[1997_10_13_04]反原発運動マップ_宮崎県串間市_「太陽とみどり豊かな串間」は原発とは共存しない_竹下主之●反原発ネットワーク串間_p220-221(緑風出版1997年10月13日)
 
参照元
反原発運動マップ_宮崎県串間市_「太陽とみどり豊かな串間」は原発とは共存しない_竹下主之●反原発ネットワーク串間_p220-221

 
 宮崎県串間市は宮崎市から南へ80キロ、鹿児島県志布志町に隣接する。平均気温17・6度という温暖の地は、豊かな自然に恵まれている。総延長77キロの海岸線は景観に秀れ、好漁場でもある。市制施行当時の人口は半減し、現在2万6000人のほとんどは農林漁業に従事する、高齢化過疎化の進んだ農村地帯である。

◎全く突然の立地打診
 1992年2月17日、地元紙の宮崎日日新聞が一面トップの大見出しで、「串間に原発、九州最大規模、135万キロワット四基」と報道し、市民に大きな衝撃を与えた。翌々日、女性団体の役員三名が市長に「原発反対」を申し入れ、串間原発の反対運動がスタートした。串間の原発問題の特徴点は、チェルノブイリ事故後では初めての新規立地打診であることだ。
 当初は隣接する日南市の市民グループと共に数名でのビラ配布という運動が主で、市民へのアピールもなかなか届かないままに進んだ。当時の野辺修光市長は「慎重に対処したい」と言いつつ、4月に企画調整課に「電源担当係」を新設し、議会も市と同調する形で、議長を除く22名で「原発問題調査特別委員会」をつくり活動をはじめた。その後行政は「エネルギー講演会」と称して、原発推進のための講演会を続けた。第一回目の講師は、当時読売新聞論説委員の中村政雄氏、二回目はエッセイストの山谷えり子氏、三人目は東大の近藤駿介氏と、いずれも推進派の講師ばかりで、市民の聞からの批判が強かった。しばらくは、市民グループ以外に何も組織のないままで進んでいたが、労働団体を基盤に、「串間に原発をつくらせない県民の会」が組織され、その下部組織もつくられ、ようやく団体としての取り組みが始まった。その後多くの団体が連帯し「串間原発反対市民会議」が発足し、統一体としてビラ配布や立看板などによる運動となり、市民へのアピールが続けられた。10月には「10・18原発はいらない3000人県民集会」が市内の河川敷で開かれ、大分県や鹿児島県からも参加があり、一般市民も自主的に参加するなど反原発運動へ大きな一歩をふみ出した。

◎市長汚職で出直し市長選へ
 原発問題が市民の大きな関心を呼び、賛否それぞれの立場を明らかにする人が多くなった10月、市のコンピュータ導入にからむ市長の収賄事件が発覚し、市長辞任により出直し市長選となった。
 串間市は政争が激しく、これまで市長の連続当選がない。市長辞任が伝わるとすぐ、前回の市長選で敗れていた元市長の山下茂氏が立候補を表明した。青年団活動から市議になり、県議、市長を経験したベテラン政治家だ。反原発派は緊急な対応を迫られたが、どうしても統一候補をと各グループで話し合いの結果、国会職員を退職したばかりの、全く無名の川崎氏で闘うことになった。選挙資金もなく、一口5000円、10口を上限とするカンパを募り、400万円余ですべてを賄う手作り選挙となった。
 市内のほとんどの経済団体が、派閥解消のためと山下氏を応援し、同氏が優位に戦いを進めたが、投票日の直前になって川崎氏が急追し、ついに山下氏も「原発は市民の意思を尊重する住民投票も」と公約し、ようやく逃げ切った。結果は9200対7200でマスコミは反原発派の大善戦を大きく報道し、市民の反原発運動に大きなエネルギーを与えた。

◎市内は三JA(農協)が反対表明
 93年3月、JA大束の定期総会で原発反対の緊急提案があり、全会一致で議決された。そのあと、市内最大の経済団体であるJA串間も反対を決議し、続いて残るJA市木も反対を表明し、市内の三JAが「農業と原発は共存できない」をスローガンに一致し、新しい組織としての取り組みがはじまった。当初は「風評被害」の不安からスタートした反原発も、いまでは原発の危険性や放射性廃棄物問題など、原発の本質的な問題点への学習も深まった。このような状況に至るまでには、JA青年部員たちの徹底した学習会の取り組みがあり、反原発のビデオテープなどで各地区の小さな集落までまわり、JA関係者への訴えが理解されたことが大きい。
 一方、串間市漁協は、他の原発立地問題をかかげる地区の漁協とは大きく異なり、九州電力の要請を受けたかのように、組合員へのアンケートのあと、臨時総会で記名投票という圧力をかけ、170対35で推進を決議した。商工会議所も推進決議をし、建設業組合などが加わって「原発立地推進協議会」が結成された。その後、九州電力とタイアップしての広報活動や、原発見学招待旅行が執拗に続けられていて、市民の反発も大きい。しかし、市長は「企業活動だから」と黙認してきた。(後略)

[串間市]
 面積294・90平方キロメートル、人口2万5792人(1996年3月末現在)。米、カンショなどの農業が主体。都井岬のソテツ自生地、岬馬、幸島の猿生息地などで知られ、観光客も多い。

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