[2022_01_13_03]今後は、汚染物を一切出さないことを目標として対処すべき 東京電力の汚染水処理に関連して「放射線影響評価報告書」に対する「意見募集」に送った文書を紹介 (下)(了) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2022年1月13日)
 
参照元
今後は、汚染物を一切出さないことを目標として対処すべき 東京電力の汚染水処理に関連して「放射線影響評価報告書」に対する「意見募集」に送った文書を紹介 (下)(了) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 
10.原子力産業の専門家を集めて安全宣言をするなど 福島の教訓はどこに?

 4P「はじめに」
 『本報告書は、海洋放出に係る計画の設計段階にある現時点における情報を基に、IAEAやICRP等、国際的に認知された機関が定めた基準やガイドラインに従って、ALPS処理水の海洋放出に係る人および環境に対する放射線の影響評価を暫定的に実施し、その結果を記したものである。本報告書の作成にあたっては、人の放射線防護、環境防護、海洋拡散計算の3分野について、社外より専門家を招聘した。』

◎ IAEAやICRPは、いずれも原子力産業界のメンバーであり、公害問題や被ばく(放射線防護ではなく被ばくへの影響について)の専門家ではないし、また批判的な科学者も含まれていないものと思慮する。
 諸外国(民主主義国家と言うべきか)においては、こうした問題については必ず批判的または反対する側の推薦する専門家も含めた人員により構成された、公開され、批判も受け付ける会議体において総合評価をするものである。
 ところが東電は、いわば「身内の専門家」により予め決められた結論を導き出しているに過ぎない。

◎ そもそも東電が「国際基準に照らしても安全な水」と規定する「ALPS処理水」を海に放出し、「環境や人体に影響はないか」との評価を「原子力の専門家」に依頼したら、影響があるとの結論が示されるわけがない。
 聞かれる「専門家」も真面目に調査審議する気にもならない。
 まして、再処理工場など福島第一原発事故の汚染水の何桁も上の「処理水」を海洋放出することに異を唱えないIAEAやICRPの「専門家」である。
 その結論に対して何ら異議を唱えたことのない「専門家」をどれだけ集めてみても結論が変わるはずがないではないか。
 このような会議体の唯一の目的は地元自治体を黙らせることである。
 しかし現実の放射能は、そのような国や東電の都合を「忖度」などしてくれない。
 あらかじめ結論ありきの報告書に何ら価値はないので、撤回すべきである。

11.濃度1500Bq/L規制は「安心感」のためなどではない

 1P「海洋放出にかかる評価の主要点」
 『国は、規制基準を厳格に遵守するだけでなく、一般公衆の安心感を可能な限り醸成するため、ALPS処理水を放出する際に1,500Bq/Lを下回ることを当社に求めている。当社は「基本方針を踏まえた当社の対応」において、放出水の濃度で1,500Bq/L未満かつ年間放出量の上限値を22兆Bqとした。』

◎ これもまたウソである。
 1リットル当たり1500ベクレルとは、他の放射性物質の敷地からの放出等により、敷地境界において年間1ミリシーベルトを達成するためには、トリチウムの量を、この値に制限しなければならないとの評価からだ。
 サブドレンや地下水バイパスをこの値に制限した根拠に基づいたものであり、決して「一般公衆の安心感を醸成」などといった理由ではない。
 だいいち、一般公衆が1リットル当たり60,000ベクレルと1,500ベクレルとの違いを理解していると本気で思っているのか。
 東電さえ理解をしていないのに。明らかに不適切な表現であり、削除すべきである。

・参考
 事故前及び事故後も、規制濃度基準値は6万Bq/Lである。
 ただし事故後は、サブドレン・地下水バイパスの汲み上げ水に含まれるトリチウムの濃度を計測し、管理しながら希釈せずに海洋への放出を行っており、その際のトリチウムの排水基準(運用目標)を1,500Bq/Lとしている。
 運用目標は、敷地境界線量が1mSv/年を超えないように、
各廃棄物に対して割り振られた線量から逆算して得られた数値である。(平成30年度原子力の利用状況等に関する調査事業(多核種除去設備等処理水の処分技術等に関する調査研究)調査報告書 2019年3月29日 三菱総研)

12.失効した管理目標値まで放出する計画の矛盾

 8P 「3−2.放出方法」
 『トリチウムの年間放出量は、当面、事故前の福島第一原子力発電所の放出管理目標値である年間22兆Bq(2.2E+13Bq)を上限とし、これを下回る水準とする。』

◎ 原子力安全委員会が定めた指針「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針について」において、1年あたりの放射性物質の放出量の努力目標として「放出管理目標値」という数値が規定されている。
 震災前の福島第一原発では、トリチウムの水中への放出管理目標値は1〜6号機合計で22兆ベクレル/年とされていたが、事故の影響により状況が大きく変わってしまったとして、指針の適用外とされ、現在は放出管理目標値はないという。

◎ このように、既に既存の管理目標値が適用できない、されない施設になっているのに、依然として旧来の管理目標値を採用しているのはどういうわけか。
 ちなみに、放出濃度については法令規準である「60,000ベクレル/リットル」の40分の1の水準である1,500ベクレル/リットルにしている。ならば、22兆ベクレルも40分の1にするべきではないのか。
 また、管理目標値が適用されなくなった理由については何らの記載もないことは、大いに問題である。

◎ 福島第一原発が既に管理不可能な状態に陥ってから久しく、10年以上にわたり無管理状態(排出する水は一定の測定や評価が出来たとしても、雨水や風や塵に混じって排出される放射性物質についてはコントロールできていないために評価不能である)であるのだから、今さら稼働時の管理目標値を持ち出して「それより低ければ安全」といった姿勢は取るべきではない。

◎ そもそも、年間22兆ベクレルの範囲に、いくらALPS処理水を押さえたとしても、それ以外の放射性物質を含む汚染源(つまり雨水、塵、風などなど)はコントロールできないのだから、全放出放射性物質の量は22兆ベクレルには収まらない可能性が高いのである。
 実際に、事故当初に放出された放射性物質は、年間どころか、最初の数日間で90京ベクレル(管理目標値の約41,000倍である)を放出し環境を汚染している。
 言い換えるならば、福島第一原発は事故時に管理目標値の41,000年分を出してしまったので、今後は一ベクレルたりとも出してはならないと言っても差し支えはないのである。

◎ 今後は、汚染物を一切出さないことを目標として対処すべきことは当然である。
 そうしていてもなお、塵や気体や水に含まれる放射性物質が環境中に出てしまうことを完全に阻止することは出来ないのである。そのような限界状態にあることを自覚しているのであれば、「計画的な放出」など出来るはずもない。

13.生物濃縮はないとする評価の前提は間違っている

 37P「表4−7海産物に対する濃縮係数」

◎ 海洋放出される放射性物質の生物濃縮係数を表した表だが、ここではトリチウムを「一倍」としていて、濃縮しないこととしている。
 しかし有機結合トリチウム(OBT)は、有機物分子中の炭素原子に化学的に結合したトリチウムである。
 有機結合はトリチウムの最も重要な特性であるがOBTの公式の線量モデルはその危険性を過小評価している。

◎ ヒトは2つの経路でOBTを蓄積する。
 一つはトリチウム水蒸気に汚染された野菜、小麦、蜂蜜、牛乳などの食品に含まれるOBTを摂取する方法である。
 二つ目は、飲んだり食べたり、呼吸したり、トリチウムを含んだ水を吸収したりすることで、体内で必要とされる有機分子に代謝され、新しい細胞に取り込まれる方法である。

◎ OBTは2つの理由からトリチウム水(HTO)よりも問題が多い。
 第一は、ヒトにおけるOBTの滞留時間(すなわち生物学的半減期)がHTOの滞留時間よりもはるかに長い(20から50倍)ことである。
 2つ目は、OBTは定義上、HTOよりも有機分子(DNAなど)の近くに多く存在するためである。
 対象とする細胞組織中のOBT濃度はHTOよりもOBTの方が摂取後の方が一桁高いと考える研究者もいる。
 これは,OBTの生物濃縮係数が1どころか、数倍、数十倍に達することや、放射線被曝がHTOからのそれよりはるかに近距離からの照射により生じることが大きい。
 即ち、この報告書全体に貫かれているトリチウムの危険性についての極めて大きな過小評価が撤回されない限り、実態に近い影響評価は出来ないものである。

※事故情報編集部より
 「放射線影響評価報告書」に対する「意見募集」に送った文書を紹介(中) は、昨年12月25日に掲載しました。
 年末年始の都合で(下)の掲載が遅くなったことをおわびします。
KEY_WORD:汚染水_:FUKU1_:ROKKA_: