[2022_08_25_05]〈社説〉原発政策の転換 新増設は認められない(信濃毎日新聞2022年8月25日)
 
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〈社説〉原発政策の転換 新増設は認められない

 何の国民的議論もないまま脱原発への道を閉ざすというのか。
 岸田文雄政権が新たな原発の建設を検討する方針を示した。将来にわたって原発を活用する姿勢を明確にした形だ。「新増設や建て替えは想定しない」とする従来方針の転換である。
 脱炭素社会に向けた政策を議論する「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で打ち出した。安全性を高めた次世代型原発の建設を目指すという。
 2011年の福島第1原発事故を思い出さねばならない。当時の民主党政権は翌年、討論型世論調査などを経て「30年代に原発ゼロ」との目標を固めていた。
 原発の安全性に対する不信は根強く残っている。原発を保有する大手電力では事故後も不祥事が相次いだ。ロシアのウクライナ侵攻を機に有事の際の危険性もあらためて浮かんでいる。
 温室効果ガスを直接出さないからと原発に回帰してよいはずがない。新増設は認められない。
 最長60年となっている原発の運転期間延長も検討するという。
 福島事故後、老朽化による事故を避けるため運転は原則40年までと法律で決まった。寿命が来た原発から順次廃炉にし、やがて原発のない社会を目指す。事故後、国民の間で広く共有されてきたはずの将来像である。
 その後、20年延長の例外が適用され、運転の長期化が進む。今回の新増設検討方針は、そんななし崩し的な対応の末に現れた。
 福島事故後、脱原発に背を向けたのは安倍晋三政権だった。14年に決定したエネルギー基本計画は原発依存度を「可能な限り低減する」としつつ、原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、再稼働を目指すとした。
 「可能な限り低減」の方針は昨年決定の基本計画でも維持している。曖昧な政策で正面からの議論を避け、記憶の風化を待ち続けてきたのが実態だろう。
 岸田政権は、ウクライナ侵攻などでエネルギーの安定供給が大きな課題となる中、既存原発の再稼働を強力に進める方針だ。
 当面の供給問題を将来の原発活用に結び付けるのは短絡的だ。
 次世代型原発の検討を進めたとしても、稼働までに10年以上は要する。安全性の高さをうたってはいるものの、核のごみが出る点などは従来型と変わらない。
 国民不在の政策を進めてはならない。原発を温存したために遅れた再生可能エネルギーの普及にこそ力を入れるべきだ。
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