[2022_10_15_02]【福島県知事選・最前線ルポ】処理水/苦しむ漁業、寄り添って(福島民友2022年10月15日)
 
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【福島県知事選・最前線ルポ】処理水/苦しむ漁業、寄り添って

 相馬市にある原釜荷さばき施設。水揚げされた魚介類を入れた籠が床を埋め、活気づいていた。東京電力福島第1原発で発生する処理水の海洋放出方針で、政府が放出のめどとする来春まであと半年余り。漁業者は「どんな状況になろうとも漁業を続けられる環境づくりをしてほしい」とにぎわいが続く未来を願った。
 原発事故後、試験操業を続けてきた本県漁業は、本格操業に向けた過渡期にある。水揚げ量が増えつつある中、政府は昨年、処理水の海洋放出方針を決めた。
 荷さばき施設に併設する相馬双葉漁協の事務所で組合長の今野智光(64)は「シラスで言えば宮城県産に比べ、こっち(相双沖)で取れたものの価格は5分の1程度だ」といまだ続く原発事故の影響を明かした。「(処理水を)流していいという立場にはない。ただ、ためておくにも限界がある。反発ばかりしていても廃炉は進まない」と早期の廃炉を願いつつも風評への懸念から心中は複雑だ。
 漁協は漁業を将来につなげようと「福島型漁業」として資源管理を進めている。近年漁獲量が増えているトラフグのブランド化に若手中心で積極的に取り組むなど、本格操業に向けて販売力の回復も試みる。そのため設備面の支援を国に要望するが、今野は「政府の基金による支援はソフト面にとどまる。本当に望む支援ではない」と指摘。「声に耳を傾け、寄り添うような対応を求めている。国との折衝力も欠かせない」と県政のリーダーに注文した。
 現職の内堀雅雄と新人の草野芳明は各地で舌戦を展開し、有権者に支持を訴えている。第1原発に最も近い港・請戸漁港がある浪江町の男性漁業者(75)は、支持を訴える候補者を見つめながら「(処理水を)流すとしても影響は最小限にしてもらいたい」とつぶやいた。
 内堀は海洋放出方針が決まって以降、政府が前面に立った対応を求める姿勢を崩していない。13日、浜通りに入った内堀は双葉郡での街頭演説で「われわれがやるべきことは福島第1原発の廃炉、汚染水、処理水対策を安全に、着実に行うこと。そのために政府や東電に対して言うべきことを言う」と声を張り上げた。
 草野は13日、福島市での第一声で放出方針に反対との公約をアピール。「多くの県民が海洋放出に不安を感じている」と訴え、原発に広域遮水壁を設置することで汚染水の発生量を減らすとの方策を提案。処理水の陸上保管を継続することを政策に掲げ「県民は海洋放出に納得していない」と支援を呼びかけた。(敬称略)

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 30日投開票の知事選では震災、原発事故から11年半が経過する中での復興施策や人口減対策をはじめ、物価高や新型コロナウイルスの感染防止、経済再生など県民生活に直結する喫緊の課題を巡る論戦が期待される。現新2人の訴えを有権者はどう見るのか。選挙の最前線を取材した。
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