が生じており、こうした事態に正面から向き合って施策を講じていかなければならない。

 2.提言

 本有識者会議は、戦略的・機動的な防衛政策の企画立案のために助言を行うとの観点から、防衛力の抜本的強化について議論してきた。これまでの議論の内容を踏まえ、1 で述べた情勢認識の下、特に強く対応を求めたい事項として、以下の点を提言する。防衛省、ひいては政府として、これらについて真摯に検討することを期待する。

 なお、国家安全保障において防衛力がその中核となることは言うまでもないが、軍事分野に特化した施策のみではこれを全うすることができない。国家間の経済や文化をめぐる関係、科学技術の急速な進展、重要物資のサプライチェーン、サイバー空間における脅威、気候変動、更には自然災害など、安全保障の対象として向き合わなければならない課題は幅広い。防衛省・自衛隊は、東日本大震災や新型コロナ感染症などに対応し幅広い国民の理解や信頼を築いてきており、軍事面にとどまらず、より包括的な視座で防衛力の役割をとらえ政策立案を行い、関係省庁との連携の下で各施策を実施し、また積極的に発信していくべきであることを付言する。

提言(1):防衛力抜本的強化の7本柱の推進と戦略装備の導入による抑止力・対処力の一層の強化

 1 で述べた情勢を踏まえれば、我が国として抑止力・対処力を更に強化することが必要である。
 ロシアによるウクライナ侵略の長期化が改めて示した通り、戦争はいったん始まってしまえば終わらせることが極めて難しい。だからこそ、戦争を起こさせないこと、つまり抑止力が極めて重要である。反撃能力は、抑止力の鍵となるものである。反撃能力の整備を引き続き進め、それを対外的に明らかにしていくこと、併せて、反撃能力は相手に攻撃を思い止まらせ、武力攻撃そのものを抑止するものであり、我が国が先んじて攻撃をすることはあり得ないということを説明していくべきである。また、長期戦に堪えうる継戦能力を備えることが抑止力向上につながることに留意すべきである。
 抑止力・対処力を一層強化するためには、例えば以下のような戦略装備の導入等について検討すべきである。

 ●無人アセットの本格的導入

 ロシアによるウクライナ侵略における教訓を踏まえ、さらに情報収集しつつ、我が国の防衛のために必要な無人アセットの運用コンセプトをしっかり打ち立てて、最先端の AI 技術を活用しながら、事業化・装備化を速やかに進めていくべきであり、我が国全体として無人アセット開発を促進し、関連企業を育てる観点からも重要である。ドローンはオペレーションと開発が一体化していることから、短期間のサイクルでのイノベーションモデルを追求するならば、内製化も含め開発に対する防衛省・自衛隊の関与の仕方を工夫すべきである。

 ●VLS(垂直発射装置)搭載潜水艦

 潜水艦は隠密裏に展開できる戦略アセットである。スタンド・オフ防衛能力を具備させれば抑止力の大幅な強化につながるため、重視して整備を進めていくべきである。長射程のミサイルを搭載し、長距離・長期間の移動や潜航を行うことができるようにすることが望ましく、これを実現するため、従来の例にとらわれることなく、次世代の動力を活用することの検討も含め、必要な研究を進め、技術開発を行っていくべきである。

 ●太平洋側における防衛態勢構築に資する防衛装備

 我が国は、東シナ海や日本海方面を相対的に手厚くした対処態勢をとっているが、太平洋側からの脅威に対応することにも目を向けるべきである。2025 年 5 月から 6 月にかけて、中国海軍の空母 2 隻が同時に太平洋上で活動し、その間 1000 回も戦闘機等の発着艦を繰り返したことが初めて確認されるなど、中国の艦艇・航空機が沖ノ鳥島や南鳥島周辺の我が国排他的経済水域(EEZ)を含む太平洋側における活動を活発化させている。このため、小笠原諸島などいわゆる第 2 列島線周辺に至る太平洋における防衛の在り方について早急に結論を出し、小笠原諸島上空の防空識別圏設定を含む警戒監視体制の整備、航空機発着艦の整備など、態勢の構築を行っていくべきである。

 我が国においては、無人アセットの導入は遅れていると言わざるを得ない。無人アセットを用いた戦い方は、喫緊の対応を要する課題であり、次期国家防衛戦略・防衛力整備計画を待つことなく、可及的速やかにコンセプトの具体化を図り、導入を加速すべきである。併せて、法令上の制約や運用上の課題を洗い出し、解決する必要がある。無人アセット導入と並行して、自律型兵器システム(LAWS)の乱用を防ぐ国際ルール作りにも積極的に関与していくべきである。

 宇宙の安定的な利用は、無人アセットを用いた作戦をはじめ、軍事作戦において指揮統制や情報収集活動の基盤となっている。近年、我が国においても、衛星コンステレーションの構築をはじめとして、宇宙を防衛のために活用する取組が大幅に進んでいるが、国際的な趨勢や潮流に立ち遅れることなく、引き続き宇宙利用を推進すると同時に、宇宙空間における脅威(例えば、中露が開発しているとされる対衛星兵器により衛星が破壊されれば、我が国のミサイル防衛システム等にも支障が出るおそれ)に対応すべく、防護のための施策を積極的に講じていくことが必要である。

 また、ウクライナの状況を見れば明らかなように、対処能力の向上にあたり、継戦能力の確保は必要不可欠である。備蓄や急な増産要請への対応といった余剰生産能力への投資を民間任せにしていては、有事の対応に大きな支障が生じかねない。産業界がレジリエンス向上に資する設備投資を実施しやすくするために、適切なインセンティブを与える措置についても検討すべきである。

 上記以外にも、抑止力・対処力を強化するために情勢に応じた必要な施策を真摯に検討し、速やかに実行に移していくべきである。例えば、本年 5 月 3 日、中国海警のヘリコプターによる尖閣諸島領空への領空侵犯が発生した。無人機への対応のためのスクランブルと同様、戦闘機を基地から緊急発進させて対応するのは困難な事案が増えつつあり、これが常態化すれば我が国の支配が相対化するおそれがある。我が国も無人機を常時在空させるなどの方策を検討すべきである。
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