[2022_01_12_01]社説:原発処理水の処分 地元の理解、最優先せよ(秋田魁新報2022年1月12日)
 
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社説:原発処理水の処分 地元の理解、最優先せよ

 福島第1原発でたまり続ける処理水の海洋放出が、いよいよ現実味を帯びてきた。来年春ごろの放出開始を目指し、東京電力が計画の審査を原子力規制委員会に申請した。
 こうした動きに対して、地元の漁業者は反対を貫いている。全国漁業協同組合連合会も「断固反対」を掲げる。
 漁業にさまざまな影響が出るのではないか、という不安があるだけではない。東電がこれまでの約束をほごにし、放出に向けて既成事実を積み重ねているからではないのか。
 東電は2015年、「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わず、(処理水は)タンクに貯留する」と福島県漁連に約束していた。だが実際は、理解が得られているとは言い難い。
 東電の社長は今年の年頭、「地域から信頼される姿を目指したい」とも述べた。本当に理解と信頼を得たいのなら、漁業者の声に粘り強く向き合い、約束を守ることが筋だろう。
 計画では海底トンネルを掘って沖合約1キロに放出。その際、処理水を海水で100倍以上に薄めるという。トンネルのルート選定に向け、昨年末にはボーリング調査に着手した。
 処理水は敷地内のタンクに保管している。原発では冷却水や地下水により、放射性物質を含む大量の汚染水が発生。専用設備で除去しているが、トリチウムは取り除けないとされる。
 本当に海洋放出以外の方法はないのか。研究者らでつくる市民団体は海外の事例も紹介し、他の方法を提言している。
 例えば、モルタルで固める固化処分や石油備蓄用の大型タンクによる陸上保管だ。東電と政府は漁業者の理解を得ることを最優先し、こうした方法へとかじを切るべきではないのか。
 処理水を薄めて放出するとはいえ、懸念も拭えない。市民団体は、トリチウム総量は原発事故前の年間放出量の千倍を超すと推計。「放出は到底許されない」と批判する。漁業者が不安を募らせるのは当然だろう。
 放出には30〜40年かかるとみられるが、一方で大量の処理水が毎日発生し続ける。処分が完全に終わるのはいつなのか。そうした疑問についても、東電と政府は現実的な見通しをはっきりと示さなければならない。
 東電の原発対策はトラブルや不祥事続きだ。それも不信感に拍車を掛けている。
 昨年は福島原発で、故障した地震計を放置していた事実が発覚。放射性物質を除去する専用設備のフィルターが破損しても、原因を調べずに稼働を続け再び破損を招いた。柏崎刈羽原発(新潟)はテロ対策不備で事実上の運転停止命令を受けた。
 岸田文雄首相は年頭所感で「一度決まった方針であっても、国民のためになると思えば、前例にとらわれず、ちゅうちょせずに、柔軟に対応する」と述べた。その「信念」に従い、処理水の処分を再検討すべきだ。
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