[2011_12_08_01]原発維持へ官民一体 泊1号機一次評価提出 着々と既成事実化 住民説明おざなりも 井野博満東大名誉教授 安全基準改定が先決(北海道新聞2011年12月8日)
 北海道電力が7日に泊原発1号機の再稼働のため、経済産業省原子力安全・保安院に安全評価(ストレステスト)の1次評価報告書を提出した。既に全国4例目で、脱原発と原発維持で国論が割れる中、政府と電力業界の間では原発による電力供給という「既成事実」を積み重ねる動きが加速しつつある。 (東京報道 十亀敬介)

 「効果的に審査を進めたい。先行する原発の審議状況をしっかり把握して対応してほしい」。保安院の黒木慎一審議官は7日、北電に対して、問い合わせに速やかに答えられる体制づくりを求めた。
 全国の原発54基のうち、1次評価の対象は現在36基。評価結果は関西電力大飯3、4号機、四国電力伊方3号機でも堤出済みだ。

 「不足」4社

 当初は8月以降、評価結果が集まるはずだったが、やらせ問題が発覚した上、原発の耐震安全性評価のデータでも誤りが続出した。このため、政府が目指した今冬の再稼働「第1号」を出すには厳しい情勢となったが、原発推進派の専門家からは「大停電のおそれが残っている。再稼働手続きを速めるべきだ」との主張がやまない。
 一方、政府試算によると、来夏まで原発再起動がないと北電や関電など4社で電力不足が生じるおそれがあるものの、今年並みの暑さであれば、東電など5社は節電で乗り切れる可能性が出てきた。

 当面は活用

 それでも野田佳彦政権は従来のエネルギー政策を見直す一方、原発を当面活用する方針。6日には原発輸出を可能にするヨルダンなど4カ国との原子力協定承認案も衆院で可決された。原発への賛否が割れる中、全国一律で再稼働を進める必要があるのか、政府として再考しようとの機運は高まらないままだ。
 ストレステストに法的裏付けはないが、原発推進を掲げる電力業界も協力を惜しまない。電気事業連会会の八木誠会長(関電社長)ほ「早期の再稼働に結びつくよう、努力していきたい」と繰り返している。
 ただ、官民一体で再稼働をあまりに急げば、住民に対する原発リスクの丁寧な説明がないがしろになるなどの懸念も出ている。

 安全基準改定が先決

 政府が原発再稼働で課す安全評価(ストレステスト)は、原発の信頼性向上につながるとの評価がある一方、限界を指摘する声も根強い。井野博満東大名誉教授(金属材科学)に問題点を聞いた。
 福島第1原発事故で安全神話は崩壊したどころか、危険性が過小評価されていたことが分かった。原発に関する国の指針や安全審査は不十分だった。
 まず原発事故を踏まえて新たな安全基準をつくるベきで、その前にストレステストを実施すること自体が問題だ。
 ストレステストを進めるにしても、見直すべき課題は多い。
 例えば東日本大震災の後、福島原発近くでは活断層と認定されていなかった断層が動いたことが分かっている。国は北電を含む電力会社に、複数の活断層の連動地震の再評価などを求めている。ストレステストの前提として想定されている最大地震の規模は適正だったのか、立ち止まって考えるベきだ。
 福島の原発事故は、津波のほか、地震による配管切断などの損傷が原因の疑いがある。今後明らかになる事故原因に関する知見を反映させる必要がある。
 また、ストレステストはコンピューター解析で行うので、現実の設備状態は必ずしも反映されない。泊原発のように運転期間が比較的短くても材料劣化は起きているはずだ。設備を実地調査して、評価結果に反映させなければ、安全への信頼は得られないだろう。
 ストレステストは地震や津波に対して原発が持つ「余裕度」を判定するという。ただ審査や合否の基準は不明確で、地元住民は参加もできない。
 政府や電力会社が、ストレステストを再稼働に結びつける動きには反対だ。
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