1988年 生越忠氏・那須翔氏 原発耐震性問題 Q&A

【 初めに 】
 現在(2018年)からほぼ30年前に、地質学者である生越忠さんと那須翔東京電力社長との間で原発の耐震性についてのQ&Aが行われた。「月刊経営塾」(1988年11月号)誌上で、生越氏からの7つの質問が掲載され、それに対して、那須氏の回答が翌月の「月刊経営塾」(1988年12月号)に掲載された。その後、翌年1月の「検証・危険列島 新版」(生越忠著)で、那須氏の回答に対する生越氏の反論が行われた。
 以下は「月刊経営塾」の質問と回答部分、「検証・危険列島 新版」の反論部分を抽出し、質問単位で並べたものである。
 30年前の原発耐震性問題のホットな部分が少しでも伝われば幸いです。

(編集者注)
【生越忠氏質問】が「月刊経営塾」(1988年11月号Page69〜72)誌上から、生越忠氏の質問部分を抽出したものです。【那須翔氏回答】が「月刊経営塾」(1988年12月号Page69〜72)誌上から、那須翔氏の回答部分を抽出したものです。【生越忠氏 回答への反論】が「検証・危険列島 新版」(1989年1月)の那須翔氏の回答への生越氏の反論部分を抽出したものです。
・各文末にあるリンクのリンク先は図表込みの原文ですので、クリックすることで原文を読むことができます。
 


 
 




−、原子炉建屋の基礎岩盤の性質に問題はないのでしょうか。

 
 
【 生越忠氏質問 】原発が強い地震に襲われても安全たりうるためには、まずなによりも、原子炉建屋などの重要構造物が強固な岩盤に支持されていることが必要不可欠であります。
 しかし、原発の立地点を見ると、とりわけ岬あり、湾ありといった複雑な地形を呈する海岸に立地している場合、原子炉建屋は、例外なく岬と岬とに固まれた湾の奥の低地部に設置されています。中には、巨大構造物である原子炉建屋の設置に必要な広い敷地を確保することができないわけであります。
 ところが、湾奥部は、岬部に比べて、岩質が脆(軟)弱・劣悪ということに「相場」が決まっています。それは、岩質が相対的に堅硬な部分が浸食によく耐えて岬になり、岩質が相対的に脆(軟)弱な部分が侵蝕に坑し切れすに湾になるからでありますが、げんに原子炉建屋の基礎岩盤は、破砕帯の顕著な発達などのために、周辺地域の岩盤に比べて弾性波速度などが小さな値になっているといった例も、少なくありません。
 いずれにしても、原子炉建屋は、巨大構造物ゆえに、岩質が相対的に脆(軟)弱な海岸の低地部に設置せざるをえないという宿命を背負っていると思うのですが、こうした考え方は誤っているのでしょうか。
 

二、原子炉建屋の基礎岩盤の岩石試験値を、なぜ平均値およびその標準偏差だけで示すのですか。

 
 
【 生越忠氏質問 】さて、原子炉建屋の基礎岩盤は、たんに強固というだけでなく、均質性が高いことを必要とします。岩質が不均質であると、地震時に複雑に揺れ、原子炉建屋の安全性が損われるおそれがあるからであります。
 ところで、以前は、原子炉建屋の基礎岩盤の岩石試験値の表示に際し、各岩種ごとに、各試験項目についての最低値・平均値および最高値が明示されていましたが、最近では、最低値およぴ最高値は示されず、たんに平均値およびその標準偏差が示されるだけになりました。
 しかし、原子炉の安全性にはいささかの不安もあってはならないので、原子炉建屋の設計にあたっては、基礎岩盤の岩質の最悪の部分の岩石拭験を知ることが大切であり、設計は、最悪値に基づいておこなうべきだと思うのですが、この点についての貴下のご見解をお聞かせ下さい。
 
【 那須翔氏回答 】原子炉建屋の基礎岩盤は、施設の自重や地震時に加わる力に対して、十分な支持力を有し、すべり等の地盤破壊や不同沈下についても、十分な安全性を有していることが必要です。
 先生は、原子炉建屋が岬と岬に囲まれた湾奥部の脆弱な岩盤に設置されている場合について危惧しておられますが、原子炉建屋は必ずしも岬と岬に囲まれた湾奥部に設置されているわけではありませんし、また一概に岬部に比べて湾奥部の岩盤が脆弱であるとはいえません。
 また、基礎岩盤に作用する原子炉建屋の荷重は、地震時においても、一平方メートル当たり最大一六〇トン程度で超高層ビルと同程度の荷重であり、アーチダムの一平方メートル当たり五〇〇〜九〇〇トンに比べると、はるかに小さなものです。したがいまして、原子炉建屋の基礎岩盤は、規模の大きなダムで要求されるように特別堅硬である必要はありません。
 いずれにしましても、原子炉建屋の基礎岩盤についでは、設置場所が岬であるか湾に面した位置であるかにかかわらす、多数のボーリングや試掘坑で直接岩盤を確認し、原子炉建屋の設置位置で各種の岩石・岩盤試験を実施するなど入念な調査を行い、原子炉建屋を支持する上で十分な安定性を有していることを確認しておりますので、ご安心頂きたいと思います。
 つぎに、原子炉建屋の基礎岩盤は均質性の高いことが必要である、とのご意見ですが、一般に岩盤は多かれ少なかれ不均質となっています。したがって、ボーリングや試掘坑調査、岩石・岩盤拭験によって基礎岩盤の不均質の程度を把握し、必要に応じ岩盤を区分した上で、安定解析や耐震設計を行っておりますので、不均質性は特に支障となるものではありません。
 また、各岩種ごとの設計値として岩石試験値の最小値を用いるべきである、とのご意見につきましては、局部的に弱いところがあってもまわりの強いところが受け持ってくれること、たとえば、おみこしを担ぐ場合、力の弱い人がいてもまわりの力の強い人がカバーしてくれることと同様、最小値で全体を代表させる必要はなく、全体のバランスを考えて平均値で評価し、ばらつきについては標準偏差で考慮することが合理的です。
 
【 生越忠氏 回答への反論 】原子炉建屋などの重要構造物の設計も、これと同じことで、それらの安全性にはいささかの不安もあってはならないから、基礎岩盤の各項目の試験値のうちの最悪値を設計値とすることが絶対に必要であり、平均値を設計値とすることは、きわめて不適切といわざるをえないのである。
 もし、平均値に基づいて設計をすると、平均値よりも岩質が劣悪な部分は、地震時などにおける安全性も保たれないことになる。したがって、岩石試験値は、すべての項目について、最低値、平均値およぴその標準偏差と最高値とを明示しなくてはならないのである。
 ところが、右のような私の見解に対する東京電力社長の回答は、「局部的に弱いところがあってもまわりの強いところが受け持ってくれること、たとえば、おみこしを担く場合、力の弱い人がいてもまわりの力の強い人がカバーしてくれることと同様、最小値で全体を代表させる必要はなく、全体のバランスを考えて平均値で評価し、ばらつきについては標準偏差で考慮することが合理的です」というものであった。
 しかし、東京電力は、かつて柏崎・刈羽原発1号機の基礎岩盤の西山層の単位体積重量および一軸圧縮強度について、平均値を最低値といつわり、平均値よりも低い値を切り捨てて、これらの岩石試験値のばらつきを実際よりも小さく見せかけていた(表27〜28参照)。
 そして、表27を見ればただちに明らかになることであるが、西山層では、荒浜地区における一軸圧縮強度のばらつきがとくに大きく、最低値は最高値の約七分の一にすぎない。このように、岩石試験値に大きなばらつきがある場合、平均値およびその標準偏差だけで評価するのが不適当なことは、ここで改めて言及するまでもないが、おみこしの場合も、力の弱い人と強い人との差があまりにも大きく、しかも、力の弱い人がおおぜいいると、力の強い人が弱い人をカバーできなくなることもありうるのである。
 



三、地震予知のための観測強化地域および特定観測地域に原発立地点を選定するのは、大変危険なことではありませんか。

 
 
【 生越忠氏質問 】日本は地震国で、全国のいたるところに「地震の巣」があるとはいえ、地震の危険度はどこも同じというわけではありません。
 そこで、地震予知連絡会は、近い将来、M=8クラスの地震の発生の可能性が他より高い地域を観測強化地域に、M=7クラスの地震の発生の可能性が他より高い地域を特定観測地城に指定していますが、現在仙台地方裁判所で係争中の女川原子力発電所建設工事差止請求事件においても、被告の東北電力(株)は昭和六十年九月六日に提出した準備書而(一六)で、同原発が特定観測地域の「宮城県東部・福島県東部」に立地していることに問連して、「特定観測地域に指定された地域は、近い将来における地震発生の可能性が他に比して大きいと考えられるような地域」であることを肯認しています。
 ところが、日本の原発の大部分は、あろうことか、観測強化地域あるいは特定観測地域のど真ん中、または、その隣接地域に立地しています。そ
して、そのような場所に、今日もなお、いくつかの原発の立地計画が依然として進められており、たとえば、浜岡原発4号機は、観測強化地域の「東海」のど真ん中で建設準備中のものです。また、伊方原発3号機は、特定観測地域の「伊予灘および日向灘周辺」のこれまたど真ん中で建設中のものですが、この特定観測地域内では、上関原発も計画中です。
 常識的には、このような場所に原発立地点を選定するのは、大変危険なことだと思うのですが、原発に限ってそんな心配はないとでもいうのでしょうか。
 
【 那須翔氏回答 】つぎに、地震予知のための「観測強化地域」及び「特定観測地城」に原子力発電所を設置するのは危険なことではないか、とのご質問ですが、ご指摘のとおり、日本では原子力発電所の所在地の多くが地震予知連絡会の指定した「特定観測地域」及び「観測強化地域」内に含まれております。
 この「特定観測地域」とは地震予知に関する観測・研究を効果的に行うため、地震予知連絡会が指定した地域であり、また、何らかの異常が発見された場合には「観測強化地域」として移動観測班などで観測が強化されることになっています。
 このような場所に原子力発電所の立地点を選定するのは大変危険な事だと考えておられるようですが、原子力発電所の地盤に対する考え方は、今まで述べましたとおり、地震発生の可能性が高い低いにかかわらず、想定しうる最大の地震を設計用の地震動として評価し、それに耐え得るように施設を設計しております。
 したがいまして、原子力発電所が「特定観測地城」または「観測強化地域」に所在していても、原子力発電所は十分安全といえます。



四、原子炉の耐震設計は、はたして万全なものなのでしょうか。

 
 
【 生越忠氏質問 】原発のうち、安全上とくに重要な投備(原子炉および重要な機器など)は、耐震力を一般建築物の三倍に設計し、原発立地点で想定されうる最強の地震にも耐えられるように造られることになっています。
 しかし、地震の震度の記録は、たえず更新されていますので、「想定されうる最強の地震をどう想定するかが、まず問題になります。「原子炉が破壊されたのは、予想外に強い地震によるものという弁明は、絶対に許されません。
 次に耐震力を一般建築物の三倍に設計すれば、どれほど強い地震に襲われてもはたして安全性を保ちうるのかということが問題になります。さらに、強い地震が起こって、基礎岩盤に隆起、沈降、陥没、地割れや、地震断層の出現による水平方向あるいは垂直方向のずれなどの塑性変位が生じた場合でも、絶対に安全と言えるのでしょうか。かりに耐震力は十分にあったとしても、基礎岩盤が大きく破壊されたら、「もうおしまい」になると思うのですが、こう考えると、耐震設計というものには大きな落とし穴があるのではありませんか。
 
【 那須翔氏回答 】原子力発電所の耐震設計に関連して、一般建築物の三倍の地震力で設計すれば安全か、とのご意見ですが.前記の耐震設計審査指針によれば、原子炉施設のうち重要な施設は、一般建築物の設計に用いられる地震力の三倍の地震力だけでなく、前述のようにその地域で考えられる最大級の地震によってもたらされる地震力のうち、いずれか大きいほうを設計地震力とするように定められております。
 また、仮に原子炉建屋の耐震力は十分にあっても、強い地震が起こった場合、基礎岩盤が大きく破壊するのではないか、とご懸念されていますが、原子炉建屋直下及び周辺部の地質状況並びに基礎岩盤の強度等を詳細に調査し、地震を起こすような断層がないこと、並びに、想定し得る最大の地震動を受けても基礎岩盤が健全であることを確認しておりますことから、基礎岩盤が破壊されるおそれはないと考えられます。
【 生越忠氏 回答への反論 】そのため、これらの地盤変形は、地震時における原発事故の重要な原因になりうるにもかかわらず、耐震設計では考慮外におかれている。原発が地震に襲われた場合、原子炉などの安全上とくに重要な設備の耐震力が一般建築物の三倍に設計されていたとしても、基礎岩盤自体が瞬時に大きく変形してしまえば、原子炉などが破壊されるという最悪の事態が起こりうることも十分に予想されるのに、である。
 このように、原発の耐震設計には、大きな″落とし穴″が存在しているといわなくてはならないのだが、この点について、私の公開質問状に対する東京電力社長の回答では、「…、仮に原子炉建屋の耐震力は十分にあっても、強い地震が起こった場合、基礎岩盤が大きく破壊するのではないか、とご懸念されていますが、原子炉建屋直下及び周辺部の地質状況並びに基礎岩盤の強度等を詳細に調査し、地震を起こすような断層がないこと、並びに、想定し得る最大の地震動を受けても基礎岩盤が健全であることを確認しておりますことから、基礎岩盤が破壊されるおそれはないと考えられます」とされている。
 しかし、東京電力は、柏崎・刈羽原発1号機の敷地を真殿坂断層と呼ばれる活断層が通り抜けているという明白な事実を隠蔽し、また、信濃川の西方を走る気比ノ宮断層については、敷地に影響を与える活断層であることを認めているものの、実際には三〇キロメートル以上もある延長距雛を一七・五キロメートルと短く判定して、敷地に与える影響を過小評価した。さらに、同原発1号機の基礎岩盤の単位体積重量および一軸圧縮強度の平均値を最低値といってごまかし、これらの岩石試験値のばらつきを実際よりも小さく見せかけようとしたことは、前述したとおりである。
 なお、かりに真殿坂断層が東京電力のいうように活断層ではないとしても、震源断層となる活断層が地下深所に潜在し、ボーリング調査などの通常の地質調査の方法によってはとらえられない場合も多いから、「地震を起こすような断層がない」などということは、だれにもできないはずであり、それゆえにこそ、内陸直下型地震の予知は、現段階では不可能なのである。
 もし、東京電力が、どんな場所についても、詳細な調査を実施しさえすれば、震源断層となるような活断層の存否を明らかにすることができるというのであれば、同電力は、内陸直下型地震が起こりうる場所と起こりえない場所とを正確に見分ける能力を持っていることになるが、同電力がそのような能力の持ち主でないことは、ここで改めて指摘するまでもない。
 いずれにしても、原子炉建屋の基礎岩盤が破壊されるおそれはないという東京電力社長の説明には、なんの科学的根拠も存在していないのである。
 



五、直下地震はM=6.5に限定して考慮するのは不都合ではありませんか。

 
【 生越忠氏質問 】地震は、発震機構によって海洋型地震と直下地震とに二大別されますが、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」が定められてからは、同指針にしたがって、直下地震はM=6.5に限定して考慮されることになりました。
 しかし、M=6.5以上の直下地震は、全国のいたるところで起こっているという事実を考えるならば、直下地震はM=6.5に限定して考慮するというのは、不都合ではないでしょうか。
 ちなみに、地震断層は、M=6.5以上、震源探さ二〇キロメートル以浅の地震、とくに直下地震が起こった際にしばしば出現するものですが、考慮すべき直下地震をM=6.5に限定すると、地震断層の出現による基礎岩盤の破壊による原子炉などの事故の発生の蓋然性は、結局、無視されてしまうことになりませんか。
【 那須翔氏回答 】また、直下地震をマグニチュード六・五に限定して考慮するのは不都合ではないか、とのご質問ですが、前述のように設計上考えなければならない地震は、敷地及びその周辺を調査し、その結果、敷地において過去にマグニチュード六・五を上回る直下地震の発生、あるいは直下地震を発生させる可能性のある活断層が認められた場合は、マグニチュード六・五以上の直下地震を耐震設計上評価することになります。したがいまして、直下地震をマグニチュード六・五に限定して考慮しているわけではありません。
【 生越忠氏 回答への反論 】ここで、耐震設計審査指針が、考慮すべき直下地震に関して、右のように理不尽な限定をなぜにおこなったのかを推察してみると、それはおそらく、原子炉などの重要な設備の基礎岩盤に地震断層が出現し、基礎岩盤が破壊された場合には、いわゆる耐震設計は無意味なものとなり、原子炉などの重要な設備の安全性を現在の耐震技術によって確保することは不可能になること、したがって、直下地震が起こつても原子炉などの重要な設備の安全性は確保できるというためには、原発の立地点には地震断層が出現する可能性があるような直下地震は起こらないことにする必要があることによるものであろう。
 要するに、耐震設計審査指針が、考慮すべき直下地震を前述したようなものに限定したのは、まったく「政治」的理由によるものであり、そこには、正当な科学的根拠はまったく存在していないといわざるをえないのだが、この点について、私の公開質問状に対する東京電力社長の回答は、「‥・設計上考えなければならない地震は、敷地及びその周辺を調査し、その結果、敷地において過去にマグニチュード六・五を上回る直下地震の発生、あるいは直下地震を発生させる可能性のある活断層が認められた場合は、マグニチュード六・五以上の直下地震を耐震設計上評価することになります。したがいまして、直下地震をマグニチュード六・五に限定して考慮しているわけではありません」となっている。
 しかし、原発の立地点になっているような過疎地では、一般的にいって、過去の被害地震の記録が乏しいこと、また、どんな場所でも、活断層の存否を突き止めることは、詳細な調査を実施してもできない場合があること、などの諸事情を考慮に入れるならば、敷地において過去にM=6・5を上回る直下地震が発生した記録がなく、また、そのような直下地震を発生させる可能性のある活断層が認められなかったという場合、考慮すべき直下地震の規模をM=6・5に限定するのは、著しく妥当性を欠いているといわなくてはならない。
 すなわち、地震の規模(M)の記録は、地震歴がふえるにしたがってたえず更新されていくから、敷地において過去にM=6・5を上回る直下地震が発生した記録がないからといって、将来にわたっても、そのような規模の直下地震が発生するおそれはないということはできない。また、そのような規模の直下地震を発生させる可能性のある活断層が地下深所に潜在し、地表面あるいはその付近では見られない場合には、ふつうの調査方法によっては、その活断層の存在を確かめることができず、その活断層の再活動による直下地震が発生するまで、その活断層の存在がわからないということになるのである。



六、活断層の活動期間をなぜ限定するのですか。

 
 
【 生越忠氏質問 】現段階では、活断層の定義に統一されたものはまだありませんが、従来は、「第四紀、つまり約二〇〇万年前から現在までの間に動いたと見なされる断層」という定義が主流になっていたように思われます。
 しかし、前述の審査指針では、活断層の第四紀における年平均変位速度(S。単位はミリメートル)によって、活断層の活動度をA級(S≧1)、B級(1>S≧0.1)およびC級(0.1>S)に分けたとき、A級のものについては一万年前以降に、B−C級のものについては五万年前以降に活動した証拠がなければ、原子炉の設置には支障はないことにされています。
 このように、審査対象となる活断層の活動期間を非常に狭く限定することは、安全性を最優先させるという立場からは到底理解しがたいのですが、この点についての貴下のご見解をおたずねいたすとともに、活断層をどう定義すべきかについても、ご教示を賜わりたいと存じます。
【 那須翔氏回答 】前述いたしましたように、原子力発電所の設計用地震を評価するには、まず、過去に敷地周辺地城で起こった地震を詳細に把握します。
 さらに、過去に発生した地震は記録に残されている期間が千年程度と短いことから、有史期間にはたまたま発生しなかったくり返し期問の長い地震を見逃すことがないように、地震活動の痕跡である活断層を綿密に調査し、これから想定される地震も評価の対象として考慮することとされています。
 活断層の定義についてご質問されていますが、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針・解説」によると、「第四紀(約百八十万年前以降)に活動した断層であって将来も活動する可能性のある断層」とされています。
 活断層の定義につきましでは、古くは一九二七年に地理学者の多田文男氏によって、「極めて近き時代迄地殻運動を繰返した断層であり今後も尚活動す可き可能性の大いなる断層」とされたのが初めてであり、文献によりいろいろな設明がなされていますが、いずれにしましても、極めて近い時代にくり返し活動していた断層は、将来も活動する可能性があると評価しているものと考えられます。これまで、地震のくり過し期間は、地域によって異なりますが数十年から数百年といわれています。また、くり返し活動が確認された断層の調査結果からも、くり返し期間は数百年から一万年程度とされています。
 これに対し、原子力発電所では、くり返し期問が五万年までの断層も、安全側の評価として設計用地震動の評価に取り人れることとされています。
 なお、先生は、審査指針での活断層の評価について、A級のものについては一万年前以降に活動した証拠がなければ、原子炉の設置には支障はないことにされている、と解釈しておられるようですが、審査指針・解説においては、A級活断層については活動時期のいかんにかかわらず、全て設計用最強地震または設計用限界地震の発生源として考慮することとされております。
 



七、日本の原発に地震による事故がまだ起こっていないことを、どう認識しておられますか。

 
【 生越忠氏質問 】最後に、日本の原発に地震による事故がまだ起こっていないことについて、貴下がどう認識されているのかをおたずねいたします。
 この点について、私は、日本の原発の歴史がまだ浅いことと、昭和二十三年の福井地震を最後に、日本では一回の地震で千人を超える死者が出たような大被害地震がまったく起こっておらず、日本は全体として地震活動の静穏期に入っていることとによるものと考えております。
 近い将来、日本が地震活動の旺盛期に突入し、終戦を挟んだ数年間のように、大被害地震が続発し、しかも、それらのうちのあるものが原発を直撃するといった事態もありえないことではないと思われます。
 貴下におかれては、こうした点にくれぐれもご留意のうえ、地震国日本の原発は、はたしてどこまで安全なのかを、慎重に検討されますことを、心から念願いたす次第であります。
【 那須翔氏回答 】最後に、日本の原子力発電所に地震による事故がまだ起こっでいないことを、どう認識しているか、とのご貿問ですが、原子力発電所の耐震設計では、前述したように、その地域での上限規模の地震を考慮しているほか、過去の大地震による被害を受けた建物の被害原因を調査・検討するなど、原子炉施設に対して十分に耐震対策を施しています。したがいまして、原子力発電所では今後とも地震による事故は起こらないと認識しております。
 
 

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