[2021_07_15_05]<原発ニュースウオッチ>「原発リプレース推進」は政府の次期基本計画に盛り込まれるのか(毎日新聞2021年7月15日)
 
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<原発ニュースウオッチ>「原発リプレース推進」は政府の次期基本計画に盛り込まれるのか

 政府が今夏にも策定する次期エネルギー基本計画では、原発のリプレース(建て替え)の推進を盛り込むかどうかに注目が集まっている。将来も原子力に頼り続けるのか、脱原発依存の道を進むのか、その真意が表れるからだ。そもそもリプレースとは何か。この言葉をキーワードに、現在の原発建設をめぐる情勢を取材した。

 ◇別の場所で新設もリプレース?

 リプレースは廃炉にした原発のあった場所に建て替えることを連想させる。しかし、原発敷地内の別の場所かその周辺に新設する意味でも使われることが多かった。そのはしりと言えるのが、中部電力が2008年、浜岡原発1、2号機を廃止し、代わりに同6号機を敷地内の別の場所に新設するという「リプレース計画」の方針決定だった。
 県内では関西電力が10年、国内最古の加圧水型炉である美浜原発1号機の代わりとなる原発を敷地内かその周辺に建てる検討を始め、実際に現地調査も開始し、これをリプレースと呼んでいる。また、日本原子力発電は敦賀原発1、2号機から離れた敷地での敦賀原発3、4号機増設を目指しており、敦賀市の渕上隆信市長はこれを念頭に次期エネルギー計画へ「リプレース」の盛り込みを要望している。
 こうしたリプレースを含め原発の新増設計画に大きな影響を与えたのは11年3月の東京電力福島第1原発事故だった。12年3月に延期されていた敦賀原発3号機の本体着工はまったく見通しが立たなくなった。関電も代替機に向けた調査を中断した。中部電力は全原発を停止し、6号機の計画を凍結している。
 海外でも日本の原発メーカーは逆風にさらされている。米国発祥の大手原子炉メーカー・ウェスチングハウス社を買収していた東芝は、米国の原発事業で失敗し大きな損失を被り、本体の存続さえ危ぶまれた時期があった。日立製作所も英国の原発新設事業で失敗して撤退。三菱重工業はトルコでの原発輸出で挫折している。

 ◇福島事故で建設費2倍以上に

 この原発メーカー御三家の「失敗」に共通するのは、福島事故を受けた安全対策のために建設費が当初の見積りの2倍以上に高騰するなどして、事業としての成立が難しくなったことだ。また、自国フランスなど3国で欧州加圧水型炉(EPR)の建設に関わるアレバ社は工費が3倍増となるなどの事態に見舞われた。仏政府の増資などで債務超過からは脱出したが、経営危機は続いているという。
 敦賀原発3、4号機の建設費は福島事故前に2基で7700億円とされた。しかし、福島事故を踏まえた新規制基準への対応で、大幅なコスト増も考えられる。こうした建設費高騰に加え、風力発電や太陽光発電など再生可能エネルギーのコストの大幅な低下も見逃せない。経済産業省が12日に明らかにした、30年時点の発電コストの試算では最も安い電源が原発から事業用太陽光に代わった。原発は前回15年の試算より1割程度上昇し、1キロワット時あたり「11円台後半以上」となり、事業用太陽光の「8円台前半〜11円台後半」よりも高くなった。

 ◇コスト高でも結局、消費者が負担?

 福島事故後、福井県内では商業炉5基が廃炉となる中、原発のリプレースや新増設を期待する声が高まっている。しかし、長沢啓行・大阪府立大名誉教授(生産管理システム)は「米国で来年完成が見込まれている新型炉の原発は1基当たり約1兆6000億円かかった。原発はコスト安のはずが、今や政府の援助なしには建てられない。結局、電力料金を通じて消費者に負担を強いることになるが、それが許されるだろうか」と疑問を呈している。【大島秀利】

◇◆原発のリプレースや新増設を巡る動き◆

2002年12月  敦賀原発3、4号機の増設計画を福井県と敦賀市が事前了解
2008年12月  中部電力が浜岡原発の1、2号機を廃炉にし、6号機新設の方針
2010年12月  関西電力が美浜原発1号機廃炉後の後継機の新設用地を調査
2011年3月  東京電力福島第1原発事故で3基が炉心溶融事故
2012年1月  日本原電が敦賀原発3号機の本体着工予定を3月に控え、
       「非常に厳しい状況」
2012年3月  関電が美浜原発周辺での後継機調査の資機材を引き上げ
2015年4月  敦賀原発1号機、美浜原発1、2号機が運転終了・廃炉
2016年2月  中電が長期経営指針で浜岡6号機新設を記載せず
2021年夏?  国のエネルギー基本計画改定
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