[2020_10_07_03]「原子力離れ」学生の減少続く 事故や不祥事で不信強く(西日本新聞2020年10月7日)
 
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「原子力離れ」学生の減少続く 事故や不祥事で不信強く

 原子力分野の研究開発を担い、原発の運転を支える人材が将来不足する懸念が取り沙汰されている。国の原子力委員会が8月末に取りまとめた原子力白書は、初めて人材育成をテーマにした特集を組み、人材の枯渇に警鐘を鳴らした。背景には福島第1原発事故や度重なる電力会社の不祥事でイメージが悪化し、原子力を専攻する学生が減ったことがある。業界団体が技術力の継承を危ぶむ一方、識者の中には「脱原発が進む中で当然の流れだ」と冷静な見方もある。
 「福島事故から10年がたとうとする中、原子力分野の足腰を見直すことが求められている」
 8月31日、原子力委員会の岡芳明委員長が定例会議で強調した。議題は2019年度版の原子力白書。岡委員長が懸念するのは、原子力分野に進む学生の減少に伴う人材不足だ。白書では43ページの特集を組み、欧米や中国の原子力教育を紹介し、次世代の人材育成の重要性を提言する。
 内閣府によると、学生の原子力離れが進んだのは1990年代以降。高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)のナトリウム漏れ事故や東京電力の点検データ改ざんなどの不祥事が不人気に拍車をかけた。その後、福島第1原発事故が発生し、全国の原発が停止。原子力は将来を描きにくい学問というイメージが広まった。
 文部科学省の集計では、大学・大学院の原子力専攻入学者は、70年代半ばから90年ごろまで500〜600人で推移。92年の約670人をピークに減少傾向となり、2018年には約260人まで落ち込んだ。
 この状況が続けば、技術者不足やノウハウの散逸を招きかねない−。原子力業界には強い危機感がある。
 関連企業でつくる日本原子力産業協会(東京)によると、毎年実施する学生向けの就職説明会「原子力産業セミナー」の参加者は10年度に1903人だったのに対し、11年度以降は250〜500人に激減。団塊世代の技術者の退職も進み、原発建設に携わった経験者は減っているという。
 喜多智彦人材育成部長は「これからも長期運転のメンテナンスや廃炉を支える人材が必要だが、原子力業界は学生にビジョンを語りにくくなった」と漏らす。業界では約10年前から、メーカーや電力会社、官公庁など82機関が参加する団体が中心となり、人材育成戦略を検討している。
 もっとも、福島原発事故後、国民の不信感は根強いまま。政府はエネルギー基本計画で原発を将来も活用する姿勢を堅持するものの、再稼働は進まず、新増設も見通せない。人材育成への見解もさまざまだ。
 九州大大学院の出光一哉教授(核燃料工学)は「再生可能エネルギーだけで日本の電力はまかなえない。技術者不足は、エネルギー政策の根幹にかかわる課題だ」と指摘。一方、龍谷大の大島堅一教授(原子力政策)は「学生は原子力の将来性を敏感に感じ、魅力を感じなくなっている。脱原発が進む中で人材離れが進むのは当然の流れで、国が人材育成まで心配するのは過保護だ」と話している。
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