[2023_02_10_09]〈社説〉原発60年超運転 規制委は使命を思い出せ(信濃毎日新聞2023年2月10日)
 
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〈社説〉原発60年超運転 規制委は使命を思い出せ

 60年を超える老朽原発の運転を認める制度見直しを巡り、原子力規制委員会の委員5人のうち1人が、反対を表明した。
 規制委は、所管する原子炉等規制法から運転期間に関する規定を削除し、経済産業省が所管する電気事業法に委ねる方針を固めている。正式決定の段階で反対論が出てきた形だ。
 表明したのは石渡明委員。地質学者で、地震・津波分野の審査を担当してきた。科学的、技術的な知見に基づいて人と環境を守ることが規制委の使命だと訴え、期間規定の削除は「安全側への改変とは言えない」と批判した。
 至極まっとうな指摘である。正式決定は先送りになった。規制委は、委員から明確な反対意見が出たことを重く受け止め、方針を検討し直すべきだ。
 規制委は昨年、岸田文雄政権による原発推進への政策転換と歩調を合わせるように、運転期間の延長容認に向かって進んだ。
 安全性の根幹に関わる問題であるにもかかわらず、十分な議論がないままだった。その経緯を振り返り、反省する必要がある。
 山中伸介委員長は、どの程度長く運転を認めるかは政策判断に当たり、規制委は意見を述べる立場にはない、と強調している。
 認識を改めてほしい。原発は、長期間の運転を続けると放射線で原子炉圧力容器がもろくなる。コンクリートなどの劣化も進む。運転期間とはまさに規制委が担うべき問題ではないのか。科学的知見を安全に生かす役割がある。
 2011年の福島第1原発事故後、原発の運転は原則40年、最長でも60年と決まった。事故の危険性が高まる老朽原発を動かさないようにする判断だった。
 新たな方針は、60年の上限設定は維持した上で、安全対策などで運転が止まっていた期間を、計算から除外できるとの内容だ。結果として、60年を超えた運転も可能となる。規制委は今後、最長10年ごとに原発の劣化の状況を確認していくとした。
 だが、60年超の老朽原発の安全性を評価する方法は今後検討するとしただけで、具体策を示していない。60年以上運転している原発は現在、世界のどこにもない。そんな状況で将来の安全を確保できると言い切れるだろうか。
 規制委が発足したのは、福島事故翌年の12年9月。原発の推進を担う経産省から安全規制の役割を分離する狙いだった。
 事故の教訓である「規制の独立」を、忘れてはならない。
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