| [2025_09_19_08]原子力潜水艦の導入議論へ布石 「動力は前例とらわれず」有識者提言(日経新聞2025年9月19日) |
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12:29 防衛力の抜本的強化に関する有識者会議(座長・榊原定征経団連名誉会長)は19日、中谷元防衛相に提言書を手渡した。潜水艦の潜航時間を延ばすため、新たな動力の研究を進めるべきだと提案した。原子力の活用を排除せず議論し、軍備を増強する中国に対する抑止力を高める狙いがある。 同会議は政府が2022年に策定した国家安全保障戦略に基づく政策を進めるため、専門家の助言を得る目的で設置した。 提言書は長射程ミサイルを垂直方向に発射できる潜水艦を新たに保有し、動力を「従来の例にとらわれることなく」検討すべきだと記した。有識者会議側は原子力潜水艦も排除しないとしている。 政府は敵の攻撃圏外から反撃できる射程1000キロメートル超の長射程ミサイルの配備を急ぐ。地上や艦上、空中から発射するミサイルの配備は前倒しで計画が進む。 現行の防衛力整備計画は潜水艦にミサイルを配備するための開発・整備も盛り込んでいる。提言書は潜水艦への長射程ミサイル配備が「抑止力の大幅な強化につながる」と強調した。 潜水艦に長射程ミサイルを積めば、日本海や東シナ海、太平洋に潜りながら広く敵の地上の攻撃拠点まで打撃力が届く。海に囲まれる日本は潜水艦を潜航できる海域が広い。敵から見ると、水中に隠れた発射拠点を探して破壊するのは難しい。 問題は動力だ。ディーゼルエンジンで動く海上自衛隊の潜水艦は機動性や潜航時間に限界がある。水中速度は20ノット(時速37キロメートル)と速くはない。エンジンを稼働させるため航行中に空気を取り込む必要があり、浮上する際に敵に見つかる危険が高まる。 こうした問題を回避するため、米国などは原潜を保有する。大型のミサイルを載せた状態で高速・長距離移動が可能だ。米海軍の原潜は巡航ミサイル「トマホーク」を収容し、25ノット以上出せる。空気の補給が必要なく長時間潜れる。 有識者会議に参加した元防衛次官の島田和久氏は、潜水艦は陸上拠点や艦艇、航空機と比べ「脆弱性が低い」と評価する。水中に潜むことで、相手に位置を特定されミサイル攻撃を受けるリスクを大幅に減らせるためだ。 そのうえで「潜水艦の弱点をなくすには動力が鍵だ。原子力を含めタブーなく検討すべきだ」と強調する。 日本で原潜を巡る議論はタブー視されてきた。「原子力利用は平和の目的に限る」と明記する原子力基本法に反するとの見方がある。長射程ミサイルを積んだ原潜が遠く離れた海まで行くことは専守防衛から逸脱するとの指摘も野党の一部から出る。 政府も慎重な姿勢を堅持してきた。林芳正官房長官は24年9月の記者会見で「現行解釈に従えば原潜を保有することは難しい」と話した。 予算も課題として残る。米海軍が12隻の建造を計画するコロンビア級原潜の費用は1隻平均88億ドル(1兆3千億円ほど)との試算がある。海自潜水艦の艦長経験者は「原潜の方が優れているが1隻に巨額の予算は出せない」と語る。 有識者会議は「次世代の動力」の活用も提唱した。全固体電池は通常の電池に比べ同じサイズで多量のエネルギーを蓄えられるため効率がいい。今後、実用段階に移れば有力な選択肢の一つになり得る。 第2列島線の防衛「早急に結論を」 中国の海洋進出念頭 有識者会議の提言書は中国の防衛ラインとされる小笠原諸島や米領グアムを結ぶ「第2列島線」までの防衛のあり方に言及した。「早急に結論を出すべきだ」と明記した。 小笠原諸島の上空は現状、航空自衛隊が他国の領空侵犯に緊急発進(スクランブル)で対処する空域である「防空識別圏(ADIZ)」が設定されていない。提言書は小笠原諸島にもADIZを設け、外国機の侵犯に備えるべきだと示した。 中国が日本周辺の海空域に進出を続けることが背景にある。 中国海軍の空母「遼寧」と「山東」は6月に太平洋上で同時に活動した。戦闘機の発着艦を繰り返した。 中国、ロシア、北朝鮮と向かい合う日本海側に比べ、太平洋側の防衛はこれまで手薄だった。中国の海洋進出によって太平洋側でも警戒監視の必要度が増す。 提言書は防衛産業を財政面で支えるため「防衛公社」の新設を打ち出した。社債を発行して民間から資金を集め、装備品の製造企業に投資する機能を想定する。国の防衛予算を無尽蔵に増やすことは難しい。民間資金を防衛分野に取り込む方策を提案する。 防衛装備品の輸出要件の緩和も盛り込んだ。救難や輸送などの5類型に該当する場合のみ輸出できる制度を見直し、他国の脅威を受ける同盟国・同志国に対し「制限を設けない考え方も一案だ」と記した。輸出拡大が防衛力強化と経済成長の好循環につながると訴えた。 2023〜27年度の防衛予算の規模を決める「防衛力整備計画」について、前倒し改定を視野に柔軟に見直す案に触れた。ロシアのウクライナ侵略など国際情勢の変化を指摘し「抑止力・対処力のさらなる強化は待ったなし」だと主張した。 |
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