[2022_04_01_06]日本で地熱発電を大きく稼働させるには 世界では10位に後退・・(島村英紀2022年4月1日)
 
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日本で地熱発電を大きく稼働させるには 世界では10位に後退・・

 私は研究のために大西洋の中央にあるアイスランドを13回、訪れたことがある。アイスランドへ行って悔しかったこと、それは地熱発電だった。
 アイスランドで地熱発電所を訪れてみると、動いているのは日本製の発電装置であった。じつは同国とならぶ地熱発電大国、ニュージーランドでも日本製の発電装置が広く使われている。
 アイスランドも日本と似て火山が多くて地熱が豊富な国だ。地熱と水力発電ですべての電力をまかない、火力発電も原発もなくてすむアイスランドはうらやましい。
 地熱発電は季節や天候に左右されることがなく、24時間365日の安定した稼働ができる。設備利用率は太陽光発電が約12%であるのに対して地熱発電は約80%という高さである。
 プレートが衝突して地下でマグマが生まれている日本の地熱埋蔵量は世界有数だ。各国の地熱の資源量は、西部に世界最大規模の地熱地帯をもつ米国が第1位、火山の国インドネシアが第2位だが、それらに次いで日本は世界第3位である。つまり資源としては日本は十分に多い。
 いま日本の地熱発電出力は合計約500MWあまりだ。これは日本の電力需要の約0.3%でしかない。日本は2015年にケニアに抜かれて世界第10位にまで後退してしまった。他方、インドネシア、ニュージーランド、アイスランド、トルコは、この15年で2倍以上にも増えたからである。
 日本で、いままで地熱発電があまり行われてこなかったのは、国立・国定公園の中で掘削や開発事業をしてはいけないという「自然公園法」の制約と、温泉が枯れるのではないかという温泉業者の反対によるものだ。日本でいまの地熱発電が可能な場所の8割は国立・国定公園内にある。
 しかし、近年は事情が変わってきている。環境省が2012年に発表した新たな指針では、「国立・国定公園の中でも景観を維持するうえで重要な区域を除いては小規模な発電設備の建設を認める」ことになった。
 ところで地熱発電の技術的な難点、地熱採取のための深い穴を掘ることについては、マサチューセッツ工科大学から派生した新興企業がミリ波長の電磁放射で原子を溶かして深い穴を掘ろうという手法を開発した。核融合炉のプラズマ加熱に使われるジャイロトロンを応用したものだ。あと4年で実用化できるという。強力な磁場の中で電子を高速振動させ電磁放射のビームを発生する。数ヶ月で深さ20キロまで掘り進むことが可能だ。この深さだと地下でマグマが生まれていない国でも地熱発電が可能になる。
 一方で地熱発電には問題がないわけではない。韓国やスイスで地震を起こしたり、福島県・柳津西山地熱発電所のように二酸化炭素が大量に出て来てしまうことがある。
 設備の腐食やパイプの詰まりが多いほか、地熱とともに硫化水素や砒素などの有害物質が地表に上がってきてしまう問題もある。
 世界の地熱開発はこれから一層進むに違いないが、これらの問題を解決しながら地熱の利用を進めることがカギになるだろう。
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