前回の質問者 生越忠様にお答えします 東京電力社長 那須翔 【Page 72】(月刊経営塾12月号(1988)1988年12月1日)
 
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※以下は本文をテキスト化したものである

二 原子力発電所の耐震設計で考慮する地震について

 つぎに、原子力発電所の耐震設計で考慮する地震の基本的な考え方を述べさせていただきます。
 原子力発電所の耐震設計にあたっては、原子力安全委員会が定めました「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針・解説」に基づき設計用最強地震と設計用限界地震を考慮しております。
 設計用最強地震としましては、過去の地震、及び活動度の高い活断層による地震のうちから、敷地に対して最も影響の大きい地震を想定いたします。
 また、設計用限界地震としましては、設計用最強地震よりも敷地への影響は大きいが、起こる確率はずっと低く、安全余裕のため考慮される限定的な地震で、活動度の低い活断層による地震、地震地体構造の観点から想定される地震、並びに直下地震を想定いたします。
 過去の地震については地震学の知見に基づき、過去に起こった地震と同じような地震が、将来再び起こることを想定しているものです。そこで、第一に敷地周辺の過去の地震を調査します。
 つぎに、有史期間にたまたま発生しなかったくり返し期間の長い地震の発生も見逃すことのないよう、敷地及び敷地周辺の活断層を調査してこれを補います。
 これらの調査結果に基づき、原子力発電所の重要な施設は、その地域で起こる可能性があると考えられる最強の地震が起きた場合にも耐え得るように設計されます。さらに安全上特に重要な施設については、たとえその地城で起きる確率は非常に低くとも、もし起きると前記の最強の地震を上回るような限界的な地震に対しても、安全機能が保持できるように設計されます。
 したがいまして、原子力発電所は、想定されるいかなる大地震に対しても耐え得る、ということができます。
 つぎに、地震予知のための「観測強化地域」及び「特定観測地城」に原子力発電所を設置するのは危険なことではないか、とのご質問ですが、ご指摘のとおり、日本では原子力発電所の所在地の多くが地震予知連絡会の指定した「特定観測地域」及び「観測強化地域」内に含まれております。
 この「特定観測地域」とは地震予知に関する観測・研究を効果的に行うため、地震予知連絡会が指定した地域であり、また、何らかの異常が発見された場合には「観測強化地域」として移動観測班などで観測が強化されることになっています。
 このような場所に原子力発電所の立地点を選定するのは大変危険な事だと考えておられるようですが、原子力発電所の地盤に対する考え方は、今まで述べましたとおり、地震発生の可能性が高い低いにかかわらず、想定しうる最大の地震を設計用の地震動として評価し、それに耐え得るように施設を設計しております。
 したがいまして、原子力発電所が「特定観測地城」または「観測強化地域」に所在していても、原子力発電所は十分安全といえます。
 また、直下地震をマグニチュード六・五に限定して考慮するのは不都合ではないか、とのご質問ですが、前述のように設計上考えなければならない地震は、敷地及びその周辺を調査し、その結果、敷地において過去にマグニチュード六・五を上回る直下地震の発生、あるいは直下地震を発生させる可能性のある活断層が認められた場合は、マグニチュード六・五以上の直下地震を耐震設計上評価することになります。したがいまして、直下地震をマグニチュード六・五に限定して考慮しているわけではありません。

三 活断層の評価について

 前述いたしましたように、原子力発電所の設計用地震を評価するには、まず、過去に敷地周辺地城で起こった地震を詳細に把握します。
 さらに、過去に発生した地震は記録に残されている期間が千年程度と短いことから、有史期間にはたまたま発生しなかったくり返し期問の長い地震を見逃すことがないように、地震活動の痕跡である活断層を綿密に調査し、これから想定される地震も評価の対象として考慮することとされています。
 活断層の定義についてご質問されていますが、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針・解説」によると、「第四紀(約百八十万年前以降)に活動した断層であって将来も活動する可能性のある断層」とされています。
 活断層の定義につきましでは、古くは一九二七年に地理学者の多田文男氏によって、「極めて近き時代迄地殻運動を繰返した断層であり今後も