[2025_09_17_02]緊急対策必要な下水道管 全国に約72km 国交省が調査結果を公表(NHK2025年9月17日)
 
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緊急対策必要な下水道管 全国に約72km 国交省が調査結果を公表

 19:25
 国土交通省は、ことし1月に埼玉県八潮市で起きた道路の陥没を受けて全国の自治体に要請した下水道管の特別調査の結果を17日、明らかにしました。
 重度の腐食や破損が確認されるなどして1年以内の速やかな対策が必要とされた下水道管は、35の都道府県で合わせておよそ72キロメートルに及ぶとしています。

 埼玉県八潮市の大規模な道路陥没は、地中にある下水道管が下水から発生する硫化水素で腐食したことが原因で起きたとみられています。
 国土交通省はことし3月、下水道管の状態を確認する「全国特別重点調査」の実施を各自治体に要請していて、このうち、下水道管の構造が八潮市の現場と似ているなどとして優先的に調査した場所の結果を17日、専門家による委員会に報告しました。

 緊急度1(1年以内の対策が必要) 図

 それによりますと、重度の腐食や破損が確認されるなどして原則、1年以内の速やかな対策が必要とされる「緊急度※1」と判定された下水道管は、35都道府県の71の自治体で合わせておよそ72キロメートルに上るということです。

 都道府県別では
 ▽愛知県がおよそ14キロと最も長く
 次いで
 ▽茨城県がおよそ10.5キロ
 ▽大阪府がおよそ9.5キロ
 ▽広島県がおよそ5.2キロ
 ▽埼玉県がおよそ4.4キロとなっています。

 緊急度2(5年以内の対策が必要) 図

 また、中程度の腐食や破損が確認されるなどして5年以内の対策が必要とされる「緊急度※2」と判定された下水道管は、36都道府県の83の自治体で合わせておよそ225キロメートルだということです。

 これらの下水道管のうち、
 ▽北海道北見市の1か所と
 ▽新潟市の2か所
 ▽熊本県玉名市の3か所の
 合わせて6か所では、周辺の地中に空洞が確認されたということです。
 このうち、北見市と玉名市の4か所は空洞を埋めるなどの対策を終えていて、新潟市の2か所については、空洞の大きさなどから道路が陥没する可能性は低いものの、早急に対策を行う予定だとしています。

 国土交通省は、腐食や破損が確認された下水道管の対策として、
 ▽破損した場所を塞ぐほか
 ▽下水道管の内側に新しい管を設置する「更生工法」と呼ばれる手法などが有効だとしていて、各自治体に技術や財政面などで支援を行っていくとしています。
 一方、今回の優先調査以外の結果については、来年2月ごろまでに結果を報告するよう求めています。
    ※調査結果ではローマ数字

  「緊急度1」の下水道管 自治体内訳は

 「緊急度1」と判定された下水道管の自治体ごとの内訳です。

 【北海道】

 北海道が
 ▽釧路市の357メートル
 ▽道が管理する169メートル
 ▽苫小牧市の158メートル
 ▽北見市の120メートル
 ▽札幌市の2メートル
 ▽室蘭市の1メートル

 【東北】

 青森県が八戸市の397メートル
 宮城県が県管理の1.5キロ
 山形県が県管理の2.7キロ
 福島県が県管理の259メートル
 ※岩手・秋田は該当なし。

 【関東甲信越】

 茨城県が県管理の10.5キロ
 栃木県が宇都宮市の179メートル
 埼玉県が
 ▽県管理の3.5キロ
 ▽川口市の890メートル
 ▽戸田市の27メートル
 ▽さいたま市の7メートル
 千葉県が県管理の1.4キロ
 東京都が
 ▽23区内の200メートル
 ▽狛江市の1メートル
 神奈川県が
 ▽県管理の1.6キロ
 ▽横浜市の700メートル
 ▽藤沢市の684メートル
 ▽厚木市の525メートル
 ▽平塚市の373メートル
 ▽川崎市の16メートル
 長野県が県管理の1.3キロ
 新潟県が
 ▽県管理の646メートル
 ▽新潟市の145メートル
 ※群馬・山梨は該当なし。

 【東海北陸】

 石川県が
 ▽小松市の17メートル
 ▽金沢市の4メートル
 岐阜県が
 ▽多治見市の758メートル
 ▽県管理の8メートル
 静岡県が
 ▽浜松市の487メートル
 ▽静岡市の410メートル
 愛知県が
 ▽県管理の11.4キロ
 ▽豊橋市の1.4キロ
 ▽名古屋市の1.2キロ
 ▽蒲郡市の20メートル
 三重県が四日市市の128メートル
 ※富山・福井は該当なし。

 【関西】

 滋賀県が県管理の320メートル
 京都府が京都市の210メートル
 大阪府が
 ▽守口市の4.7キロ
 ▽府管理の2.1キロ
 ▽大阪市の1.9キロ
 ▽東大阪市の340メートル
 ▽茨木市の167メートル
 ▽堺市の159メートル
 ▽大東市の70メートル
 ▽高槻市の5メートル
 兵庫県が
 ▽明石市の264メートル
 ▽県管理の258メートル
 奈良県が県管理の110メートル
 和歌山県が県管理の166メートル

 【中国地方】

 岡山県が
 ▽倉敷市の187メートル
 ▽岡山市の138メートル
 広島県が
 ▽県管理の2.4キロ
 ▽大竹市の1.6キロ
 ▽福山市の766メートル
 ▽広島市の441メートル
 山口県が
 ▽下松市の775メートル
 ▽宇部市の95メートル
 ※鳥取・島根は該当なし。

 【四国】

 徳島県が徳島市の36メートル
 香川県が高松市の85メートル
 高知県が高知市の440メートル
 ※愛媛は該当なし。

 【九州・沖縄】

 福岡県が
 ▽北九州市の890メートル
 ▽県管理の387メートル
 熊本県が
 ▽玉名市の670メートル
 ▽山鹿市の149メートル
 宮崎県が宮崎市の3.8キロ
 鹿児島県が鹿児島市の4.4キロ
 沖縄県が北谷町の68メートル
 ※佐賀・長崎・大分は該当なし。

 緊急対策必要な自治体 “速やかに補修など行う”

 千葉県では、県が管理している下水道管のうちおよそ1.4キロの区間が1年以内の対策が必要とされる「緊急度1」と判定され、県は補修などを速やかに行うとしています。
 このうち佐倉市臼井田では、国道296号の下を通る鉄筋コンクリート製の下水道管に穴が空いているのが確認されました。
 穴の直径はおよそ5センチと、破損の程度は重度の「A」に該当し、穴を通じて外部から管内に地下水が流れ込んでいたということです。
 また、佐倉市城内町では、市の道路の下を通る下水道管に腐食が確認されました。
 コンクリートが欠損して内部の鉄筋が露出していたため、腐食の程度は重度の「A」に該当します。

 4年前に調査を行った際にも同じ場所で同様の腐食を確認していましたが、ほかに「A」に該当する項目がなかったため、4年前は「緊急度2」と判定していました。
 いずれの下水道管も54年前の昭和46年に敷設したもので、県によりますと、今回の調査で佐倉市以外でも腐食や破損などが見つかったということです。

 千葉県下水道課の橋本和弥副課長は「腐食していた場所が想定していたよりも多く、さらに対策を急がなければならないと感じた。対策が必要な場所は、毎週1回巡視をして道路の路面に異変があればすぐに気づけるようにするとともに、速やかに補修や改築を進めたい」と話していました。
 そのうえで、「技術職員や建設業者の人手が不足している。いまは影響は出ていないが、もしこの状況が続けば管路の更新に遅れが出るおそれがあるので、業務の効率化を進めていきたいと思う」と話していました。

 住民からは早急な対策求める声

 千葉県佐倉市の人たちからは、早急な対策を求める声などが聞かれました。
 国道沿いの介護施設で働く40代の女性は「まさか職場の近くがそんなことになっているとは思わず驚きました。施設の利用者を送迎するときに車で通るので怖いです。早く直してほしいです」と話していました。
 また、現場近くに住む大学生の女性は「国道は大学に通うときに通る道で、車もよく通るので、埼玉県八潮市のような大きな事故になる前に早く対策して欲しいです」と話していました。

 下水道事業行う自治体 アンケート結果は

 NHKは、八潮市の事故を受けて国土交通省が「緊急重点調査」を要請した自治体のうち、都道府県と人口30万人以上の市、あわせて102自治体にアンケートを行い、99の自治体から回答を得ました

 再発防止策検討する委員会 委員長 “非常に深刻”

 今回の調査結果について、道路陥没の再発防止策を検討する委員会の委員長を務める政策研究大学院大学の家田仁特別教授は「優先的に調査したおよそ800キロの下水道管のおよそ4割が直さなければいけない状況で、一部地域の問題ではなく全国の問題として認識しなければならず、非常に深刻に捉えている」と述べました。
 また、原則、1年以内の速やかな対策が必要とされる「緊急度1」と判定された下水道管について、腐食や破損の度合いなどを考慮して優先順位をつけて対応する必要があるという考えを示したうえで「どのような対策を徹底すべきかなど早急に分析することが必要だ」と述べました。

 下水道事業に詳しい専門家 “計画の見直し迫られる自治体も”

 下水道事業に詳しい近畿大学の浦上拓也教授は「重度の腐食や破損が確認された緊急度1の下水道管が、老朽化率が高い特定の自治体だけでなく、全国的に広く確認されたことは非常に重く受け止める必要がある」としています。
 調査結果が出ていなかったり、調査自体がまだ終わっていなかったりする下水道管が多くあることから「今後、点検が進むことで同じように深刻な状況にある下水道管がさらに見つかる可能性がある。そうなると、現状の維持管理の計画以上にコストをかけて点検や修繕を行う必要が生じるなど、計画の見直しを迫られる自治体も出てくるだろう」と指摘しています。
 また、下水道使用料をめぐる動きについては「国による補助金はあるが、その割合は50%が上限で、残りの半分については自治体が負担するため、維持管理にかかる費用が増えれば、自治体の財政はさらに厳しくなる。そうなれば下水道使用料を値上げする自治体も多くなるだろう」と話しています。

 コンクリートの腐食に詳しい専門家 “今後の技術開発に期待”

 コンクリートの腐食のメカニズムに詳しい日本コンクリート防食協会の三品文雄会長は、今回の調査では、判定基準が変更されたことで全国的な下水道管の状況がより鮮明になったとしたものの「対策の必要があると判定されても八潮市の陥没現場のように管が大きくて、下水が流れる量が多い場所は人が入れず補修が難しい。今後の技術の開発に期待したい」と指摘しています。
 一方で「補修を含めた下水道事業の維持にはコストもかかり、今後、下水道料金を値上げすることも検討していかなければならない」と話しています。

 対策には「更生工法」を活用 課題も

 老朽化した下水道管は腐食が進むなどして破損してしまい、道路の陥没などにつながることがあり、新しい管に交換をすることが求められます。
 専門家などによりますと、浅く埋められている下水道管は道路を掘り起こして新しい管に交換することができますが、深く埋められている下水道管はその上に飲み水を供給する上水道管やガス管などが通っていたり、直径が大きいものが多かったりと掘り起こすこと自体が困難なケースがあるということです。

 こうした交換が簡単ではない下水道管に対しては、地面を掘り起こさずに古くなった管の内側に新しい管を構築することで下水道管の寿命をのばす、「更生工法」が活用されます。
 「更生工法」にはいくつかの種類があり、このうち大型の下水道管にも対応できるのは「SPR工法」と呼ばれるものです。
 管の内側の壁に帯状の素材を沿うように巻き付け、内部に新たな下水道管を作ることで、耐用年数は最大で50年延びるとされています。
 この技術はおよそ30年前に開発されていましたが、下水道管の老朽化が進むことで注目が集まり、工事会社には依頼が相次いでいるということです。
 東京都ではこうした「更生工法」を実施した結果、道路の陥没件数が実施前と比べておよそ9割減ったといいます。

 一方で、「更生工法」は下水道管の大きさや下水の水量、水流の速さなどの条件によっては適用できず、八潮市の現場の下水道管も水量と速さなどのため実施は難しかったという指摘もあります。
 更生工法が難しい場合は、別に新たな管を設置する「複線化」などの方法もありますが、多額の費用が必要になります。

 今回の公表は“優先調査”の下水道管

 今回公表されたのは、ことし3月に国土交通省が自治体に要請した「全国特別重点調査」のうち、特に緊急性が高いとして優先的な調査を求めていた下水道管についてです。
 「全国特別重点調査」の対象は、設置から30年以上が経過し、直径が2メートル以上と大きい下水道管で、総延長は47都道府県のおよそ500自治体で合わせて5000キロメートル程度です。
 このうち優先調査の対象となったのは、下水道管の構造や地盤の条件が八潮市の現場と類似する場所や過去の調査で腐食が確認されたものの、対策を実施していない場所、災害時に緊急車両が通る「緊急輸送道路」のうち過去に下水道管が要因となって陥没したことがある場所などで、総延長は43都道府県の128自治体で合わせておよそ813キロです。
 調査では「腐食」「たるみ」「破損」の状況など複数の項目を調べ、症状の程度に応じて重度を「A」、中程度を「B」、軽度を「C」にそれぞれランク付けします。
 例えば「腐食」では、鉄筋コンクリート製の下水道管でコンクリートが欠損して中の鉄筋が露出していれば「A」と判定します。
 そして、「A」が1項目以上あれば、原則1年以内の速やかな対策が必要とされる「緊急度1」、「B」が1項目以上あれば5年以内の対策が必要とされる「緊急度2」と判定します。
 これまでの調査では、「緊急度1」は「A」が2項目以上、「緊急度2」は「A」が1項目か、「B」が2項目以上の場合に該当するとしていましたが、今回、八潮市の陥没を受けて早期の対策につなげるために基準が変更されました。

 国の対応は

 国土交通省は下水道管の老朽化対策にかかる費用の補助の対象を来年度から広げることにしています。
 自治体が下水道管を補修したり、内側に新しい管を設置したりした場合には、国から費用の2分の1が補助されますが、補助を受けられるのは一定以上の大きさの管路に限られるなど、要件が設けられています。
 こうしたことから国土交通省は、災害時に緊急車両が通る「緊急輸送道路」の下にある管路など、破損した場合に社会的な影響が大きい管路については、来年度からは要件を設けずに費用の2分の1を補助する方針です。

 破損した場合に社会的影響が大きい管路のうち、水深が深いなど補修などが難しい場所に予備的な管路を別途敷設する場合についても、来年度から新たに補助の対象にする方針です。
 また、今回の調査で見つかった下水道管の腐食や破損については「放置することで周辺の地中への漏水による地盤の空洞化や、管内への土砂の流入に伴う空洞化が起こり、道路の陥没につながりかねない」としています。
 そのうえで、対策が必要な下水道管については5年後の令和12年度までに補修などを終え、健全性を確保するとしています。
 対策が必要とされた具体的な区間については「下水道管を管理している各自治体に問い合わせてほしい」としています。

 林官房長官 “持続可能な下水道 構築していきたい“

 林官房長官は17日午後の記者会見で「調査結果を受けて国土交通省から下水道管理者に対して修繕や改築など必要な対策を速やかに講じるよう要請した。今後、対策を技術的、財政的に支援していきたい。また、管理に精通した熟練職員が減少することなども踏まえ、点検業務の無人化や省力化などを行いながら老朽化対策をしっかりと進め、強じんで持続可能な下水道を構築していきたい」と述べました。

 埼玉県 大野知事 “自治体の意見を聞き 負担の仕組み検討を”

 埼玉県八潮市で起きた道路陥没を受けて実施された調査で、対策が必要とされる下水道管が見つかったことについて埼玉県の大野知事は「これまで国費も充当される形で下水道が整備されてきた経緯なども踏まえ、自治体の意見を聞いたうえで負担の仕組みを検討することが不可欠だ」などと述べ、国も費用を負担すべきだとする考えを示しました。
 調査の結果、埼玉県内では重度の腐食や破損が確認されるなどして原則、1年以内の速やかな対策が必要とされる「緊急度1」の下水道管があわせて4.4キロあまりと、全国5番目の長さだったほか、5年以内の対策が必要とされる「緊急度2」があわせて44.5キロあまりに上りました。
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