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熊本地震と阿蘇山噴火、南海トラフは関連するのか 島村英紀・武蔵野学院大学特任教授に聞く

4月14日から始まり、いまだに収束の気配が見えない熊本・大分の地震活動。16日には阿蘇山が小規模噴火を起こした。いずれ確実に来ると見られる南海トラフ巨大地震との関係性はあるのか、地球物理学(地震学)の専門家、島村英紀・武蔵野学院大学特任教授に聞いた。(聞き手/ダイヤモンドオンライン編集部 津本朋子)

南海トラフの動きが熊本地震の引き金に?
連動する地震と火山

――4月14日から始まり、いまだに熊本県、大分県を中心に地震活動が続いています。16日には阿蘇山が小規模ですが噴火しました。一連の地震と火山噴火は関係しているのでしょうか?

気象庁も「前例がない」と困惑する熊本地震。日本有数の火山である阿蘇山も抱える地域だけに、今後が心配されているPhoto:Abaca/Aflo

図中の赤い線が南海トラフの位置

 そもそも阿蘇山は熊本地震以前から活動が活発化していました。非常に強い力を持った火山です。しかし熊本地震が今回の噴火に関係なかったかと言えば、私はあったと見ています。熊本地震で阿蘇山が揺れ、火山ガスが発泡したと考えられるからです。ちょうどコーラの瓶を振ったら泡が飛び出すのと同じ理屈です。

 海溝型と呼ばれる、プレートが関連する地震は、火山活動と大いに関係しています。東北地方太平洋沖地震(東日本大震災を引き起こした)や、東海地震、南海トラフ巨大地震などは海溝型です。

 一方、熊本地震は活断層が起こした内陸型(直下型)。地震発生のメカニズムが違います。ただ私は、熊本地震が起こった背景には、南海トラフに関係するプレートによる圧力が働いた可能性がある、と考えています。

 南海トラフは静岡の駿河湾から九州の宮崎沖まで続く海底の溝(トラフ)で、フィリピン海プレートがユーラシアプレートに沈み込む場所です。熊本地震が南海トラフ巨大地震の引き金になるとは思えません。小が大に影響を及ぼすことはないですから。しかし逆に、南海トラフでの動きが九州の活断層に影響を与え、その結果として熊本地震が起きた可能性はあるのです。

しまむら・ひでき
1941年、東京都生まれ。武蔵野学院大学特任教授。東京大学理学部卒業、同大学院修了、理学博士。東京大学助手、北海道大学教授、北海道大学地震火山研究観測センター長、国立極地研究所長などを歴任。専門は地球物理学(地震学)。「直下型地震」、「日本人が知りたい巨大地震の疑問50」、「新・地震をさぐる」「火山入門」など著書多数。

 南海トラフ巨大地震自体は、M8?9クラスの地震が100〜200年周期で起きていることが分かっていますから、いずれ必ず来るでしょう。そうなれば、火山にも大きな影響を及ぼします。

 阿蘇山はもちろん、多くの火山に影響を与えるはずで、東京ドーム250杯分もの火山灰を噴出する、いわゆる「大噴火」と呼ばれるものが起きても不思議はありません。

 地震と火山は兄弟のようなものです。プレートが動くことで直接的に起きるのが地震。一方、火山はプレートの動きによってマグマが生まれ、マグマだまりを作りながら発泡、つまり噴火に至ります。

予測不可能な熊本地震の今後
東日本大震災後に活動期に入った日本列島

――熊本地震では14日にM6.5の地震が起き、これが本震かと思いきや、16日にはM7.3の地震が起きて驚きました。気象庁も「近代観測史上、聞いたことがない」と言っていますが、今後はどのような経過が予測できますか?
 これはまったく分からないですね。気象庁の言う近代観測というのは、1923年以降の話です。しかし地震や火山活動は数百年、数千年といった、人間からすれば気の遠くなるような周期で起きています。地震学者も火山学者も「分からない」というのが正直なところなのです。

 地震には大きく3つのパターンがあります。1つ目は「本震−余震型」。これは全体の9割を占める。あとは「双子地震」と「群発地震」です。熊本地震は、明らかに本震−余震型ではありません。しかし双子地震なのか、それとも群発地震なのかは、まだ何とも言えません。

――阿蘇や大分といった東側や、八代といった南西側に広がっているのも気になります。

 ある場所で地震が起きてエネルギーが解放されると、今度は隣接する断層でいわば「留め金が外れた」状態になり、地震が連鎖するのです。

 今回の地震は、中央構造線と呼ばれる断層帯群上で起きました。これは、長野から鹿児島までを通る、1000キロにも及ぶ巨大断層群です。今回の地震を起こした布田川断層や日奈久断層も、中央構造線の一部。そして、阿蘇山も中央構造線上に位置します。中央構造線で地震が起きるというのは地質調査によって明らかになっています。

 14日以降、愛媛県沖や徳島県など、四国地域でも非常に小規模ですが地震が発生しています。これがどの程度広がるのか。先ほど、地震は連鎖すると言いましたが、隣接する断層でも、十分なエネルギーがたまっていなければ地震には至りません。しかし予知は難しく、数年経ってから「こうだった」と分かるのでしょう。

 そもそも東日本大震災以降、火山噴火も相次いでいますし、日本列島は明らかに活動期に入ったと考えるべきでしょう。というか、そもそも過去100年ほど、日本列島は静かすぎた。「大噴火」だけでも100年間で4〜6回程度は起こる、というのが普通なのです。

 全国どこにいても、「九州は対岸の火事」だと思うべきではありません。日本には分かっているだけで2000もの活断層があります。実際には、6000くらいはあるのではないかとも言われています。熊本地震でも、実は布田川断層が阿蘇山のカルデラ内部にまで延びていることが、地震後に調査をして初めて分かりました。東京でも、立川断層が危ない、とは皆が知っている事実ですが、その東側エリアには断層が存在しないことになっている。しかし、これは断層が「ない」のではなく、「分からない」だけです。

 1855年には安政江戸地震が起き、1万人が亡くなりました。これは隅田川の河口近くが震源と考えられますが、ここに活断層があるのかどうかは調査できていません。阿蘇山のケースも、火山灰が堆積している地域だから活断層を調べられなかったのが、地震がきっかけで地表に出てきたのです。

アテにならない地震発生確率
縦割り行政の弊害も

 私も現地で調査したことのあるトルコの北アナトリア断層も、やはり長さ1000キロにも及ぶ巨大断層です。この断層では1939年に東端で地震が起こり、それから約60年かけて西端に近いところまで、次々にM7クラスの地震が発生していきました。間隔はさまざまで、1年に2回起きたり、かと思えば十数年空いたこともありました。こんな事例もあるので、日本でも気を抜くべきではないでしょう。

――「九州は地震が少ない」とは通説のように言われていましたし、政府の地震調査委員会の予測地図でも大地震の可能性は比較的低そうでした。結局、地震予知はアテにならないのでしょうか?

 熊本のみならず、岩手・宮城内陸地震や新潟県中越地震など近年起きた地震も軒並み、発生確率が低いとされた地域で起きました。阪神大震災も起きる直前の発生確率はわずか0.02〜8%。やはり「関西には大地震はこない」などと言われていました。

 南海トラフ巨大地震のように「30年以内に70%」などと言われれば警戒するでしょうが、たった数%なら「大丈夫」だと考えてしまうでしょう。しかし現実はそうなっていない。先ほどお話ししたように、日本全国には「分からない」だけで、実は断層が走っている地域がたくさんあるはずです。よく言われるような「この地域は安心」ということは、決してないのです。

 日本では1970年代から東海地震の危機が言われ始め、78年に大規模地震対策特別措置法(大震法)が策定されました。そして「東海地震は予知できる」と言ってきたのですが、阪神大震災も東日本大震災も予知できなかった。日本地震学会では予知という名称を取り下げることも議論されました。

 一方、火山の方も2014年の御岳山噴火で大失敗をしました。噴火警報レベルを引き上げなかったために、山頂に登山者がたくさんいて、人的被害を生んでしまったのです。火山の方ではまだ「予知を取り下げる」との議論は聞こえてきませんが。

 また、縦割り行政の弊害も良くない。火山は気象庁、地震は国土地理院、つまり国土交通省が監督官庁で、予知連も別々にあります。2000年の三宅島噴火の際には、これらが別々のコメントを出し、混乱しました。

川内原発の再稼働時に
異を唱えた日本火山学会

――愛媛の伊方原発、そして鹿児島の川内原発など、中央構造線の近くに立地する原発を危ぶむ声もあります。
 実際、熊本地震は東方や南西にまで広がっていますから、もっと真剣に議論すべきです。火山、地震に関することは、とにかく分からないことが多い。日本全国に「絶対安全」な地域がない以上、原発や核廃棄物処理施設を巡っては考えを改めなければならないと思っています。

 川内原発の再稼働時には、九州電力が「カルデラ噴火のような巨大噴火の可能性は十分に小さい」と評価し、原子力規制委員会もそれを認めました。しかし、われわれ火山学者からすれば、そんなことを断言できるなんてあり得ない。日本火山学会も「疑問がある」と声明を出しました。

 カルデラ噴火とは、東京ドーム10万杯分以上もの火山灰や噴石が出る、破局的噴火のことです。阿蘇山だけで過去に4回、カルデラ噴火を起こし、火砕流が瀬戸内海を超えて中国地方にまで流れて行ったことも分かっています。ちなみに、日本で最後にカルデラ噴火を起こしたのは、鹿児島県の鬼界カルデラで、約7300年前のことです。日本では過去10万年間に12回、カルデラ噴火が起きました。単純に割り算すれば、約8000年に1回程度は起こる計算です。もちろん、そんな単純な周期ではないはずですが、起きうるという事実は厳粛に受け止めるべきです。

 そして、通常の噴火なら山体膨張(マグマの蓄積や上昇によって、山が膨らむこと)などの前兆現象が起こることが多いですが、カルデラ噴火については古文書も残っていない遥か昔の出来事ですから、どんな前兆があるのかも、まったく分かりません。「起きた」という事実は分かるものの、それ以上は研究のしようもない噴火なのです。

――避難計画もお粗末だと言われています。

 川内原発では事故が起きた際、新幹線や高速道路を使って避難する、ということも検討されたようですが、熊本地震では両方とも止まってしまいました。噴火の場合でも、火山灰はわずか数ミリ積もっただけで停電を引き起こしますし、空港の滑走路も使用不能になり、道路の白線も見えなくなります。およそ避難に役立つとは思えません。

 また、火山灰は電力供給システムに甚大な被害を出しますから、原子炉を冷やすのに支障が出る可能性もあります。津波が来ずとも、福島の原発事故のようなことが起こりうるのです。

 日本が世界有数の地震・火山国であるからといって、一般市民が過度に心配する必要はありません。こうした活動の周期は人間の寿命よりもずっと長いからです。できる備えはするべきですが、それ以上の心配をしたら心穏やかでは暮らせません。

 ただし、原発などは話が別です。高レベル核廃棄物は放射能レベルが下がるまで10万年ものあいだ、隔離しなければなりません。そんな長い期間、安全だと言い切れる場所などない。このことをしっかりと認識すべきです。
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