[2025_06_27_12]防災ニッポン 2025年トカラ列島群発地震 海底で何が起きている? 震源の海を知る海洋火山学者に聞きました(読売新聞2025年6月27日)
 
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防災ニッポン 2025年トカラ列島群発地震 海底で何が起きている? 震源の海を知る海洋火山学者に聞きました

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 トカラ列島群発地震のメカニズム(イメージ図)

 有感地震400回超える…南海トラフとは関係なし?

 鹿児島県のトカラ列島悪石島、小宝島付近の海底で群発地震が続いています。周辺海域を震源とする有感地震は、2025年6月27日時点で440回を超えました。トカラ列島での群発地震は2021年、2023年にも起きています。なぜ、この海域で周期的に群発地震が起きるのでしょうか。周辺の火山の噴火や南海トラフ地震などとの関係はあるのでしょうか。現場の海を海洋調査し、海中の地形と地質を知り尽くす海洋火山学者、横瀬久芳・熊本大学大学院先端科学研究部准教授に、地震のメカニズムや地震活動の今後の見通しなどを聞きました。

 ――トカラ列島近海の群発地震については、2021年12月に発生した時にも取材して記事にしています。今回の群発地震も同じメカニズムで起きていると考えていいのでしょうか。

21日以降地震が相次いでいる一体 琉球弧とフィリピン海プレートなどの動き

 群発地震の震源の位置や深さを分析する限り、2021年の群発地震と同じメカニズムで起きていると考えられます。トカラ列島は奄美大島、沖縄本島などとともに「琉球弧」と呼ばれる島々の一部で、これらの島々は琉球海溝に沿って並んでいます。琉球海溝ではフィリピン海プレートが東側からユーラシアプレートの下にもぐり込んでいますが、長大な琉球弧のなかで群発地震が起きるのは小宝島、悪石島付近だけです。

 フィリピン海プレートの上の海底台地が陸側プレートにぶつかるのが原因

 それは、この海域でもぐり込むフィリピン海プレートが、巨大な海底山脈からなる大東海嶺(東西30〜50km、南北600〜700km、海底面からの高さ3〜4km)や、巨大な海底台地の奄美海台(東西100〜120km、南北250km、海底面からの高さ約4km)を乗せているからとみられています。この海域ではフィリピン海プレートが沈み込む際に、海台がユーラシアプレート側の地殻にぶつかります。分かりやすく言うと、トカラ列島近海は、ほぼ九州サイズの大型ダンプカーが100万年くらい衝突し続けているような特殊な海域なのです。

今回の震源域

 沈み込んだ「海台」の先頭部分が影響して群発地震が発生

 フィリピン海プレートが海台ごともぐり込む際、ユーラシアプレート側の地殻は上にめくれ上がったり、左右に引きちぎられたり、海台がユーラシア大陸の岩盤にひっかかって横に引っ張られたりして、海台の周囲には様々な方向に複雑なひずみが生じます。沈み込むスピードは1年間で6センチに過ぎず、ユーラシアプレート側の地殻はすぐには割れずに伸び縮みしてひずみを吸収しますが、常にひずみがたまりやすい所には大きな横ずれ断層ができて、地殻内の活断層として壊れ続けるようになります。
 群発地震は、この巨大な衝突帯を収容するスペースで発生します。群発地震の震源はプレートのもぐり込む地点から離れていますが、これは、すでに沈み込んだ奄美海台の先頭部分が地震発生に影響しているからです。
 トカラ列島は火山の噴火でできた島で、海底には高温のマグマがあります。ユーラシアプレート側の地殻は深くなるほどマグマに温められ、伸び縮みしやすく、割れにくくなっているとみられます。逆に、浅い部分はマグマから遠く、あまり温められないため、岩盤は固く割れやすい。群発地震の規模(マグニチュード=M)が、震源が深くなるほど小さくなっているのは、このためとみられます。

 群発地震は火山噴火や南海トラフとの関係薄く

 ――鹿児島県の桜島や新燃岳が噴火していますが、群発地震はトカラ列島の火山噴火につながるのでしょうか。また、南海トラフ地震との関係はあるのでしょうか。

 震源付近の地溝は、海底火山列(アレー)が途切れる火山の空白域になっており、横ずれの向きも火山列の向きとは異なります。地下の岩盤が割れて、新たなマグマの通り道ができればマグマが地上に上昇しやすくなるので、噴火の恐れはゼロではありませんが、震源分布の特徴や火山性地震の特徴は今のところ認められておらず、群発地震は火山噴火の前兆ではないと考えてよいと思います。
 群発地震の震源が海であることから、津波を心配する声もありますが、津波は動いた断層が長いほど大きくなります。警戒は必要ですが、群発地震で動いた断層の距離は短く、大きな津波が起きるとは考えにくいです。

 「トカラの法則」「2025年7月に大災害」は科学的根拠なし

 SNSなどでは、「トカラ列島近海で地震が頻発すると、国内で大地震が起きる」という「トカラの法則」や、「2025年7月に大災害が起きる」という“予言”を群発地震と結びつけた、うわさ話が出回っていると聞きます。群発地震を起こしているフィリピン海プレートは南海トラフ地震を起こすプレートですが、四国沖とはプレートの性質や形成時期が異なり、南海トラフ地震との関係はありません。そもそも、トカラの法則や7月の大災害には、何ら科学的根拠はありません。

2021年12月の悪石島−小宝島の群発地震の時系列パターン

 地震のピークはもう1度来る恐れも

 ――群発地震はいつまで続くのでしょうか。

 トカラ列島近海では2000年以降、2021年4月と12月、2023年9月に同様の群発地震が発生しています。3回の群発地震はいずれも3週間以内に収まっていますが、過去の例などから考えると、まだM6程度、震度5前後の地震が起こるおそれがあります。悪石島や小宝島といった震源予想地域の近くにお住まいの方は、まだ十分な注意が必要です。
 過去3回の地震では、地震のピークは2回ありました。群発地震を起こしている2本の断層のうち、まず南北どちらかの断層面が動いて第1段階の群発地震が起き、それがもう一方の断層面に伝播して、もう一方の断層面が動いているとみられます。上の図は2021年12月の時系列データをグラフにしたものですが、他の時期に起きた群発地震でも、第2段階では「要注意地震」から始まっています。
 今回の群発地震が同じ経緯をたどるとは断定できませんが、6月27日時点では群発地震は第2段階に入った可能性があります。しばらくは「要注意地震」に用心した方がいいでしょう。

 横瀬 久芳氏(よこせ・ひさよし)

 1960年新潟県生まれ。熊本大学大学院先端科学研究部准教授。専攻は海洋火山学。著書に『ジパングの海』(講談社+α新書)、『はじめて学ぶ海洋学』(朝倉書店)、『これからの海洋学』(同)、『面積あたりGDP世界1位のニッポン』(講談社+α新書)。「平成28年熊本地震DVD」(RKK)監修。
 <聞き手・構成> 読売新聞東京本社編集委員 丸山淳一
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