[2005_01_08_02]スマトラ沖大地震 巨大津波 こう起きた 浅瀬で圧縮、波高 増す 西へ東へ 時速720キロ 巨大震源断層 日本に2種類 地震波 地球5周以上、過去に例なし (毎日新聞2005年1月8日)
 スマトラ沖大地震は、大きな津波を起こし、インドネシア、タイ、スリランカなどインド洋に面した13カ国で15万人以上の死者を出した。地震の規模を示すモーメントマグニチュード(MW)=ことば参照=9・0は、観測記録がある中で過去4番目の大きさだった。地震で津波が起きるのはなぜか。数千キロも離れた場所にまでどのように伝わるのか。津波の語源は何なのか。観測データや専門家の話で探った。    【中村牧生】

 ■西へ東へ
 ≪津波はなぜ起きるのか≫

 震源が海で、海底の浅い所で起きた大きな地震は、断層運動で海底の地盤を隆起させたり、沈降させたりする。こうした海底地形の変形に伴って海面が変動し、波となって四方に広がっていくのが津波だ。
 日本では南海、東南海、日本海など近海で起きるプレート(岩板)境界型地震で超きることが多い。専門家によると、スマトラ沖大地震もインド・オーストラリアプレートが、ユーラシアプレートの下に沈み込むプレート境界のスンダ海溝で起きた。インド・オーストラリアプレートは年6センチの速さで沈み込む。引き込まれたユーラシアプレートにひずみが蓄積され、耐えきれなくなり跳ね上がる。
 東大地震研の都司嘉宣助教授は今回の地震について「最初に海面が盛り上がって出来る海面の上昇が押し波となって西へ進み、沈降によって出来た引き波が東へ伝わった」と分析する。実際、震源西側のスリランカでは数メートルの高い波が押し寄せたが、東側のタイでは引き波から始まった。

 ■時速720キロ
 ≪どうして遠くにまで伝わるのか≫

 伝わり方のイメージとしては池に石を投げ込んだ際の波紋と思えば良い。だが、エネルギーがとてつもなく大きいので、遠くまで伝わる。
 その速さは水深で決まる。水深4000メートル以上の深い海域では津波は時速720キロ以上のジェット機並みの速さ。それに対し、水深が浅い海岸近くでは時速30〜40キロの自動車並みに速度が落ちる。海が浅いとエネルギーが減衰するためだ。
 波の高さも水深で変化する。水深4000メートルで高さ2メートルの津波は、水深200メートルの大陸棚では3〜4メートルになる。浅瀬では津波の先端部分の速度が落ちて波が圧縮されるため波高が増す。また、X字形の湾や岬の先端、孤島などでは、エネルギーが集中して津波が高くなりやすい。

 地震波 地球5周以上、過去に例なし

 スマトラ沖大地震は、津波被害の大きさに目を奪われがちだが、地震としても史上まれに見る大きな地震だった。

 ■巨大震源断層

 東京大地震研究所の山中佳子助手は、各地で観測された地震波を解析して震源断層を推定した。その結果、震源断層は南北約560キロ、東西約120キロ、探さ約32キロ。これが約3分20秒かけて約13・9メートルずれたと推定されるという。破壊が始まった地点(×印)はスマトラ島北西部のシムルエ島付近で、そこから約200〜500キロ北の範囲内に二つある固着域(断層面で強く固着した部分)が、ずれたらしい。
 MW9・0はMW6・9の阪神大震災の1400倍の大きさ。MW8・0だった03年十勝沖地震と比べても32倍大きい。山中助手は「破壊が始まった部分にも大きくずれた領域があり、ここだけでもMW8クラスのエネルギーを放出している」と地震の規模の大きさを指摘した。

 ■日本に2種類

 MW9・0以上の地震は20世紀に4回しかなかった。スマトラ沖大地震では地震波が地球を5回以上も周回していた。5周以上の観測は過去の地震では記録がなく、今回の地震の巨大さを裏付ける証拠の一つだ。
 北海道大大学院理学研究科の吉沢和範助手が、独立行政法人・防災科学技術研究所が国内に設置した地震計の波形を詳しく調べた。それによると、先月26日年前9時58分(日本時間)ごろに起きた本震の地震波は、震源から北東に向かって日本に伝わったものと、南半球を経由して反対から日本に達したものの2種類が観測されている。いずれも発生後約17時間までに5回ずつ観測され、少なくとも5周したことがはっきりと確証できた。
 さらに、発生の約28時間後まで詳細に解析すると6、7、8周目と見られる波形の痕跡もあった。吉沢助手によると、20世紀最大の1960年チリ地震(MW9・5)でも、米国が記録した地震波は地球3周にとどまる。
 吉沢助手は「地震の規模が極めて大きかったことと、直後に規模の大きな余震がなく、新しい地震波によって打ち消されなかったことが大きい」と推測する。

 ■日系人の一言
 ≪TSUNAMlは世界の共通語なのか≫

 津波がローマ字表記で知られるようになったのは、1946年にアラスカ・アリューシャン列島で起きたMw7.8の大地震による津波がきっかけ。津波はハワイ到達時に高さ約8メートルとなり約180人が死亡。その惨状を見た日系人が「ツナミ」と口にしたという。その約3年後に、米政府が「ツナミ」のローマ字表記を使った「太平洋津波警報センター」をハワイに設立した。
 英語ではもともと高潮を意味する「tidaiwave」と表現していたが、津波は高潮と無関係なことから「TSUNAMI」を使うようになったという。
KEY_WORD:TIRIJISIHIN_:TOKACHIOKI_:SUMATORA_:TSUNAMI_:HANSHIN_: