[2019_03_20_07]田原総一朗「廃炉進まぬのに無責任に原発増設計画進める安倍政権」〈週刊朝日〉(アエラ2019年3月20日)
 
参照元
田原総一朗「廃炉進まぬのに無責任に原発増設計画進める安倍政権」〈週刊朝日〉

 ジャーナリストの田原総一朗氏は、昨夏閣議決定したエネルギー基本計画を「無責任な計画」という。

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 3月11日は東京電力福島第一原発の深刻な事故から8年であった。
 国内で原子力発電所を建設してきた東芝、三菱重工業、日立製作所などは、国内での新設の展望がないと捉えて、東芝は米国、三菱重工はトルコで原発を建設する計画を立てた。だが、いずれも不可能ということになった。そして、日立が最後の望みを懸けていた英国も、1月に可能性なし、となった。海外での建設展望もなくなったのである。
 東電の原発事故ののち、「原発ゼロ」を訴える声が大きくなり、現在では国民の半分以上が原発はなくすべきだと求めていて、小泉純一郎元首相は、さまざまなメディアで「原発ゼロ」を強調している。
 実は小泉氏は、首相時代は原発推進論者であった。その小泉氏が「原発ゼロ」に転じたのは、2013年にフィンランドに原発の実情を視察に行ったときからである。
 フィンランドは原発が稼働していて、使用済みの核燃料を処理するために、オンカロという設備が設けられている。
 オンカロとは、安定している地盤を約500メートル掘って、そこに使用済みの核燃料を運び込むことができる設備だ。ただし、まだ実際には使用されていない。
 小泉氏はオンカロの関係者に、「オンカロに使用済みの核燃料を入れて、それが無害化するのにどのくらいかかるのか」と問うた。
 すると、無害化するのに10万年、という答えが返ってきた。
 それを聞いて、小泉氏は原発をなくすべきだ、と決断したのである。
 ところが、日本にはそのオンカロもなく、オンカロをつくる計画も展望もないのである。
 私は歴代経産相に確かめたのだが、いずれも、その点では返事に窮した。
 そして、使用済み核燃料はすでに1万8千トンもたまっているのだ。それでいて、政府は原発を重要なエネルギーとして再稼働を進めている。
 しかも、18年7月に政府が閣議決定したエネルギー基本計画によれば、何と30年に原発が30基ほど稼働することになっている。
 たとえ、現在停止している原発をすべて再稼働させたとしても、20基程度にしかならないはずである。
 ということは、原発を10基近く新設するつもりなのか。
 東芝、三菱重工、日立の3社は、国内で新設の見込みがない、とあきらめて海外での建設を計画していたのである。
 実は自民党の少なくない幹部たちに、原発新設の可能性はあるのか、と問うた。誰もが、そんな可能性はない、と答えた。
 それなのに、なぜ、30年に30基稼働となるのか。いってみれば、無責任な計画なのである。
 それに、現在進められている、事故を起こした東電原発の廃炉作業が、実は大問題なのである。
 東電は廃炉工程を進めて、溶融核燃料(デブリ)を取り出すことにしている。だが、取り出して、どうしようとしているのか。
 東電はデブリを取り出して、福島から撤去する、と地元の人々に約束しているのである。
 だが、東電はデブリを取り出して、一体どこに持っていくつもりなのか。危険極まりないデブリなど、受け入れる地域は、少なくとも国内にはまったくないはずである。
 そんなことは、東電は百もわかっているはずなのだが。

※週刊朝日  2019年3月29日号

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