[2006_03_25_01]志賀原発差し止め判決 「社会的意味大きい」「大変厳しい結果だ」 中電「M8.5耐えられる」 識者の見方 基準見直しに影響(中日新聞2006年3月25日)
 
 原発の運転差し止めを命じる「歴史的な判決」が言い渡された。金沢地裁の北陸電力志賀原発2号機(石川県志賀町)の差し止め訴訟。静岡県内では中部電力浜岡原発(御前崎市)の運転差し止めを求める市民グループが”朗報”に勢いづく一方、中電は「大変厳しい結果」と厳粛に受け止めた。国の安全審査に一石を投じた判決の衝撃は、浜岡原発の差し止め訴訟にも影響を与えそうだ。

 浜岡原発の運転差し止めを求めて静岡地裁で争っている市民グループは「訴訟の参考にしたい」と意気込む。この訴訟でも、焦点は耐震性。原告側は裁判で「浜岡原発は耐震安全性に問題があり、設備の老朽化も進んでいるため極めて危険」などと主張してきた。
 原告団の白鳥良香共同代表は「耐震設計の計算方法など、耐震性に関する意見展開は志賀原発の訴訟とほぼ同じ」と説明。「志賀原発は運転開始間もない最新施設。経年劣化でひび割れや破損が相次ぐ浜岡原発1−4号機は、なおさら危険と言える」と話す。
 原告弁護団の河合弘之弁護士も「浜岡原発では耐震強度の予想を大幅に上回る地震動が起きる可能性がある。耐震性を理由にした判決は全国初。社会的意味も大きい」とする。原告団は今後、志賀原発訴訟の原告団と連絡をとり、判決の勉強会を開くなどして訴訟の参考にするという。
 中電側は「必要な耐震性を確保している」と、請求棄却を求め全国的に反論している。

 識者の味方 基準見直しに影響

 東海地震による浜岡原発の危険性を訴える地震予知連絡会前会長の茂木清夫東大名誉教授は「この判決で、全国の原発でいろいろな耐震性に関する意見が出るだろう」と期待。「国は浜岡も安全だというが、そうは思わない。地震予測は確立していない。この判決を受けて、国や電力会社は学者が指摘する可能性に対し、もっと真摯(しんし)な姿勢で耳を傾けるべきだ」と注文した。
 浜岡原発5号機は、志賀原発2号機と同じ「改良型沸騰水型原子炉」だが、判決はこの構造自体の危険性について「(構造に起因した事故発生の具体的可能性について)原告の立証は不十分」とし、判決理由に含めていない。技術評論家の桜井淳(きよし)氏は「判決で一般の人はすぐに原発は危険と思うかも知れないが、現在の耐震技術は三次元的な揺れも実験しており、想定される地震に大きな余裕を持っている」と明かす。浜岡原発の耐震性も「考えられる対策は取っている」と一定の評価をする。
 一方、判決の浜岡原発への影響は「東海地震が現実的な問題となっているだけに、影響は全国でも最も大きくなるだろう」と推測。「国は耐震基準の見直し議論を始めているが、判決を真剣に受け止めなければならない」と警鐘を鳴らした。

 中電「M8.5耐えられる」

 浜岡原発の耐震性について中部電力は、予想される東海地震を上回るマグニチュード(M)8.4の安政東海地震(1854年)、さらに限界的なM8.5にも耐えられるように設計され「耐震安全性を確認している」(同社)と強調。安全上重要な構造物を固定し、異常時にはさまざまな監視装置で原子炉を自動停止する仕組みも整備している、と説明する。
 浜岡原発の原子炉建屋を支える基礎岩盤「相良層」が、志賀原発の花こう岩と比較すると柔らかい、との脱原発グループの指摘に対し、中電は「相良層は柔岩に分類されるが、各種の岩石・岩盤試験の結果、十分な強度がある」と反論。建設前のボーリング調査で、敷地内に活断層がないことも確認済みという。
 また、中電は現在、耐震上の余裕を持たせる補強工事中。浜岡原発は岩盤上の地震の揺れ(目標地震動)の強さを示す想定加速度が国際最大級の600ガルに耐えられるように設計されているが、さらに1000ガルまで引き上げる。地盤へのセメント注入、屋外配管地中化、排気筒に支持鉄塔をつけるなどで強度をアップさせる。3,4,5号機で2007年度末までに完了させ、1、2号機は10年度までに終える予定。
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