【記事70500】詳報 東電刑事裁判 「原発事故の真相は」 第13回公判(NHK2018年5月30日)
 
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詳報 東電刑事裁判 「原発事故の真相は」 第13回公判

福島沖 地震の可能性「ほかの専門家も同意」歴史地震学者

 福島第一原発の事故をめぐり、東京電力の旧経営陣3人が強制的に起訴された裁判で、古い文献を調べている学者が、東日本の沖合では過去に繰り返し津波を伴う地震が起きていたと説明しました。国の機関は、この学者の見解などをもとに、事故の9年前に福島県沖でも地震が起きる可能性を示していて、学者は、ほかの専門家も同意していたと証言しました。
 原発事故の9年前に示された巨大地震の可能性には、明確な根拠があった。法廷で「歴史地震学」の第一人者がその根拠を詳細に語りました。
 13回目の審理となったこの日、証言に立ったのは、元東京大学地震研究所准教授の都司嘉宣氏です。
 専門は「歴史地震学」。
 機械による地震の測定が始まった明治より前の地震や津波について、古文書や石碑の記述をもとに調べています。そして被害が出たとされる場所の標高を測るといった方法で当時の津波の高さなどを推測しています。
 都司氏は、前回と前々回の法廷で証言した地震学の第一人者の島崎邦彦氏とともに、政府の地震調査研究推進本部の部会のメンバーとして平成14年に公表された「長期評価」の取りまとめに関わりました。
 この「長期評価」では、福島県沖を含む三陸沖から房総沖にかけての領域で30年以内に20%の確率でマグニチュード8クラスの巨大地震が発生するとされました。
その大きな根拠は、過去400年の間に起きた3つの地震でした。1896年の「明治三陸地震」、1677年の「延宝房総沖地震」、そして1611年の「慶長三陸地震」です。
 都司氏は、災害の状況がわかる歴史的な資料が過去数百年分にわたって残されている国は限られているとした上で、将来の地震に備えるには、過去の地震の規模や頻度を調べることが重要だと説明しました。そして、3つの地震について研究した内容を詳細に説明しました。
 「明治三陸地震」は、日本海溝沿いの三陸沖が震源とされます。都司氏は「揺れから30分が経って三陸のあちこちに平均で20メートル前後、最大で38メートルの津波が押し寄せ2万1000人が亡くなった。東日本大震災に匹敵するか、それ以上の津波だった」と説明しました。
 江戸時代の1677年に起きた「延宝房総沖地震」は、日本海溝沿いの房総沖が震源とされます。都司氏は「江戸や銚子などでは小さく揺れたが、被害がなかったという記録もある。しかし、岩沼やいわきだけではなく、八丈島や名古屋にまで津波が来たという記録も残っている」と述べ、大きな津波を伴う地震と考えられるという見解を示しました。
 さらにさかのぼって、1611年に起きた「慶長三陸地震」も日本海溝沿いの三陸沖が震源とされます。都司氏は「仙台藩の記録から3000人の死者が出た大きな津波があったと言える。当時の代官が書いた『宮古由来記』という記録に朝8時から10時くらいに最初の揺れがあり、その後も揺れたほか、午後2時ごろに津波が来たという記載がある」と説明しました。
ここで、同じ日本海溝沿いの領域でも福島県沖では津波を伴う地震が起きていないのか、確認する質問が出ました。
 都司氏は「記録上は福島県沖では起きていない。しかし、400年間でたまたまこの3か所で起こったのであり、この3か所は同じ領域で、北から南まで揺れの特徴は同じだ」と答えました。
 その上で、「福島沖で起きていないのは歴史の偶然だろうと判断した。地震学的にはこの区間は1つの場所として考えた」と証言しました。
 平成14年の「長期評価」は、福島県沖を含む日本海溝沿いを1つの領域ととらえ、「400年間で3回」という頻度にもとづいて、「30年以内に20%の確率で巨大地震が発生する」という内容になりました。
 都司氏によると、部会の中でも当初は震源の位置について疑問が投げかけられましたが、文献の内容などを詳しく説明すると、同意が得られたということです。
 この日の法廷では、最後に、「福島県沖ではどのくらいの津波を考えるべきだったか」という質問が出ました。都司氏は、過去の地震の研究結果から想定される高さとして、「15メートルくらいの津波を上限として考えるべきだった」と答えました。 今回も、事故の9年前に公表された「長期評価」が東京電力にとって対策を迫られるような信頼性の高いものだったかどうかが焦点となりました。
 被告側の元会長ら3人は「『長期評価』は専門家の間で異論があり、津波は予測できなかった」として無罪を主張しています。
 今回も、事故の9年前に公表された「長期評価」が東京電力にとって対策を迫られるような信頼性の高いものだったかどうかが焦点となりました。
 被告側の元会長ら3人は「『長期評価』は専門家の間で異論があり、津波は予測できなかった」として無罪を主張しています。


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