[2020_05_27_01]新型コロナ巨大災害下で「不要不急」の原発再稼働工事を進める日本原電、進めさせる茨城県(ハーバービジネスオンライン2020年5月27日)
 
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新型コロナ巨大災害下で「不要不急」の原発再稼働工事を進める日本原電、進めさせる茨城県

電力会社と原発を襲い始めた新型コロナ

 不気味なほどに高い感染力を持つ新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が、とうとう電力会社や原発までを襲い始めた。2020年4月25日までに東京電力ホールディングス株式会社グループ(以下、東電)からは11名の新型コロナ感染者が確認され、そのうち2名が柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市)に勤める社員とされている。
●当社柏崎刈羽原子力発電所における新型コロナウイルス感染者の発生について:東京電力 4月18日
●当社柏崎刈羽原子力発電所における新型コロナウイルス感染者の発生について:東京電力 4月24日
●当社グループにおける新型コロナウイルス感染者の発生について:東京電力 4月25日
  
 さらに、柏崎刈羽原発が所在する柏崎市からはもう3名の感染者が確認されているが、そのうち2名が東電社員(柏崎刈羽原発ではない事業所に勤務)、そして、残る1名が、感染が確認された東電社員の家族とされている。すなわち、これまでに柏崎市で確認された感染者5名すべてが東電関係者なのだ。*
〈*新型コロナウイルス感染症患者の発生 柏崎市 4月25日更新
 5人目の感染者が確認された4月25日には、事態を重く見た櫻井雅浩 柏崎市長が緊急のコメントを発表し、東電に徹底的な検証を求めるとともに、柏崎市民に注意をうながした。

緊急事態下で原電が進める「不要不急」の再稼働工事

 そのような緊迫した事態のなか、日本原子力発電(以下、原電)は、茨城県東海村にある「東海第二原発」の工事を粛々と続けている。東海第二原発は運転開始から42年目にもなる、言わずと知れた老朽原発だ。不幸中の幸いにして、東海村では 5月14日現在まで新型コロナ感染者は1人も確認されていないが、この新型コロナ大災害下でこの原発の工事を続けることは、はたして正当化されるのだろうか。
 東電も新型コロナ対策をとりながら業務の多くを継続しているが、東電には電力インフラを守る使命があり、名目は立つ。しかし、原電はどうだろうか?
 原電は原子力発電のみで発電事業を行っている会社だが、2011年5月以来、発電を一切行っていない。同社の敦賀原発1号機は2011年1月に定期検査に入り、運転を停止したまま2015年4月に廃炉が決定、現在は解体工事を行っている。
 敦賀原発2号機は2011年5月に1次冷却材中の放射能濃度が上昇するトラブルで停止し、原電は再稼働を目指しているが、今年の2月に深刻な不正行為、すなわち、原電による「地質データの不適切な書き換え」*が発覚し、このまま廃炉となる公算が濃厚になってきた。
〈*福井新聞 2020年2月8日 ― 原電が敦賀2号地質データ書き換え 規制委「審査の根幹」会合打ち切り〉
 そして、残る東海第二原発は、2011年3月11日の東日本大震災のときに自動停止し(参照:日本原子力発電)、そのまま同年5月21日に定期検査に入って以降、一度も運転できていない。
 その東海第二原発で今、「不要不急」としか思えない工事が続けられている。あの老朽原発をなんとしても再稼働させるための、総額2500億円超になるとも言われる大工事*だ〈*朝日新聞 2019年12月17日 ― 東海第二原発工事、700億円予算オーバー 回避困難か〉
 その費用、そして、工事作業量の膨大さに加え、この再稼働工事には「不要不急」と思わせる要因が少なくとも2つある。それらはともに、「再稼働はまず不可能だろう」と思わせるほどの重いものだ。

周辺自治体を苛立たせる原電の態度

 まず1つは、再稼働について周辺自治体から了解が得られる見込みがほとんどないことだ。原電はこれまで、周辺自治体を苛立たせる行為を繰り返してきている。その最たるものが、2018年11月に和智信隆 副社長によってなされた「『拒否権』と新協定の中にはどこにもない」*発言だろう。〈* 「市村に拒否権ない」発言、原電が撤回 東海原発再稼働|2018年11月24日朝日新聞〉
 原電は2018年11月7日、原子力規制委員会より「原則40年」から「最長60年」への運転期間延長と再稼働の認可を得た。ただし、この認可には複数の条件が付けられている。その1つが、周辺自治体からの了解を得ることだ。そのため原電は、同年3月に東海村や水戸市など周辺6市村と新しい安全協定を結び、協議を進めていた。
 ところが、原子力規制委員会から認可が下りたその日、協議を通じてのこれまでの努力を無にするような発言が原電副社長の口から飛び出した。それが「『拒否権』と新協定の中にはどこにもない」だ。この発言はつまり、「周辺自治体には東海第二原発の再稼働を拒否する権利はない」ということだ。原電副社長は認可が下りた喜びのあまり、ついつい内心の一部を漏らしてしまったのだろう。
 原電副社長のこの発言は当然のごとく周辺自治体から手厳しく批判され、原電は2018年11月24日に、この発言を正式に撤回している。さらに、2019年2月28日には、東海村の山田修村長が「再稼働については、1市村でも反対の場合は先に進ませない姿勢」を改めて強調*し、周辺自治体が『拒否権』を持つことを強く主張した。〈* 東海第2再稼働方針、地元6市村に伝達 |日本経済新聞2019/2/28〉
 周辺自治体からの理解を誰より必要としているはずの原電が働いたこの不義理は、後々まで不信の種となるだろう。

実現が厳しい広域避難計画の策定

 「再稼働はまず不可能だろう」と思わせるもう1つの要因は、再稼働の認可に必要となる「広域避難計画」の策定が、どう見ても実現しそうにないことだ。東海第二原発の再稼働が許されるためには、福島第一原発事故のような苛烈事故が起きた場合に備える避難計画を、茨城県内の14市町村が立案し、策定する必要がある。しかし、その立案は難航を極めており、「仮案」をまとめることができたのは現在までにたった3市(常陸太田・笠間・常陸大宮)に留まっている(参照:東海第二原発差止訴訟団資料 )。
 広域避難計画の策定が難航するのは無理もない。そもそも、あまりに無理難題すぎるのだ。避難対象となる住民は90万人を超え、避難先は茨城県内に留まらず、福島・栃木・群馬・埼玉・千葉と多くの県にまたがる。避難には無数のバスが必要になるが、茨城県バス協会は放射線被ばくを受ける状況下での対応を強く拒絶している。(参照:しんぶん赤旗)
 さらに、原発近くの病院や老人ホームからは早急な避難をせず、その場で屋内退避せよ、という無慈悲な案が出されている。これは、無理な避難によって高齢の入院者らが亡くなるのを防ぐための案であり、一定の妥当性はあるものだが、しかし、近い将来にどれほどの放射線量になるか分からない場所で避難を続けることが、果たして入院者たちに可能なのかどうか、入院者や付き添う医療従事者たちに精神を患う人が出ないかどうかは、極めて不安だ。
 これら諸々を含め、広域避難計画にはあまりにも無理難題が多い、多すぎるのだ。近い将来に全14市町村で策定がなされるとは、とても思えない。いっそ諦めるべきではないだろうか? そうすれば避難についての余計な心配をする必要がなくなり、策定までに掛かる自治体予算の無駄(避難先自治体との会議費用、避難訓練経費など)も大いに省けるのだから。
 以上の2つの要因から、筆者は東海第二原発の再稼働はおそらく不可能だろうと考えている。もしも、その読みが正しいとすると、原電が現在行っている再稼働工事は、将来に無駄にしかならない、まさに「不要不急」の工事ということになる。この新型コロナ禍が進行する現在に、感染リスクを犯してまで続けるべき工事ではない、ということになる。
 残念なことに、茨城県の大井川和彦知事は今年4月28日、「大きな脅威にはならない」として、再稼働工事の中断を求めないことを発表した(参照:東京新聞)。市民団体や共産党茨城県委員会などによる中止要請を無視した格好だ。
 茨城県は休業要請に応じないパチンコ店をいじめ抜いた県の1つだが(参照:日経新聞)、パチンコ店に厳しく、原電に甘いというこの“アンバランス”感覚は、一体どこからくるものなのだろうか。茨城県の新型コロナ対応はここ最近、かなり上手くいっているだけに(下図)、この件は非常に残念だ。
 多数の病院で次々と大きな院内感染が起こっていることから、新型コロナの感染予防が極めて難しいものであることは、すでに極めて明らかだ。県や国はそろそろ、この「不要不急」の再稼働工事に見切りをつけ、原電を、そして、原発作業員たちを楽にさせてあげるべきだろう。

<文/井田 真人(いだ まさと)>

【井田 真人】
いだまさと● Twitter ID:@miakiza20100906。2017年4月に日本原子力研究開発機構J-PARCセンター(研究副主幹)を自主退職し、フリーに。J-PARCセンター在職中は、陽子加速器を利用した大強度中性子源の研究開発に携わる。専門はシミュレーション物理学、流体力学、超音波医工学、中性子源施設開発、原子力工学。
KEY_WORD:敦賀2号審査_日本原電_断層データを無断書き換え_:TOUKAI_GEN2_:FUKU1_:HIGASHINIHON_:TSURUGA_:KASHIWA_: