[2023_07_18_05]セシウム自主検査10万件超え 福島県漁連が12年から<廃炉と海>(河北新報2023年7月18日)
 
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セシウム自主検査10万件超え 福島県漁連が12年から<廃炉と海>

 東京電力福島第1原発事故後、福島県漁連が2012年6月の試験操業開始とともに始めた魚介類の自主検査の検体数が10万件を超えた。出荷する全ての魚種で放射性セシウム濃度を調べ、基準値を超える魚の市場流通を防ぐ。国の基準値より厳しい出荷自粛規制値を設け、安全性の確保を徹底する。

 国より厳しい自粛規制値 処理水放出、緊張感高まる

 「マコガレイ取りました」「ヤナギダコ頂きます」。いわき市の久之浜漁港。水揚げに活気づく魚市場で6月下旬、魚種のリストを手にした検査担当の漁協職員が真剣な表情で検体の魚を選んでいた。
 市内の別の魚市場にいる職員と無料通信アプリLINE(ライン)で状況を伝え合い、魚種に漏れがないようにする。最後の漁船が水揚げを終えるまで、入念に魚を探した。
 検体は市内の検査室に集め、切り身やミンチ状に処理。6台の機器で放射性物質の基準となるセシウム濃度を測る。出荷前に検査結果を出そうと、担当者は休憩も取らず作業に当たる。検体数は多い日で1日70ほどになる。
 「検査していない魚が流通すれば、信頼を失う。漏れは許されない」。いわき市漁協の新妻隆専務理事は強調する。相馬地区でも同様に全魚種を調べている。
 国の出荷制限基準値が1キログラム当たり100ベクレルなのに対し、県漁連の自主規制値は50ベクレル。超えた場合は仲買人に連絡して同じ魚種の全ての出荷を止める。自主検査で25ベクレルを超えれば必ず、県の精密検査を実施する。検査態勢、自主規制値は21年3月に試験操業が終わった後も維持している。
 福島県水産海洋研究センター(いわき市)によると、検査数は6月末現在、10万9703。自主規制値の50ベクレルを超えたのは8件で、このうち4件が100ベクレル超だった。検出下限値以下の「不検出」は99・9%を占める。
 県漁連は仲買人に検査証を発行する。11年間積み上げてきた厳密な検査は流通業界にも定着し、取引先から求められることは少なくなった。小名浜水産加工業協同組合(いわき市)の小野利仁組合長は「一匹たりとも汚染された魚介類を流通させなかった。水産業界の矜持(きょうじ)だ」と力を込める。
 福島第1原発にたまる処理水の海洋放出が迫り、風評被害を懸念する漁業者の緊張感は高まる。自主検査の必要がなくなれば、福島の沿岸漁業は事故前の状態に一歩近づくが、県漁連の野崎哲会長は「ばか丁寧に続けないといけない。まだ抜け出すことはできないと思っている」と語る。
(いわき支局・坂井直人)

 トリチウムは測定困難 東電などの継続監視重要

 東京電力福島第1原発の処理水は、放射性物質トリチウムを大量に含む。人体や環境に与える影響は小さいとされるが、測定には専門的な装置や技術が必要だ。福島県漁連の自主検査では対応できず、東電や水産庁による水産物のモニタリング(継続監視)が重要になる。
 トリチウムが出す放射線はエネルギーが弱く、測るのが難しい。水の形で存在するため、水産物の場合は凍結乾燥機を使うなどして身から水分を回収。放射線が当たると微弱な光を出す試薬を加え、光の量を高感度の検出器で分析する。結果の判明まで最長で約1カ月半かかるという。
 東電は昨年5月以降、原発周辺海域の11地点で取った魚を調べている。分析施設の空気中に含まれるトリチウムが誤って混入し、実際より高い値が出る事態が判明。約10カ月間中断し、今年6月に再開した。今後も委託先の企業などと共に測定を続ける。
 北海道から千葉県の太平洋沖でモニタリングを続ける水産庁は、原発の半径10キロ圏海域で採取した水産物に「迅速検査」を導入する。精度を一定程度落とす代わりに測定時間を短縮できるのが特徴。従来は1キログラム当たり最大0・4ベクレル程度だった検出限界値を同10ベクレルとし、結果を1〜2日後に公表する。
 研究指導課の担当者は「生産者や消費者に素早く結果を示し、安心につなげたい」と話す。(福島総局・東野滋)
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