[2020_05_17_01]曲折の6年 再処理「合格」 (4)設備審査 不安残る事故対応 自覚、理解不足が露見(東奥日報2020年5月17日)
 
 「自分たちのプラント(設備)を勉強、想像することが足りず、上っ面だけでオウム返しのように(書類を)持ってこられても事故が起きた時に対応できない」。合格証「審査書案」を報道陣に解説しながら、原子力規制庁の幹部は約6年4カ月に及ぶ日本原燃(六ヶ所村)とのやりとりを念頭に、語気を強めた。
 再処理工場は、各地の原発から運ばれる使用済み核燃料の冷却貯蔵、切断、精製といったエ程ごとに建屋が分離。そのため放射性物質は、炉心など局所的に集中する原発と異なり、工場内に広く面的に分散する。
 放射性物質の形状は溶液や粉末などさまさま。工場内は機器の数も多く、防護すべき対象の範囲が広い。化学プラントに近いとされる。一方、一定の冷却期間を経た使用済み核燃料を扱うため「事故の進展は原発よりずっとゆっくり」(更田豊志・原子力規制委員長)との特徴もある。
 これまでの安全審査は、高レベル放射性廃液やプルトニウム溶液などの貯槽がある6建屋で重大事故の発生を想定した。安全性を高めるため、通常では起こりにくい「科学的かつ合理的な範囲を少し超えた」(規制庁審査チーム)事故をあえて設定しているという。
 連鎖的な核分裂反応が起きる臨界事故など、5種類の事故を中心に対処方法を議論した。例えば「蒸発乾固」は、廃液が冷却機能を失って沸騰し、大量の放射性物質を拡散する恐れのある事故。原燃は新たに、放射性物質を含む蒸気を凝縮する機器や高性能粒子フィルターを設け、放出量を低減するとした。
 使用済み核燃料の放射性物質や発熱の量を減らすため、処理を始めるまでの冷却期間を従来の「4年以上」から「15年以上」へ延長する。また、約360人の要員を収容する緊急時対策所を設けるなど、安全対策工事の費用は7千億円に上る。常設費は7600億円だった当初から、安全対策工事費を含め約2兆9千億円に膨らんだ。
 1993年の着工以来、再処理工場はトラブルが繰り返されてきた。問題が生じるたびに、原燃は安全管理の体制改善を求められてきたが、審査の終盤までトラブルや不備は続いた。
 設備の審査会合は72回。東京電力福島第1原発事故の教訓を跨まえた新規制基準に照らし、重大事故など各対策の資料説明、規制庁との質疑に長い時間を割いた。原燃は回答に窮する場面が目立ち、規制庁から「どれだけの自覚があるか疑問」と自省を促された。
 安全の責任を負う当事者として、操業が近づくほど原燃には一層厳しい目が向けられる。名古屋大大学院の山本章夫教授(原子力安全専門)は「事業者が自らトラブルに対応し面倒を見るという、新検査制度が重視する考え方をきちんと再処理で運用できるか。規制当局に指導されないとできないのではだめだ」と語る。
 審査を通じてたびたび露見した原燃の「理解不足」は「単に書面の問題ではない」と規制庁幹部。「(重大事故など)切迫した状況下で作業する人間が、どれだけできるかの能力に関わる。自分たちのプラントをよく理解していることが前提だ」と強調した。(佐々木大輔、若松清巳)
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