[2022_11_15_02]『電力の体力「絶対必要」エネ庁長官、原子力運転期間は地域の声踏まえ』 許認可権限のある政府高官が電力会社の代弁者に業界紙「電気新聞」の11月14日の記事から 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2022年11月15日)
 
参照元
『電力の体力「絶対必要」エネ庁長官、原子力運転期間は地域の声踏まえ』 許認可権限のある政府高官が電力会社の代弁者に業界紙「電気新聞」の11月14日の記事から 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 電気新聞の冒頭を紹介する。
 見出しは「◆法改正へ結論年内に」
 『経済産業省・資源エネルギー庁の保坂伸長官は11日、電気新聞のインタビューに応じ、電力各社が表明している規制料金を含む電気料金値上げについて「停電させない『ノー・ブラックアウト』が基本形だとすると、担保するための経営体力は絶対に必要」と述べ、一定の理解を示した。原子力発電所の運転期間の在り方では、安全対策工事の費用回収のため「(少なくとも何らかの)猶予があって良い」と話し、立地地域の意見も考慮しながら審議会で検討を進める方針だ。』

◎電力の体力を奪ったのは原発だ

 震災後、全ての原発が止まっていった。そのとき、日本は政策として「原発依存から脱却」を掲げた。
 これを決めたのは安倍政権下である。(最新の政府方針は第六次エネルギー計画の中にある「原発依存度の可能な限りの低減」という言葉)
 しかし見かけは「脱却」「低減」などと言いながら、仕掛けていたのは国民の移り気な性質を見越し、目先の利益ばかりを気にし、いずれはそんな決定も忘れ去るに違いないと見下した上で、数年程度で原発推進政策に復帰することだ。
 その視点で見れば、様々な仕掛けを行ったことが見えてくる。自然エネルギーの普及への妨害などは典型である。
 その間に電力会社が着々と再稼働の準備を進め、規制委も右から左へと許可を出し続ければ、いずれは震災前の雰囲気に戻せると甘く考えていた。
 しかし現実は、福島第一原発事故の被害はあまりにひどく、帰還困難区域の解除も進まず、東電の姿勢は被災者への賠償も不十分。責任も取らない、口だけの「福島の三つの誓い」(1.最後の一人まで賠償貫徹 2.迅速かつきめ細やかな賠償の徹底 3.和解仲介案の尊重、東電のHPより)など信じる人はどこにもいない。
 原発再稼働も、規制委での新規制基準適合性審査のやりとりが保存されている動画配信を見ていると、事業者側の放漫な態度、知見の欠如、管理者の無知無能が随所に見られ、規制委に対して「この辺で止めてくれよ」と言いたげな態度を示すことさえある。
 そして検査データのねつ造や検査の妨害さえ行った。
 これで再稼働の許可を出していたら、それこそ「規制が事業者の虜」になるだけであるから、規制委も「許可したくてもできないではないか」と悲鳴を上げていたように思う。
 司法もいくつもの差止決定、判決を下し、損害賠償請求では東電の責任など当然のごとく、一部で国の責任も認めた。
 そんな背景で再稼働は進まず、一方で安全対策工事に巨額の費用を投じ続けて(一部の会社では)社内留保もなくなり、電力危機だと言い始めるのだから、一言「アホなのか。」としか言いようがない。
 エネルギー危機だ、再稼働できなくて会社が持たないなどという経営者は即刻辞任すべきである。

◎巨額費用を食い潰す原発

 柏崎刈羽に、少なくても1兆2千億円つぎ込んだ挙げ句、日本原電東海第二の再稼働支援として電気料金の前払いで2200億円もの資金を提供する東京電力などは、自ら起こした原発事故で今後13兆円以上の費用負担が見込まれるというのに、1ワットも電気を生まない原発に巨費を投資し続けられるのが理解不能だ。
 経営陣にまともな経営判断ができるものはいないのかと問いたい。
 なお、柏崎刈羽も東海第二も工事は続いているので、東電の電気料金にはそれらの負担も含まれている。
 それにエネルギーコストの上昇が加わって史上最高額の電気料金になろうとしている。それに怒りを感じるのであれば、直ちに原発への資金投入は止めさせる必要があるのだ。
 他の電力会社も推して知るべしで、自然エネルギーを有効活用できるはずなのに原発に巨額投資をしてしまい、資金繰りがおぼつかない。
 自然エネルギーは大電力を生む時間帯が限られ、かつ、大消費地に送らないと規模の効果は出ないのに、送電網が九電力独占体制時代のままでは大きな利益を生まないことぐらい、素人目にも分かる。
 そうなれば、震災後の10年あまりで何処に投資すべきだったか明らかだ。
 東西連系だけでなく、日本列島を縦貫する直流送電線を構築する「国内スーパーグリッド」を実現しておけば良かったのである。
 そうすれば自然エネルギーの長距離活用ができるし、夏冬のひっ迫時に東西の端から端まで電力の連系ができる。
 原発以外の、今ある設備を最大限活用できるのである。

◎国の責任は重い

 そうした努力は一電力会社では不可能で、資源エネルギー庁こそが責任を持って普及実現をするべき立場であり、そのためには一時的に国費を投入、例えば設備投資を国費でおこない、償還は債権化して一般に売却するなどしても良い。一種の電力債である。
 国は、こうした技術への投資を促進し、電力危機に陥らない政策を作る立場のはずだ。
 その資源エネルギー庁長官が、何を間違ったか、原発の安全対策工事の費用回収のために運転期間延長を認めろという。本末転倒とはこのことだ。
 自分の職責も果たさないものが、法令を曲げて電力会社のリスクを国民に転化しようというのである。どの口が語るのかと言いたいくらいひどい暴論である。
 さらに問題なのは、許認可権限のある人間が、まだ申請も出ていない段階で、料金値上げに理解を示すような発言をしている。到底容認できないことだ。
 これだけ事業者とズブズブの関係なのは、電力業界が官僚の有力な天下り先になっていることも関係しているのだろう。
 資源エネルギー庁長官の発言、決して容認してはならない。国会でも追及してもらいたい。
KEY_WORD:原発_運転期間_延長_:FUKU1_:KASHIWA_:TOUKAI_GEN2_: