[2023_04_12_03]処理水海洋放出の政府決定から2年...開始へ準備大詰め(福島民友新聞2023年4月12日)
 
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処理水海洋放出の政府決定から2年...開始へ準備大詰め

 東京電力福島第1原発で発生する放射性物質トリチウムを含む処理水の処分を巡り、政府の海洋放出方針決定から13日で丸2年を迎える。政府が「春から夏ごろ」を見込む放出開始が迫る中、処理水を海に流す海底トンネルは約900メートルに到達するなど、東電が昨年8月に着手した放出設備の整備は大詰めを迎えている。(報道部・折笠善昭)

 9割方掘り進む

 東電は処理水について、トリチウム濃度を国の基準の40分の1に当たる1リットル当たり1500ベクレル未満となるよう大量の海水で薄め、海底トンネルを通じて沖合約1キロから海に放出する計画だ。汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化した処理水を海洋放出するまでの流れは【図】の通りで、放出設備は主に▽測定・確認▽移送▽希釈▽放水―で構成される。
 東電によると、測定・確認用設備ではすでに本格運用が始まり、トンネルの起点となる立て坑は上流側、下流側とも水槽の構築が完了した。10日現在、全長1030メートルのトンネルは897メートルまで掘り進められているという。このほか、移送用配管や希釈用配管についても、配管や支持部品の設置といった作業が進む。

 完了見込み夏か

 東電はこうした設備について春ごろの完了見込みとしている。ただ、トンネル掘進の最終工程では慎重に作業を進めるために1カ月程度を要するほか、工事完了後には原子力規制委による使用前検査を受ける必要もあり、実際に放出の準備が整うのは夏にずれ込む可能性もある。
 また5日に処理水放出の安全性検証についての報告書を公表した国際原子力機関(IAEA)は今後、数カ月かけて包括的な報告書をまとめる方針で、放出施設の準備と合わせて政府が最終判断する放出開始時期は不透明だ。
 海洋放出方針の決定から2年を迎えて設備設置が進む中、成果が見えにくいのが国内外での理解の評価だ。IAEAが5日に公表した報告書では、1回目として調査団から出た指摘を踏まえた東電の計画改定について「来日してのさらなる技術的検証は不要」として一定の評価を下した。

 海水浴場にも影

 一方、内堀雅雄知事は11日の定例記者会見で「風評に対する懸念は県内外で残り、漁業者も非常に複雑な思いで葛藤している」と指摘。政府や東電に対し、IAEAなど国際機関と連携した第三者による監視と透明性の確保、科学的な事実に基づく情報発信を求めていく考えを改めて強調した。
 政府が見込む放出開始時期が刻々と迫る中、関係者は何を思うのか。いわき市の70代の男性漁師は「処理水が海に流されたら漁師の生活が元に戻るのは難しい」と吐露。政府の説明は不十分で政策も場当たり的だと厳しく指摘する。
 今夏には、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が引き下げられてから初めての海水浴シーズンを迎える。県内屈指の海水浴場のいわき市平薄磯で海の家を経営する男性(70)は、客足回復に期待を込めるが、処理水の放出が暗い影を落とすことへの不安もにじませる。「処理水が放出されれば人は来なくなるだろう。分かっていることだけど困るよ」
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