[2023_08_23_13]検証・福島原発処理水 漁解禁前、駆け込み放出 首相(静岡新聞2023年8月23日)
 
参照元
検証・福島原発処理水 漁解禁前、駆け込み放出 首相

 岸田文雄首相が東京電力福島第1原発処理水の海洋放出日を決めた。9月1日に福島県で解禁される底引き網漁への影響をなるべく避けるため、駆け込みで選んだのが実情だ。安全性確認のため放射性物質モニタリング(監視)に一定の期間が必要とされ、東北の地方選や外交日程も考慮しつつ模索した首相。舞台裏を検証した。

 ▽横暴

 「原発の廃炉を進め、福島の復興を継続するためには処理水の処分は決して先送りできない課題だ」。22日、首相官邸。処理水の24日放出開始が決まった関係閣僚会議で首相は訴えた。
 地元の漁業者には依然、反対が根強い。野党関係者は「一日も早い復興を望むならば、まず放出を受け入れろと言わんばかりの横暴な態度だ」と批判する。
 同じ官邸で21日に開かれた全国漁業協同組合連合会(全漁連)の坂本雅信会長との会談。着座で進行する予定だったが、首相は突然立ち上がり「皆さまにお越しいただき心から感謝します」と謝意を伝えた。
 政府と東電は2015年に「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分もしない」と福島県漁連に文書で約束した経緯がある。西村康稔経済産業相は何度も福島を訪れ、漁業関係者と意見交換した。政府筋は「地元に誠意を尽くす必要があった」と打ち明ける。
 一方、官邸内では国際原子力機関(IAEA)の包括報告書が発表された7月には、首相と全漁連との面会で「一気にけりをつける」(関係者)案も浮上した。

 ▽結束

 8月に入り、政府が放出は「夏ごろ」とする期限が近づいてきた。
 7月末から8月前半までウィーンで開かれた2026年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた関連会合。中国は処理水を「核汚染水」と糾弾したものの、賛同する国はなく、中国の孤立があぶり出された。
 日米韓首脳会談のため8月17〜19日の訪米が迫る中、首相はしばらく放出時期を決めない道を選ぶ。韓国の尹錫悦大統領はIAEA報告書を尊重するとのスタンスを堅持していた。日米韓会談に先立ち具体的日程に触れれば、自国内で野党から指弾される尹氏の立場を危うくし、ひいては3カ国の結束にひびが入りかねないからだ。

 ▽データ

 19日の帰国後、首相は改めて放出はいつがベストか考えを巡らせる。
 28〜30日の日程で連立を組む公明党の山口那津男代表が訪中する。9月1日には福島で底引き網漁が解禁される。空白の一日となる「8月31日放出」を唱える向きも政府、与党内にはあった。
 だが漁解禁前に海水の放射性物質濃度の結果を公表し、安全性を内外に訴えるには、8月31日では遅い。東電や環境省によると、3日程度で監視データが明らかになる。
 帰国翌日の20日に原発を視察し、21日に全漁連と面会。22日に処理水の24日放出を決定すれば、27日にはデータ公表を期待できる。「中国の皆さんに丁寧に伝えたい」と言う山口氏の顔にも泥を塗らない―。首相はそう踏んだとみられる。
 9月中旬を軸に検討を進めている内閣改造・自民党役員人事も影響しているのは間違いない。放出計画には経産相や農相、環境相、復興相ら多くの閣僚が関わる。今の内閣で区切りを付け、人事でフリーハンドを握りたい首相の思惑が透ける。  9月3日投開票の岩手県知事選のほか10月に宮城で、11月に福島で県議選がある。さまざまな政治日程が控える首相。放出日が政権に与える影響を問う周辺に語った。「しょうがない。いつ放出しても何かとかぶる。そういう中での判断だ」
KEY_WORD:汚染水_:FUKU1_:廃炉_: