[2024_02_01_02]「どこに避難すれば…」今回の地震で見えた志賀原発の避難計画の課題 家屋全壊が相次いだ珠洲市では過去に“原発の建設計画”が(TBS2024年2月1日)
 
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「どこに避難すれば…」今回の地震で見えた志賀原発の避難計画の課題 家屋全壊が相次いだ珠洲市では過去に“原発の建設計画”が

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 今月1日の地震で被災した能登半島には現在運転を停止している志賀原発がありますが、実は珠洲市にも幻となった「原発の建設計画」があることをご存じでしょうか?もし、計画通り原発が建設されていたら…。能登半島地震が突きつけた、「原発」の課題について考えます。

 ■かつての原発予定地で地盤隆起…

 家屋の半数が全壊するほど、激しい揺れが襲った石川県珠洲市。この町には、かつて原発の建設計画がありました。
 当時 珠洲原発の反対運動に参加していた 北野進さん
 「地震が来たって大丈夫、というパンフレットも配布されていました」
 1970年代半ばに持ち上がった「珠洲原発の建設計画」。
 関西電力が高屋地区に、中部電力が寺家地区に、それぞれ大型原発を建てる構想を打ち出しました。
 当時、安全性を疑問視した反対派と、過疎の進む町に原発は必要だとする推進派で、町は二分。
 2003年に計画が凍結されるまで、約30年にわたり、対立が続きました。
 当時、反対運動に参加していた元石川県議の北野進さんに、原発の建設予定地だった寺家地区を案内してもらいました。

 北野進さん
 「地震の被害に加えて、津波の被害で、車が流されて、家の中に突っ込んで…」
 建設予定地だった2つの地区は、最大震度7を観測した、今回の地震の震源にも近く、至る所に被害の爪痕が残されていました。

 北野進さん
 「向こうを見ていただくと、海岸の先端辺りが予定地なんですが、地震のあとでここに来てみると、大きく変わっていることにびっくりしてしまいます」
 地震の影響で隆起した海岸。海へと伸びた岩場は、以前は海の中にあったものだと言います。

 北野進さん
 「この周囲に、活断層があるのかどうかということは、当時の知見では確認されていなかったし、地盤が隆起するような場所かどうかなんてことは、(電力会社は)全く想像すらしていなかったと思う。珠洲では、計画を無くすことができたが、今ある全国の原発も、その程度の知見で作られてきた、というところを意識しなければいけないのではないか」

 ■原発事故時の指定避難ルートが通行止め…

 最大震度7を観測した志賀町にある北陸電力・志賀原子力発電所。
 地震の前から運転を停止していましたが、今回の地震で3mの津波が押し寄せ、敷地内にはひび割れが…
 一部の変圧器が故障し、2万リットルの油が漏れ出すなど、トラブルが相次ぎました。
 原発周辺の住民からは、原発事故の際の「避難計画」を疑問視する声も上がっています。

 志賀町の住民
 「どういう形で逃げるのか、避難ですね。今までのマニュアルじゃダメじゃないんですか」

 志賀町の住民
 「1年に1回、避難訓練してるんですけど、何かあった場合はどうすればいいのか」
 震度6強の地震で、放射性物質が漏れ出したとの想定で実施された、志賀原発の原子力防災訓練では、原発から30q圏内に住む住民は、車やバスで金沢方面などに避難。道路が寸断し孤立した地域では、ヘリや船を使って避難する計画です。

 ところが…
 喜入友浩キャスター
 「こちらは、志賀原発の有事の際に、避難ルートに指定されている国道249号なんですが、土砂崩れの影響で、当初は通行できなかったといいます」
 今回の地震では、避難ルートに指定された11本の道路のうち、7本で通行止めになり、渋滞が発生。
 津波や天候の影響で、船やヘリでの避難も困難な状態に。
 実際に、避難対象となる30q圏内では、8地区で孤立状態が続きました。

 ――道路もボコボコですね。
 志賀町の住民「(地面が)盛り上がってたんですよ」
 ――車が通れない状況?
 志賀町の住民「通れん、全くダメ」
 ――避難経路の安全性は?
 志賀町の住民「そんなこと、どこの行政も考えとらん」

 石川県は避難計画の見直しについて、地震被害を検証した上で判断するとしています。
 現在、再稼働に向けた審査が行われている志賀原発。
 地震を受け住民は…
 志賀町の住民
 「始めは、再稼働して欲しいと思っていたんですけど、こういう大きい地震があったもんで、原発は撤去してもらった方が良いんじゃないかと、最近は思っています。ただ、町のことを思ったら、志賀町は本当に過疎化で。原発がなくなったらたぶん、志賀町はなくなります」

 珠洲原発の反対運動に参加した北野さんは、この地震を教訓にした議論が必要だと話します。
 北野進さん
 「珠洲原発がなくて良かった、志賀原発は止まっていたから良かったね、という話ではなく、原子力災害対策指針の抜本的な見直し、といいますか、本当に見直しができるのか、避難が成り立つのか。国は真剣に議論していただきたい」

 ■“想定外を前提”にした災害対策は可能か?

 藤森祥平キャスター:
 北陸電力は事前に、能登半島北部の大地震断層について、連動する全長を96キロと評価をしていました。
 ただ、国の調査によりますと、今回の地震で、その1.5倍、150キロ程度の断層が連動したのではないかと見られています。
 これを受けて、東京学芸大学の藤本光一郎 名誉教授は、「一般的に、断層の長さが長いほど、地震のエネルギーは大きくなる。調査が難しい海底断層は、“想定外を前提”に、安全基準などの評価を見直す必要もある」と話しています。

 喜入友浩キャスター:
 原発周辺に住む方々を取材すると、多く聞かれたのは、避難計画の見直しを求める声でした。
 住民の中には、毎年のように避難訓練に参加して、地域のどこに集まって、用意されたバスに乗って、どのルートでどこに向かうのか、しっかりと頭に入れていたという方もいらっしゃいました。
 ただ、今回の地震では、その避難計画通りのルートで避難するのは厳しいのではないか、道路状況があまりにも悪すぎた、と振り返っています。
 確かに、道路状況というのは、行ってみないと通れるかどうかわからないもの。ですから、想定外をどれだけ減らせるかも含めて、避難計画の見直しが求められます。

 斎藤幸平 東京大学 准教授:
 今回の避難の話で思い出したのは、東日本大震災のときも、南相馬市では、避難計画がなかった。それで混乱してしまったという話があった。
 これは、原発は基本的に事故を起こさないものだ、という原発神話があって、深刻なシナリオの避難計画が作られない傾向があったせい。
 その弊害が、今回も、同じように現れていたんじゃないか。
 “想定外”という言葉に関しても、津波が来て、防波堤が傾いたなどの情報が、常に後出しになって、追及されたあとに、「これは想定外でした」という、責任逃れの言葉になっている。
 活断層について、あらかじめ全ての情報を想定することができない中で、こういう技術を使っていいのか。原発の災害対策は、“想定外が前提”になってしまっている。それなのに50基以上も作られてきたのは問題。

 藤森キャスター:
 全国では現在、33基ある原発のうち、西日本にある12基が再稼働している状況です。
 今回の能登地震を受けて、市民団体が、県などとコンタクトを取って、避難計画の見直しなどを求める動きが、少しずつ広がっています。

 ■都市も地方も「このままではいけない」

 斎藤幸平 東京大学 准教授:
 原発を使い続けることが、地震大国の日本で、果たして可能なのか。私は、最近の原発回帰の動きには違和感がある。
 日本は、福島の原発事故の反省として、再生エネルギーに転換していくべき。
 そして、大都市が大量の電力を使用することで生まれるリスクやツケを、地方に押し付けている構造を見直すためにも、都市部における過剰消費を見直していく。それを私は脱成長と言っている。
 それと合わせて、断熱などの効率化をやっていくことが、今後は必要になる。
 それらを実現するのは難しいことだが、それをやらなければいけないということ自体が、真の原発コストなんだと思う。

 喜入キャスター:
 志賀原発は、町の高台にあって、遠くからでもその姿を見ることができます。取材に入って改めて、原発がある町なんだと感じました。
 地元の方の中には、しばらく原発が稼働していないので、原発への意識が薄くなっていたと話す方がいらっしゃいました。
 今回の地震をきっかけに、改めて原発について考え直して、再稼働には反対したいという方もいらっしゃいました。
 一方で、雇用を生み出しているというのも確かです。
 志賀原発の周辺には、朝早くから、ひっきりなしに関係者の車が出入りしています。地元の方の中には、「この町は原発が支えている」と話す方もいらっしゃいました。
 こうした複雑な事情があるとはいえ、今回の教訓は、このままではいけない、ということなのではないでしょうか。

 小川彩佳キャスター:
 東日本大震災から、まもなく13年というタイミングでもありますが、改めて、当時に感じた、原発への恐怖や、このままでいいのかという思いを持たなければならないと思います。
 斎藤幸平 東京大学 准教授:
 みんな忘れていますよね。そうした地域が、交付金漬けになってきたわけだが、そうではなくて、自立できるよう支援することが国の責任。それが今抱えてる問題だと思います。

 ■石川県珠洲市に“幻の原発建設計画”「みんなの声」は

 NEWS DIGアプリでは『地震と原発』などについて「みんなの声」を募集しました。
 Q.石川・珠洲市にあった原発建設計画 知っていた?
 「知っていた」…16.4%
 「地震後に知った」…33.8%
 「知らなかった」…49.8%
 ※1月31日午後11時43分時点
 ※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
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