[2006_03_25_03]志賀2号差し止め判決 国、業界 広がる衝撃 地震国のアキレスけん 設計基準改定に影響も(福井新聞2006年3月25日)
 
 北陸電力志賀原発2号機(石川県志賀町)の運転差し止めを認めた24日の金沢地裁判決は、電力業界や国に衝撃を与えた。地震多発国、日本の原発のアキレスけんともいえる「耐震性不足」を指摘した内容に、反対派は「ほかの原発も止めるペきだ」と勢いづく。原子力安全委員会が進める原発の耐震指針見直しにも影響を与えそうだ。

 ▽予兆

 「すごい」「信じられない」。午前10時、判決が言い渡された瞬間、傍聴席から大きな拍手がわいた。
 予兆はあった。昨年9月、当初の結審予定だった口頭弁論。井戸謙一裁判長は断層帯の評価や耐震対策で電力側に追加立証を求め、結審を延期した。弁論後の集会では原告から「耐震性を理由に請求を認める可能性があるのではないか」と期待する声が上がった。
 グリーンピース・ジャパン核問題担当の野川温子さんは「画期的だ。東京電力のトラブル隠しなどずさんな施設管理が次々に明らかになり、住民の不安が高まっている。住民の立場に立つた判決だ」と評価。「浜岡原発(静岡県御前崎市)でも運転差し止めを求めている。判決は浜岡にも影響を与えるだろう」と、同じ結論を望む。
 経済産業省原子力安全・保安院の広瀬研吉院長が判決の知らせを受けたのは午前10時15分ごろ。院長室で記者団から「運転差し止め」と聞くと目を見開いて絶句。「初めてうかがったので今はコメントできません」。動揺は隠せなかった。

 ▽不備

 耐震性について判決は@マグニチュード(M)6・5という直下型地震の想定が小さすぎるA原発近くの断層帯を考慮していないB耐震設計の基となる「基準地震動」を導き出す手法が観測結果に合わず妥当性がない−と不備を指摘した。
 Bでは、東北電力女川原発(宮城県女川町など)が停止した昨年8月の宮城県沖地震で、想定していた基準地震動のレベルを超えたことを、判断根拠とした。
 原子力安全委員会は耐震指針の見直しを進めており、M6・5という目安を廃止。地震動の算定方法も改善するよう求める見通しだ。判決は、指針の見直しを先ん取りしたともいえる。

 ▽懸念

 「国の耐震基準を満たしているのに、運転差し止めを認めた」。電気事業連合会幹部は判決を厳しく受け止め、耐震指針見直し作業への影響を懸念する。
 浜岡原発訴訟を抱える中部電力は23日、同原発の耐震性を向上させる工事に着手。幹部は「判決がどの程度影響するか分からないが、国の基準がさらに厳しくなれば、それに合わせてやっていくしかない」と話す。
 原発は住民の反対などで新設が難しく、既存原発の稼働率の向上が最優先課題となっている。経産省が検討中のエネルギー政策の指針「新・国家エネルギー戦略」でも、原子力の比率を現状の約三割から引き上げる方向で議論が進んでいる。
 各電力会社は長野県西部地震(M6・8)を基に計算した450ガルを「新しい目安」(電力関係者)にしたい考えだ。「既存原発でも大きな工事が必要ない」とされる数値だが「国が認めてくれるかどうか」と気をもむ。
 国内で初めて商業炉の運転差し止めを認めた判決で、北陸電力は原発への不安の高まりを警戒する。判決後の会見で幹部は顔をこわばらせながら「地域住民の皆さんには今後、これまで以上に安全性について説明する活動を進めていきたい」と話した。
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