[2020_03_27_06]高浜町元助役と「共犯」のモンスターは関電社内にいた 1億授受の豊松氏、仰天の厚遇(週刊金曜日2020年3月27日)
 
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高浜町元助役と「共犯」のモンスターは関電社内にいた 1億授受の豊松氏、仰天の厚遇

「経営が大変ですから役員報酬をカットしました」と報道させて電気代を値上げ。その陰で役員たちには退職後にカット分を補填してやる。顧客を愚弄する茶番。
 関西電力は、福島第一原発(東京電力)の事故ですべての原発が止まった1年後の2012年3月から赤字になった。社員の基本給や賞与のほか、役員報酬の削減を決めたが役員は19年まで最大7割を削られた。この間二度、電気代を上げた。
 高浜原発のお膝元、福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(故人)から巨額の金品を関電幹部らが受けていた問題を調査していた第三者委員会(但木敬一委員長)は3月14日、大阪市内で最終報告を公表した。報告書によれば、1億円を超える金品を受けた豊松秀己元副社長と鈴木聡元常務など幹部ら75人が計約3億6000万円の金品を受けた。さらに関電は元役員18人に計2億6000万円の削減分を補填していた。目立つのが豊松元副社長だ。退職後、「エグゼクティブフェロー」として毎月490万円が払われ、うち90万円がカット分の補填だった。社内向けには「役員も大変だ、お前たちも我慢せよ」。外向けには電気代を払う顧客向けのポーズだった。
 豊松氏は森山元助役から受けた巨額の金品を申告せず金沢国税局に追徴課税され修正申告した。その補填も月30万円だ。絶句するしかない「厚遇」に関電は「苦しい時期に頑張ってくれた」と説明。 これには「引退後に税金を補填するなんて私の会社(住友電気工業)ならあり得ない」と、関西経済連合会の松本正義会長までがあきれてみせた。

【巧みな受注工作の実態】

 金品授受は森山氏が1987年に助役を退任した後からだが、極端に増えたのが2011年3月の福島第一原発事故以後。再稼働を妨害する力すら持つ森山氏を腫れ物に触るように扱ってきた関電は、森山氏が役員などを務める吉田開発(高浜町)、塩浜工業(福井県敦賀市)などへ情報提供し、入札を形骸化させて原発関連工事を受注させていた。但木委員長は「競争なら価格は安くなったかもしれない。大きな不正、コンプライアンス違反だ」と話した。委員会は「森山氏の会社へ関電が工事発注したのは金品提供への見返り」と認定したが、「時効も多く、森山さんが亡くなっていて難しい」などと刑事告発は見送った。
 昨年秋、河合弘之弁護士ら市民有志が幹部12人を会社法上の贈収賄、特別背任罪などで大阪地検に告発した。但木委員長は収賄について「昇進祝いなどで金品を与えていて一つ一つの工事と結び付けにくい」と明かした。森山氏は関電幹部を日常的に「金品漬け」にし「言わずもがな」で工事などを受注させる。個々の金品授与と工事発注を巧みに結びつかせない。
 筆者は元検事総長の但木氏に「仮に彼らが特別背任罪で訴追されたとして『森山氏の会社に対し、高い受注額で請け負わせたとしても、大きな利益が上がる再稼働のためだった』と主張できますか?」と尋ねた。但木氏は「それも考えました」と前置きし「そこまで長期的に考えたのか、など難しいが論理的にはあり得る」などと語った。
 但木氏は「助役時代から関電の弱みを握った森山氏がモンスターとなり、これが事件の発端になった。(幹部らは)金品を受け取ることで共犯者になり抜けられなくなった」などと表現した。森山氏を恐れながらも再稼働のため、地元対策に利用した関電幹部。11年秋、森山氏から1000万円を受けた豊松氏は間接的に28億円の大工事を塩浜工業に受注させていた。
 第三者委員会が4時間、それを受けた関電が2時間という記者会見で「組織の体質などより豊松氏ら個人の問題では」などと鋭い質問をしていた総合情報誌『FACTA』の宮嶋巌発行人は「元凶は豊松元副社長で、岩根さん(この日に社長を退任し森本孝氏にバトンタッチした岩根茂樹氏)は引っ張り込まれただけ」と話していた。モンスターは関電の社内にいたのだ。

(粟野仁雄・ジャーナリスト、2020年3月27日号)
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