[2024_09_25_08]特集:南海トラフ 巨大地震に備える 津波石が語る過去の巨大地震 遠藤智之(編集部)(日経サイエンス2024年9月25日)
 
参照元
特集:南海トラフ 巨大地震に備える 津波石が語る過去の巨大地震 遠藤智之(編集部)

 04:00
 高さが10mを超える巨岩が海岸線に沿って一列に並んでいる。波が削り出した自然の造形は「橋杭岩(はしぐいいわ)」と呼ばれ,弘法大師が一夜にして橋をかけようとしたところ,天邪鬼にだまされて夜が明けたと勘違いし,作業をやめてしまったという言い伝えが残っている。本州最南端の和歌山県串本町にあり,多くの観光客が訪れる景勝地でもある。この場所を詳しく調べていくと,過去最大とされる宝永地震を超える大津波が押し寄せていた可能性が浮かび上がってきた。南海トラフ沿いの地形には,過去の巨大地震の痕跡が刻まれている。

 言い伝えでは一夜にして生まれた橋杭岩だが,実際には長い年月をかけて形成された。これまでの研究で判明している橋杭岩の歴史はこうだ。海底に泥が堆積して泥岩の地層ができた後,1400万〜1500万年ほど前に地下からマグマが上昇し,泥岩の地層に貫入して冷えて固まり,火成岩の岩脈となった。辺り一帯が隆起して地上に露出すると,波食(波の作用)によって軟らかい泥岩が削り取られ,平坦な波食棚ができた。火成岩の岩脈は波食を耐え抜き,海から突き出た「橋杭」として現在も残っている。

 波食棚の上には,大小さまざまな岩石が散在している。1000個以上ある岩石は大きさは最大で7mほど,重さは200トンを超え,人力ではびくともしない。こうした岩石は橋杭岩と同じ種類の火成岩からなり,橋杭岩の一部が砕けて散らばったものだ。波食棚はほぼ平坦な地形が続いているため,その上に岩石が落ちただけでは,陸側には転がっていかない。散在している岩石は通常の波の力ではほとんど動かず,地震の津波や台風の高潮といった大きな波に押し流されて運ばれたと考えられてきた。

 橋杭岩を調査した産業技術総合研究所の行谷佑一上級主任研究員は「散らばった岩石は,毎年のようにくる台風の高潮ではほとんど動かず,数百年に一度の巨大地震による大津波で運ばれたと考えるのが合理的だ」と語る。

 続きは日経サイエンス 2024年11月号 の誌面をどうぞ

 協力
 行谷佑一(なめがや・ゆういち)/嶋田侑眞(しまだ・ゆうみ)/澤井祐紀(さわい・ゆうき)
 行谷は産業技術総合研究所上級主任研究員,嶋田は研究員,澤井は研究グループ長。3人は日本全国に残された地質学的記録から過去の巨大地震について研究している。
KEY_WORD:南海トラフ巨大地震_:HOUEI_: