[2024_07_05_03]流体上昇が引き金 弘大教授ら能登地震調査(陸奥新報2024年7月5日)
 
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流体上昇が引き金 弘大教授ら能登地震調査

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 弘前大学大学院理工学研究科の梅田浩司教授(58)らの研究グループの調査、分析結果により、1月1日に起きた能登半島地震やそれに先行した群発地震が、マントル(地球深部)から地殻に流入した深部流体の上昇が引き金となり、震源断層を含む活断層三つを刺激した可能性が示された。研究グループの分析を継続的に実施することで、内陸型大地震のリスクが高い地域に前もって警鐘を鳴らすことができると期待される。
 梅田教授らの研究グループの成果が6月28日、国際的な地球科学学術誌にオンライン掲載された。
 梅田教授は2007年、東京大学先端科学技術研究センターの角野浩史教授らと共同で、大地震が発生した能登半島で化学的なアプローチからの調査研究を始めた。能登半島は火山がないのに温泉が湧く地域だったことから、震源地周辺の温泉地などで温泉水(地下水)を採取し、化学組成、同位体(原子番号が同じでありながら、中性子数の違いにより質量数が異なる原子)組成を測定した。その結果、大気中ではウランなどから生成されたヘリウム4の100万分の1しか存在しない、地殻に少なくマントルに豊富なヘリウム3が高い値を示した。
 ヘリウム4に対するヘリウム3の数の比を「ヘリウム同位体比」といい、ヘリウム3が高いほど深部流体が混入していることを示している。
 最初の調査から16年後の23年、梅田教授の研究室に所属する大学院生の研究で再び能登半島の調査研究に入った。同半島では20年12月ごろから群発地震が続いていたため、調査では半島全域の井戸から温泉水を採取し、測定を行った。その結果、群発地震や07年能登半島地震の震源域では、大気の2〜4倍となる値のヘリウム同位体比を観測。さらに、これらの震源域の地下から地表に上昇するヘリウム3のフラックス(単位面積・時間当たりの流量)を見積もったところ、マグニチュード7・8を観測したサンフランシスコ地震(1906年)やニュージーランド西岸地震(2009年)などの大地震と同程度の値を示したという。
 07年と23年の研究調査で、温泉水や地下水のヘリウム同位体比を基に、マントルからの流体の上昇、震源断層への浸透が1月1日の能登半島地震の引き金になった可能性を示した。梅田教授は「深部流体が活断層に浸透すると、活断層が動きやすくなる。今回は深部流体によって震源断層を含む活断層三つが連動して大きくずれ、大地震を誘発した」と説明。加えて「ヘリウム同位体比が高い値を観測する地域では、深部流体の上昇が引き金となる内陸型大地震の発生のリスクが高い」との見方を示した。
 「化学的な方法による地震予測実現に一歩前進した」と梅田教授。今後は活動間隔の異なる活断層を研究調査するなどして、化学的なアプローチから地震を引き起こすメカニズムを明らかにしていくとした。
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