[2024_05_15_03]「直線は自然界では不自然」能登半島沖に長さ2キロの“未知の段差” 超音波で隆起探る「海底地形調査」に密着(TBS_北陸放送2024年5月15日)
 
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「直線は自然界では不自然」能登半島沖に長さ2キロの“未知の段差” 超音波で隆起探る「海底地形調査」に密着

 17:00
 元日の地震で、最大およそ4メートル隆起した能登半島北部。港や周辺の海域は水深が浅くなり、漁業に深刻な影響が生じています。海底の地形がどう変わったのか、そして地震を引き起こした活断層がどこにあるのか、超音波を駆使して船から海底の変化を探る調査に密着しました。

 県内トップの水揚げ「輪島港」海底隆起で出漁できず

 国土地理院の解析では、輪島市の北部で地盤が最大およそ4メートル持ち上げられるなど、珠洲市から志賀町にかけての日本海側で大規模な隆起が確認されました。
 地震前までは県内最大の水揚げを誇ってきた輪島港も、港内の水深が浅くなり、およそ200隻の漁船が漁に出られない状態が続いています。国土交通省などは、港内の海底を掘り下げる工事を進めていますが、すべての漁船が漁に出られるめどは立っていません。
 隆起の全容を解明しようと、研究者が海底地形の調査に乗り出しました。

 大型船で近づけない「沿岸域」遊漁船で調査

 能登半島沖では地震後、これまでに海上保安庁や海洋研究開発機構(JAMSTEC)などが海底地形調査を行っていますが、水深が浅い沿岸域は近づけず、詳しい海底地形が分かっていません。
 九州大学浅海底フロンティア研究センター長で、浅い海域の調査を専門に行う菅浩伸教授(60)は、ドローンやロボットを開発する民間企業「ワールドスキャンプロジェクト」と共に、4月27日から5月5日にかけて、遊漁船を使って能登半島沖で海底の地形を調べる「マルチビーム測深調査」を行いました。
 調査では船に取り付けた装置から超音波を発射し、海底から反射された音波をリアルタイムで捉えます。
 水深が浅い海域ほど、一度に計測できる範囲が狭くなるため、港のすぐ外側では何度も往復しながら地図の空白地帯を埋めていきます。
 「色を塗っていくような感覚で測深していく。浅いと色鉛筆で色を塗っている感じ、深くなるとはけで塗っている感じ」(菅教授)

 「ガーンといくかもしれない」水深10メートル未満の浅瀬

 輪島港のすぐ沖合は、元から水深が浅く、地震でさらに海底が隆起したため、漁業者が航行に不安を募らせます。地図で赤色に示された水深10メートルに満たない浅瀬を、慎重に計測していきます。
 調査に協力する遊漁船「凪紗丸」の岩坂紀明船長(57)は、輪島港の外側で、以前は海中に沈んでいた岩場が海面に姿を現しているのを見つけます。
 「地震の前まではギリギリ通れた。今はもう2メートルくらい(隆起で)上がっていそうなので、ガーンといくかもしれない」(岩坂船長)
 船から海面を見張りながら、浅瀬に乗り上げないように船を進めますが、この日はプランクトンなどで海水が濁り、海底がなかなか見えません。
 菅教授と岩坂船長が、何度も水深を確認しながら、ギリギリの深さまで調査を続けます。
 「(水深)7メートル?7メートルで底が見えないのかな。普通ならスーッと見えるはず」(岩坂船長)
 遊漁船は、超音波の乱れや装置が壊れるのを防ぐため、5ノット前後(時速約9キロ)と非常にゆっくりとしたスピードで進みますが、浅瀬に気づいてから停船するまでに十数メートルかかるため、座礁の危険が伴います。
 「(水深)6メートル!」(岩坂船長)
 「もうやめよう、心臓に悪い」(菅教授)
 1週間以上にわたる調査の中で、研究者と船長の連携も次第に深まっていきます。菅教授は「船長さんの地元の海に対する知識があって初めて調査が成功する。岩や定置網の場所、仕掛けの仕組みも分かっていないと装置で引っかけてしまう。非常に大事だ」と強調します。

 海岸線に沿う“一直線の崖” 地震で動いた「活断層」か

 この日、調査を始めてから6時間。輪島港から西におよそ5キロ離れた輪島市鵜入町の沖合で、超音波が特徴的な地形を捉えました。
 「相当大きな崖になっている。ずっと続いている」(菅教授)
 この海域のさらに沖合には、能登半島地震で動いたとみられる海底活断層「猿山沖セグメント」の存在が知られていますが、海岸近くの海底の形はよく分かっていません。
 ところが今回の調査で、5メートルほどの高さがある一直線の崖が、海岸線に沿ってまっすぐ走っていることが分かりました。
 「直線は自然界では不自然。こういう直線的な物が並んでいるということは、何かあるのではないかと想像していいと思う」(菅教授)
 一連の調査では、輪島市名舟町の沖合でもおよそ2キロにわたって高さ3〜4メートルほどの段差が見つかりました。
 能登半島周辺ではこうした段差が複数確認されていて、菅教授は、一部が能登半島地震で動いた活断層の可能性もあるとして、データを持ち帰って解析を進める方針です。
 「おそらく動いたのではないかと思われるような、今までの報告にない段差が見つかってきている。(活断層も)1つの可能性かなと思っている」(菅教授)
 一方で、地震から4か月以上がたっても漁に出られない状態が続く輪島港。菅教授は、漁業者の安全な操業につなげてもらおうと、調査で得られたデータを海底地形図としてまとめ、近く無料で公開することにしています。
 地元の漁船が1日も早く出航できるようになってほしいと話す菅教授=5月3日
 「港の周辺に出航の邪魔になるような物がないかどうか確認して、漁業者に広く使ってもらえるような公開の仕方を考えて、なるべく早く出したい。これだけの漁船があって、これだけ漁を大切にする輪島の方々だから、調査を始めたタイミングが1つのきっかけとなって、どんどん船が出ていくようになれば」(菅教授)
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