[2020_12_11_10]全体を除染すべき 環境の回復強く求める【復興を問う 帰還困難の地】(36)(福島民報2020年12月11日)
 
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全体を除染すべき 環境の回復強く求める【復興を問う 帰還困難の地】(36)

 葛尾村野行(のゆき)行政区の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の周辺には広大な山林が広がる。木々が生い茂り、澄んだ空気が吹き抜ける。豊かな自然は長い間、住民の暮らしに密着していた。拠点内に自宅があった元葛尾村職員の半沢富二雄さん(67)は、幼いころから家族や友人と山菜やキノコを収穫し、山の幸を楽しんだ。
 野行行政区を囲む山林は、東京電力福島第一原発事故により放射性物質で汚染された。環境省は二〇一八(平成三十)年に拠点内の除染を開始。草木の刈り取りや落ち葉の除去、建物の解体を進め、年内には完了する見通しとなっている。
 一方、山林の除染は手つかずのままだ。拠点外の除染対象は復興拠点に通じる道路や、その両側最大二十メートル内に含まれる土地や建物などに限られる。村は拠点外の除染を国に求めているが、今も方針は示されていない。

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 「未除染の山林に囲まれた復興拠点は、住民が心から安心して暮らせる場所になるのだろうか」。半沢さんは野行行政区に足を運ぶたびに疑問を抱く。更地になった自宅跡地から周囲を見渡すと、やりきれない思いが頭の中を駆け巡る。「あんなにきれいな自然が汚されている。悔しいよなあ」
 拠点内の大部分は農地に当たる。国や村は土の入れ替えなどをして田畑や牧草地の環境を回復させ、農畜産業の再開を支援する計画を掲げている。ただ、除染されていない山林に囲まれた場所で、野菜や牛などを育てる農家がどれだけ現れるかは見通せない。

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 野行行政区は農畜産業が盛んだった。農家で育った半沢さんは、もう一度、新鮮な野菜やコメなどが収穫できる地域になってほしいと願う。自宅跡地を訪れた際は、かつて使っていた畑の草むしりや草木の剪定(せんてい)作業に汗を流す。「自分が農業を再開するのか、それとも次世代が担うのかは分からない。それでも、将来に備えて土はきれいにしておきたいから」と前を向く。
 村によると、行政区内の野行集会所の空間放射線量は二〇一四年八月時点で毎時四マイクロシーベルト超だったが、現在は毎時一・四マイクロシーベルト程度まで下がった。ただ、半沢さんが自宅跡地周辺で自ら測定をすると、場所によっては毎時三マイクロシーベルト程度の数値が出る。拠点外の山林から放射性物質が流れ込んだのではないかと不安になる。
 「国は拠点外の山林を含めた野行全体の除染を実施すべきだ。このままでは住民は戻らない」。環境回復を求める声に力がこもる。
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