[2011_12_08_03]核心評論 原発事故社内調査 東電には期待できない(東奥日報2011年12月8日)
 東京電力社内調査委員会による原発事故の中間報告は、既に判明している事実を並べ、従来の「想定外の津波が原因」とする説を繰り返すばかりだ。多額の損害賠償請求に備え「あくまで自然の猛威による不可抗力。東電は最善を尽くした」と釈明するための対策文書ではないかとの疑念さえ起こる。
 詳細な聞き取りとその公開、外部に開かれた議論と検証が不可欠だが、自ら問題点を抽出しようとしない東電に期待するのはもう無理だ。国や国会による調査で、徹底した原因究明を求めたい。
 中間報告で東電は、10メートルを超えるような津波を想定することには根拠がなかったと主張。過酷事故への備えも「国と一体となって整備していた」と強調した。
 仕方なかった、自社だけの責任ではないと言いたいのだろうか。そこには「どうしたら安全性をより高められるか」を問わず、「どうしたら運転を続けられるか」に腐心していた経営陣の安全軽視の思想が今もそのまま温存されているようにしか見えない。
 これでは「原因を明らかにし、教訓を今後の事業連常に反映していくことが社会的責務」とした報告書前文は単なるリップサービスである。原発の安全、技術の在り方についての教訓を後世に残すという責任は、「職員はこんなに頑張った」と列挙したところで果たせない。「なぜこんなことが起きてしまったのか」との根本的な問いに立ち返り、納得のいく答えを示すことが求められる。
 そもそも現場にいた関係者の証言がきちんと整理されていない。記憶は時とともに薄れる。一刻も早く聞き取りを進め、証言を集積しておかないと、今後、新たな事実が判明しても、事実関係の解明が不可能になる恐れがある。東電は来年6月をめどにまとめる最終報告では幹部の判断や行動を明らかにするというが、あまりに悠長だし、幹部職員の証言だけでは検証には足りない。
 今回の事故では、既に判明した事実関係の中にも多くの謎が残る。なぜ、水素爆発対策がなされなかったのか。敷地内の放射線量が上がったのはそれぞれ何が原因か。1号機の注水を中断したのを「手順書通り」で妥当とした判断も疑問だ。
 特に地震の揺れによる影響の評価で、東電は安全上重要な設備や機器に大きな影響はなかったという立場を崩さない。
 しかし既に多くの専門家が、揺れによる損傷の可能性を指摘した。ほかの原発へも波及しかねない重大な論点で、安全のためには、損傷の可能性を最大限に大きく見積もり、それを防ぐ方策を見いだす努力が必要だ。
 津波の後、原子炉建屋内は停電、現場は混乱を極め、当時の情報は圧倒的に不足している。国と国会の調査委は、東電の見解に惑わされず、徹底的に事実を調べ、問題点を掘り起こしてはしい。
 (共同通信編集委員 由藤庸二郎)
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