[2007_08_03_01]原発検証に難題 地質複雑、前提の断層特定手間取る 糸口は余震の震源分布 東電の予測なぜ過小? 国含めた事前対応の検証必要 中田高・広島工業大教授(地形学)の話(朝日新聞2007年8月3日)
 
 新潟県中越沖地震はどのような断層が起こしたのか、いまだに議論が続いている。だが、想定を大きく上回る揺れが東京電力柏崎刈羽原発を襲ったことははっきりしており、建設時に想定した地震や安全審査が妥当だったか、検証する必要がある。
(佐々木英輔、添田孝史)

 糸口は余震の震源分布

 「地元で長く続いてきた活断層論争の究明を求めたい。東電や国の説明をよりどころにしてきたが,揺れが限界値を超えた。今までの説明では納得できない」「いったん許可したものも、その後の知見に基づき再度の検証が必要だ」
 地震に見舞われた柏崎刈羽原発をめぐり7月31日に開かれた経済産業省の調査対策委員会。地元代表の委員からは地震の想定の甘さをめぐり注文が相次いだ。
 検証は、地震の起きた仕組みの把握が前提になる。だが、今のところ、未知の断層が動いたのか、活断層として既に知られていた断層が動いたのか、はっきりしていない。断層の傾く方法すら決まっていない。
 今回の地震では、原発沖の地下にある北東ー南西方向の断層が、両側から押されて上下にずれたことは、観測された地震波から分かっている。ただ、地震波だけでは断層面が陸地側のずり上がる東傾斜か、日本海側のずり上がる西傾斜か区別ができない。
 鍵になるのは余震の震源分布だ。3月の能登半島地震では、過去に調査された海底活断層とつながるように並び、断層特定の決め手になった。今回の余震の垂直方向の分布を見ると、単純には東傾斜に見える。
 地震翌日、政府の地震調査委員会は東傾斜との見方を示した。だが、東京大地震研究所はその後の詳しい分析で、まず西傾斜の断層で本震が起き、東傾斜はその後の余震の断層を示している可能性を指摘した。
 一方、地殻変動の観測から、国土地理院は西傾斜の南北2枚の断層、産業技術総合研究所は東傾斜の主断層と西傾斜の分岐断層、といったモデルを提唱した。
 百家争鳴の背景には地質構造の複雑さがある。東京大地震研の平田直教授は「震源域が海底で、地震計が取り囲んではいない。地質構造が不均質だと解析の精度が悪くなる」という。

 東電の予測なぜ過小?

 断層論争は未決着だが、原発での地震動が想定を大きく超えたことは明白だ。東電の予測はなぜ過小だったのか。
 今回の地震を起こした断層が西傾斜なら、陸の活断層を甘くみていた可能性がある。
 原発の東約14キロには長岡平野西縁断層帯(全長約83キロ)がある。柏崎刈羽原発は@同断層帯の一部になっている鳥越断層(長さ17.5キロ)が起こすマグニチュード(M)6.9A同断層帯よりさらに原発に近い常楽寺断層(同12.5キロ)が起こすM6.7B直下10キロで起きるM6.5の三つの地震を主に想定して設計されていた。
 東大地震研の余震分布と地質構造の分析から、今回の地震を起こした断層は鳥越断層とつながっているとの説も出てきた。断層面が傾いていたので、原発までの距離が想定より近く、揺れが大きかった可能性がある。
 断層が東傾斜なら、海の活断層を過小評価していた可能性が出てくる。
 東電は79〜85年の調査で海底に断層を見つけた。今回の地震と関連する可能性を東電も認めた断層だ。
 束電は断層の長さを約8キロと見積もったが、地質調査所(現産業技術総合研究所)が94年に発行した海洋地質図では約20キロもあるとされた。東電は00年ごろ違いに気づき、昨年の原発の耐震指針改定を機に、再調査に向けた準備を進めていたところだったという。
 ただ中田高・広島工業大教授らは東電の資料を再分析し、「調査当時でも、海底の活断層は8キロより長いと判別できたはずだ」と指摘する。

中田高・広島工業大教授(地形学)の話

 どの断層が今回の地震を起こしたか確定していないが、東京電力の事前の想定や、国の審査に問題がなかったのか、きちんと検証する必要がある。原発の耐震指針に問題があって当時の知見では今回の地震が想定できなかったのか、それともほかのどこかに間違いがあったのかを、はっきりさせなければいけない。
 原発の耐震指針が昨年、全面的に改訂されて、各電力会社は海や陸の活断層の再調査を進めている。
 しかし、昨年6月に島根原発で、今年3月には志賀原発で、電力会社の活断層の過小評価と、それを国の審査も見過ごしていたことが明らかになった。
 再調査以前に、こうした過小評価の原因をはっきりさせることが先決ではないか。調査や審査の問題点も検討・改善すべきだ。そうでないと、新指針に基づいて形だけ再調査をしても安全は確保できないだろう。
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