[2023_05_31_06]GX「束ね法案」の可決成立で原子力推進を狙う岸田政権を糾弾する 運転期間の緩和に加え原子力の“憲法”=「原子力基本法」も書き換える狡猾さ 日本をほろぼす原発事故を自ら引き入れる暴挙を許すな 法律が成立しても今後一つ一つを止めることで反撃できる 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2023年5月31日)
 
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GX「束ね法案」の可決成立で原子力推進を狙う岸田政権を糾弾する 運転期間の緩和に加え原子力の“憲法”=「原子力基本法」も書き換える狡猾さ 日本をほろぼす原発事故を自ら引き入れる暴挙を許すな 法律が成立しても今後一つ一つを止めることで反撃できる 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 
◎ 2023年5月31日、この日は後年に、取り返しのつかない悪法が成立した日として記憶されるのかもしれない。
 GX原発推進法、実際の名称は「脱炭素電源法」が参議院で可決成立し、2011年福島原発震災以来の国の方針であったはずの「原発依存からの脱却」が「原発依存への転換」と、大きく変わった。

◎ この法案は「原子力基本法」「電気事業法(電事法)」「原子炉等規制法(炉規法)」「再処理法」「再エネ特措法」の5つの改正を柱にした、原子力拡大のための法律だ。
 国会では、自民、公明のほか、維新、国民民主などが賛成した。
 賛成議員には、これから原子力災害に対する重い責任がかかってくることはもちろん、今後原発の長期停止による電力ひっ迫が発生した責任もあることを指摘する。
 これほど不安定かつ、停止しやすい原発に大電力を依存することの危険性は、東日本大震災や中越沖地震などで常に実証され、議論されてきたのだから。

1.「脱原発電源法」を作るべきだった。

 2011年3月11日の震災により、多くの人々に避難を余儀なくさせ、加えてその後長期間にわたる避難生活を強いてきた原子力政策。未だに帰還困難区域という名の汚染地帯が広がる福島県。その後遺症も癒えてない今、原発依存を急速に進めようという政策に福島の人々も強く反対している。
 原発をなくすためには代替電源を開発する必要があり、火力に依存すると環境負荷や価格の不安定さが問題になることは誰にも分かっていた。
 二度のオイルショックはその典型だし、政情不安定な国からの調達を余儀なくされていることも変わらなかった。
 従って、当面は火力の高効率化と電源の分散を図り、多くの投資は原発と火力を代替するエネルギー源を開発することに投じなければならないが、この12年間、ほとんど無策だった。
 電力11社の安全対策費の合計は、2023年1月時点で6兆890億円以上になると、共同通信(3月9日付け)が報じている。この12年間での無駄な投資に加え、これからも巨額の投資を原発に続ける法律の制定は、この国を原発依存の奈落に突き落とすことになる。
 今作るべき法律は、脱原発法だったのだ。

2.ウソ偽りの立法事実

 この法案がどれだけ拙速で異様かが、国会審議でも次々に明らかにされていった。
 60年運転制限(本当は40年制限)を、炉規法から電事法に移す根拠について経産省は、利活用を行う立場から運転期間を定めるのが元々の考え方としながらも、規制委が高経年化技術評価を行い運転可能であるとの審査を経なければ動かせないから、安全性の確認は規制委で十分出来るし、従来と変わらないと主張する。
 ならば、安全規制の観点から炉規法に40年としてきた規制を電事法に移す理由はどこにあるのか。これでは立法事実が存在しない。
 規制委は山中委員長が「運転期間については利活用側の決めること」などと、安全規制とは関係ないかの発言を繰り返したが、これもまた立法事実として炉規法を2012年に改訂した際の考え方からかけ離れている。
 炉規法を改定した際に運転期間を40年とする制限を盛り込んだのは、「経年劣化等により安全上のリスクが増大することから、運転することができる期間を制限」とされていた。
 結局、電気事業者が長期運転停止してきた原発を動かしたとしても、最大60年の制限にかかれば利益を生み出す期間が限られるので、できる限り「使い倒したい」と考えてきたことへの、行政のなりふり構わぬ「規制緩和」の結論が先にあったということだ。
 その結果、相対的に原子力災害や長期運転停止による影響は、国民や消費者がかぶる確率が高くなる。
 つまり電力会社など事業者のツケを私たちに回すための法案だ。どっちを向いて仕事をしているのか明白だ。決して「グリーン」でも「クリーン」でもない。
 放射能まみれの汚染物を海に投棄し続け、その被害を全世界の人々につけ回すのと同根である。

3.具体的な規定は何もできていない

 60年を超えて運転出来る規定を電事法に定めたものの、具体的な期間計算については全く示されていない。
 これらは今後策定される規則や基準で定められるが、その内容については今後審議会等で議論して決めるという。
 つまり、どれだけ延長可能なのか誰も正確にはわからないまま、法律では骨格だけが審議されていた。
 規則や実施基準を示して、そのような延長を認めて良いのかも含めた議論ができなければ、延長期間の妥当性の議論もできない。
 規則や基準は国会での議決を要しないので、経産省が省令などで決めてしまう。問題点も深まらない。こんなやり方は民主的ではない。独裁国家のやることだ。
 この法律は、一般的な行政法ではない。未曾有の災害を引き起こした原子力の将来をどうするかを決める法律だ。今だけでなく未だ生まれてもいない未来の人々へも大きな影響を与える。
 また、一度走り出したら容易に変えられない。そんな法律を熟慮もせずに決める、この国の危うさを多くの人は気づいてさえいないのだ。

4.核動力や核拡散、核兵器開発へと突き進む

 防衛産業を育成し、武器を他国に売り利益を得たいとの軍需産業側の意向を受けて、武器輸出を次々に解禁していったように、こんどは原子力産業でも同じ構造で海外の核開発へと参入しようとしている。
 特に原子力基本法を改訂した最大の理由は、国の責務として原子力産業を育成、発展させることにある。
 原子力産業がこれから投資したいと考えているのは、小型モジュール原子炉や高速炉、高温ガス炉などの原子炉開発とされる。これらのうち小型モジュール原子炉は既に多くのタイプの設計、開発が進められているが、基幹にあるのは軍事利用だ。
 小型モジュール原子炉を搭載した無人潜水艦を武装し、相手国の近くでミサイルを発射するようなシステムを開発していくことになれば、例えば「敵基地攻撃能力」などと、日本が敵国として想定する国の攻撃兵器として使用できる。
 こうしたところに直結する技術開発に日本のメーカーも参入することを、政府は資金支援を含めて後押しすることが可能な改訂を行った。
 これが将来、日本の核武装にも直結することになるかもしれない。これについての警戒感は、国会議員にもほとんど見られないのは残念だ。

5.法律が成立しても今後一つ一つを止めることで反撃を強めよう

 この法律が可決成立しても、すぐには施行できない。
 先ほど述べたとおり、実施するための規則も規定もできていない。
 そのため施行日は「2年以内」とされている。最長2年先にならないと法律は効力を有しない。それまでは従来通りだ。
 まず、これら規定を作る過程を問題にし、追及していかなければならない。
 さらに、施行されるまでに原発を運転停止に追い込む取り組みもできる。
 防災(避難)計画の不備で運転停止を命じられている東海第二原発、核防護体制の不備から運転停止を命じられている柏崎刈羽原発、事実上審査が止まっている大間原発など、問題を多発させている原発を止めるための努力を、これからも続けていこう。

※関係記事
 原発60年超運転法成立 事故後の政策転換点

 エネルギー関連の5つの法改正をまとめ、原発の60年超運転を可能にする「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が31日、参院本会議で可決、成立した。
 東京電力福島第一原発事故後に導入した「原則40年、最長60年」とする運転期間の規定の大枠を維持しつつ、原子炉等規制法から電気事業法に移管し、運転延長を経済産業相が認可するのが柱で、事故後の原発政策は転換点を迎えた。(後略)
          (5月31日「東京新聞」夕刊1面より抜粋)
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