[2023_05_24_04]危険性「立証足りず」 仙台地裁、女川原発差し止め棄却(日経新聞2023年5月24日)
 
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危険性「立証足りず」 仙台地裁、女川原発差し止め棄却

 東北電力女川原子力発電所2号機(宮城県女川町、石巻市)で重大事故時の避難計画に不備があるとして、原発の周辺住民らが運転差し止めを求めた訴訟の判決が24日、仙台地裁であった。斉藤充洋裁判長は「放射性物質が異常に放出される事故が起きる具体的危険を認めるに足りる証拠がない」として請求を退けた。避難計画の内容については判断しなかった。
 女川原発は東日本大震災で被災し、当時定期検査中だった2号機を含む3基の運転が停止した。東北電は2024年2月、東日本大震災の被災地で初となる2号機の再稼働を目指している。
 訴訟で住民側は、宮城県や石巻市がまとめた避難計画について、渋滞が発生して30キロ圏内を長時間抜け出せず避難所にたどり着けない▽自家用車のない人向けのバスが確保できない――などと主張。「実効性のない計画で避難者は生命・身体に深刻な被害を受ける」と訴えた。
 住民側の主張について、判決は「放射性物質が放出される事故の発生を前提としているが、事故が起きる危険について具体的な立証をしていない」と指摘した。
 その上で「避難計画に実効性を欠いていることをもって、直ちに原発の運転差し止めを求めることはできない」として棄却の結論を導いた。避難計画の内容については「判断するまでもない」として踏み込まなかった。
 原伸雄原告団長(81)は判決を受け「判断を放棄したのは極めて疑問だ」と述べ、控訴する方針を示した。
 東北電は「裁判所に当社の主張を理解いただいた。引き続き避難計画の実効性向上に向け、できる限り協力する」とした。
 国は災害対策基本法に基づき、原発周辺30キロ圏内の自治体に避難先やルートを定めた避難計画の策定を義務付けている。だが、ルートの策定や検査のための人員配置などで課題が多く、計画づくりが難航する自治体は少なくない。
 日本原子力発電の東海第2原発原発(茨城県東海村)では、策定義務のある14市町村のうち策定を終えた自治体は5市町。21年3月、水戸地裁が避難計画の不備を理由に同原発の運転を認めない判決を出した。双方が控訴し、現在も東京高裁で審理が続いている。
 東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害リスク学)は「今回の判決は避難計画の実効性への評価をしておらず、計画にお墨付きが与えられたわけではない」と強調。「国や、事業者として責任を持つ電力会社などが避難計画の策定により積極的に関与すべきだ。地域の地形や道路事情を知る自治体と連携し、人命を守りきれる実効性のある計画づくりを進めていく必要がある」としている。
 ▼女川原発2号機 1995年に営業運転を始めた東北電力の原発。出力82万5千キロワット。2011年3月の東日本大震災で自動停止し、最大約13メートルの津波で海水が取水路から流入し、原子炉建屋の地下が浸水した。20年2月に原子力規制委員会の審査に合格。宮城県と地元2市町の議会と首長の同意を得て、東北電が24年2月の再稼働を目指している。
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