[2020_04_25_07]【政府の処理水説明】結論ありき許されない(4月25日)(福島民報社2020年4月25日)
 
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【政府の処理水説明】結論ありき許されない(4月25日)

 東京電力福島第一原発事故に伴う放射性物質トリチウムを含む処理水の処分を巡り、政府は県内の自治体、議会、業界団体への説明会や意見聴取を重ねてきた。噴出したのは新たな風評への強い懸念と風評対策を具体的に示さない政府への不満だ。国民的議論が不十分との指摘もある。こうした世論を置き去りにしたまま放出の方法や時期を決めるのは県民無視と言えよう。政府は「説明した」「意見を聞いた」ことを口実に、結論を急いではならない。
 政府小委員会は「大気への水蒸気放出と海洋放出が現実的」と政府に提言した。これを受けて、沿岸部や避難区域が設定された市町村議会への政府の説明会が三月十日の広野町議会をトップに始まった。四月二十四日までに十四市町村で開かれた。政府に対して万全の対策を求める声が多数を占めた。
 浪江町議会は説明を受けた後の三月定例会で海洋放出に反対する決議を可決した。風評拡大と町の主要産業である漁業への影響を理由に挙げた。操業の全面再開を目指しているさなか、町民の危機感は強く、議会の判断は重い。
 放出への懸念は海から離れた会津地方にも広がる。湯川村議会は三月定例会で処理水の適切な取り扱いを政府に求める意見書を可決した。
 政府が自治体や経済・産業団体の長らを対象に四月に開いた二度の意見聴取の会合では、農林水産業の団体から反対が相次いだ。政府と東電が最後まで責任を持つよう求める意見も出た。福島民報社が三月末から四月初旬にかけて全五十九市町村長を対象に行った調査では、処分方法に関する住民理解が不十分との回答が四十五市町村(76・2%)に上っている。
 政府は、第一原発敷地内で処理水を保管するタンクの容量が二〇二二(令和四)年夏ごろに満杯になり、処分方針決定後の許認可に二年程度かかる−との見通しを示す。梶山弘志経済産業相は「いつまでも方針を決めずに先送りはできない」と述べているが、現状のまま放出を認める空気は県内で希薄であることを認識すべきだ。
 原発事故によって浜通りを中心に産業が大打撃を受け、仕事を失った県民も多い。処理水放出が被害の上乗せになる事態は避けなければならない。風評被害を再び起こさない対策は不可欠だ。
 政府は県外でも意見を聞く会を開く予定だが、それで「国民の理解を得た」とするのは早計だ。何度も言う。「福島から」「福島だけ」の放出は許されない。(鞍田炎)
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