[2023_04_10_06]原子炉直下 専門家が驚いたのは 炉心の真下 映像にうつっていなかったものとは(NHK2023年4月10日)
 
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原子炉直下 専門家が驚いたのは 炉心の真下 映像にうつっていなかったものとは

 東京電力福島第一原発で、最初にメルトダウンを起こした1号機。
 原発事故の発生から12年、ようやく原子炉の真下にカメラが入り、内部の様子が初めて確認された。
 大量の核燃料デブリとみられる堆積物や鉄筋がむき出しになった原子炉の土台。今回公開された325秒の映像からは、これまでの想定を超える被害の実態が見えてきた。
 そして、映像を見た廃炉の専門家が注目したのは、あるものが映っていないことだった。

 最も調査が遅れていた1号機

 メルトダウンを起こした3基のうち、損傷が激しかったことなどから調査が最も遅れていた1号機。
 東京電力は2022年3月から、水のたまった格納容器の中で水中ロボットを使った調査を実施してきた。
 そして2023年3月下旬、原子炉を支える「ペデスタル」という円筒形の土台の内部に事故後初めてロボットを投入し内部の様子を映像で捉えた。
 今回公開されたのは、実際に調査で撮影した39時間分のうちわずか5分25秒。
 日本原子力学会廃炉検討委員会で委員長を務め原発の設計に詳しい宮野廣氏に読み解いてもらうと、限られた映像にも重要な情報が含まれているという。

 宮野氏
 「過去に調査が行われた2号機、3号機と比べても1号機の損傷が最も大きいという印象。驚いたのは、こんなに広い範囲でコンクリートが壊れているとは思わなかった」

 原子炉支える土台が損傷

 宮野氏がまず指摘したのは、鉄筋コンクリート製の「ペデスタル」内側の壁の損傷状況だった。
 半周以上の範囲でコンクリートがなくなり鉄筋がむき出しになっていた。
 東京電力によると底から1mほどの高さまでコンクリートがなくなっていて、今回撮影できなかった範囲でも損傷している可能性があるという。
 こうした現象は、先に調査が行われた2号機や3号機では確認されていない。

 かなりの高温で核燃料が溶け落ちてきたと考えられる。コンクリートは1200度くらいで完全に壊れるといわれていて、そのくらいまで温度が上がっている可能性はある。コンクリートを壊したあと水が入ったこともあり、デブリの温度が下がって鉄筋が溶けずに残ったのではないか。

(参考記事: 原発事故12年 新たな謎が )

 重さ440トンの原子炉を支える土台である「ペデスタル」が広い範囲で壊れている状態で、耐震性に問題はないのか。
 福島第一原発の廃炉の技術開発などを行っている研究機関IRIDは、2016年に耐震性評価を実施している。
 「ペデスタル」のおよそ4分の1の範囲でコンクリートと鉄筋の両方がなくなり、残りの範囲では厚さ1.2mのコンクリートが内側から4分の1程度までなくなっている状況を想定してシミュレーションした結果、原子炉が倒壊するおそれはないという結果になったという。
 しかし、今回の映像では、コンクリートの損傷がより深くまで達しているところや、鉄筋の一部が変形しているところなど、当時の想定を超える被害も見えてきた。宮野氏は詳しい解析やさらなる調査が必要だと指摘する。

 損傷が内側だけで済むのであれば、コンクリートの支持も効いているのと、内側にインナーリングという鉄の構造物が入っているので、すぐに耐震性に問題があるとまでは言えないが、高温の核燃料デブリにさらされているのと、外側のコンクリートも壊れている場合は耐震性に影響が出てくるので、どこまで損傷が広がっているか正確に調査し、改めて詳しく解析を行う必要がある。

 溶岩のようなデブリ

 次に宮野氏が注目したのが核燃料デブリと見られる堆積物だ。
 映像ではかたまり状やごつごつとした岩のような形の堆積物が、格納容器の底に広がっている様子が確認された。
 宮野氏は、核燃料が高温状態のままの溶岩のようにどろどろと原子炉から溶け落ちて固まった可能性をあげた。
 デブリが硬そうな見た目でかなりごつごつした感じで残っている。近くに映っている構造物と比べても、非常に大きいかたまりになっている。
 さらさらの物が落ちてきて固まったという形ではなく、粘性が高いというかどろっとしてかたまり状で落ちてきたか、もしくは固体が入っているものが落ちてきている可能性がある。

 原子炉圧力容器に穴も

 宮野氏は、カメラが原子炉の底の部分を見上げて撮影した映像にも注目した。そこでは制御棒を出し入れする装置がずり落ち、かたまり状の堆積物が付着していた。

 この装置は、本来原子炉の底に1本ずつ独立して溶接されている。それが何本もまとまって一緒に落下しているようで非常に驚いた。装置の溶接部分が同時に切断されたか、原子炉の底に大きさな穴が空き、まとまって落ちた可能性がある。

 映っていなかったもの

 さらに、宮野氏は今回公開された映像に映っていなかったものについても言及した。
 ほかの号機では確認されていた、核燃料を束ねた燃料集合体の部品だ。

 興味深かったのが映像では形を維持した鉄製の構造物が多く残っていることが確認できたのに核燃料集合体やその一部すらも見えなかったこと。2号機では燃料集合体の一部が映像で確認できたが、今回見た限りはなかった。
 宮野氏は原子炉でメルトダウンを起こした核燃料が高温の状態でほぼ完全に溶けきったあとに、格納容器に落下したと推察した。
 1号機では、津波に襲われた直後から核燃料の冷却するための注水ができなくなり、短時間で核燃料のほとんどが溶け落ち、高温の状態で原子炉の底を突き破ったと推定されている。核燃料を束ねる部品が見られないことは、こうした推定を裏付けることになるという。

 三者三様の“核燃料デブリ”

 ほかにも1号機の堆積物には、2号機や3号機とは異なる特徴が見られた。
 2号機では小石のような堆積物が40〜70cm程度の高さで広がり、3号機では砂状や固まり状の堆積物が山のように盛り上がって堆積し、最も高いところでは3mに達していた。
 これに対し1号機では、東京電力の推定で高さは40〜50cmと比較的低くあまり高低差もない状態だった一方、2号機や3号機と違いペデスタルの外側にも広がっている可能性が高いという。

 宮野氏は、こうした状況の違いは、核燃料デブリの取り出し方法を検討する上でも影響が大きいと指摘する。

 宮野氏

 「1号機では核燃料がほとんど全部溶け落ちて、さらにコンクリートと混ざって非常に硬くなっていると推察されている。映像からは結構大きなかたまり状のデブリも見えた。2号機、3号機と比べても取り出しは難しいだろう。3つの号機それぞれ状況が違うので、デブリの取り出しには違ったアプローチをする必要があるかと思う。原子炉内、ペデスタルの内側、外側、それぞれの状況を推定した上でどういう戦略で取り扱いをしていくのかきちんと計画を立てていく必要がある」

 求められる安全確保

 1年かけて行われた1号機の格納容器内部調査だが、すべての状況が明らかになったわけではない。
 本来はロボットをペデスタルの内側に沿って1周させる計画だったが、ロボットのケーブルが届かず半周ほどしか撮影できないまま調査が終了してしまった。
 損傷が明らかになった原子炉を支えるペデスタルの耐震性については、地元の住民はもちろん原子力規制委員会も懸念している。
 福島県は去年、おととしと繰り返し震度6強の揺れに見舞われていて、東京電力には早急な耐震性の再評価と追加調査、そして安全対策が求められる。
 12年を経て明らかになった事実は、福島第一原発の事故が今なお続いているということを改めて突きつけている。
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