[2021_04_08_04]「いくら薄めても消費者は離れる」 海洋放出に渦巻く漁師らの不安(毎日新聞2021年4月8日)
 
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「いくら薄めても消費者は離れる」 海洋放出に渦巻く漁師らの不安

 東京電力福島第1原発の処理水を巡り、菅義偉首相が全漁連の岸宏会長らと会談したことを受け、宮城県の村井嘉浩知事は7日、報道陣に対し「総理の口から直接漁業関係者に話があったということは、重く受け止めなければならない」と述べた。
 会談には県漁協の寺沢春彦組合長も同席。村井知事は梶山弘志経済産業相から電話で報告を受けた際に、「(処理水放出が)安全であったとしても、漁業関係者は不安に思っている。安全性についてしっかり説明してもらいたいと伝えた」と述べた。
 知事はまた、「大量放出が決定された場合、風評被害などの損害を被る人へのケアが重要」と指摘し、「漁業関係者の意見をとりまとめて県として政府にぶつけていくことが大事だ」と語った。
 一方、女川町の60代の男性漁師は「隣県の漁業者として、海洋放出は断固反対」と語気を強める。東京電力福島第1原発事故後、三陸沿岸でもヒラメやタラなどから放射性セシウムを検出し、風評被害でホヤの韓国への輸出は止まったままだ。男性は「売れ残ったホヤの廃棄処分をせざるをえなかったこともある。そんなに安全というなら、船で東京湾に運んで放出すればいい」と批判した。
 南三陸町でワカメやホヤを養殖する50代の男性漁師も「海はつながっているから風評被害は否めない」と海洋放出に懸念を示し、「汚染水から完全に放射性物質を取り除けないのだから、太平洋に流し続けて長期的にどういう影響があるか不安だ。便利な生活のために人間が制御できない原発を動かし続けることがいいか、考えるべきだ」と問題提起した。

 ◇懸念の声は茨城でも

 「漁業者にとっては死活問題だ」――。海をなりわいの場とする茨城県内の漁業関係者たちからは、処理水が海洋放出された場合の風評被害を懸念する声が上がった。
 海洋放出を巡って県内では、これまでに大井川和彦知事が原発事故後に県産の農水産物が市場で受け入れを拒否されたり、輸出が規制されたりしてきたことを指摘。一方で、「納得のいく説明と風評被害対策を行ってもらえれば(海洋放出を)容認することも視野に入る」と一定の理解を示しており、7日は特にコメントを出さなかった。
 この日の政府の方針を受け、久慈町漁業協同組合(日立市)の木村勲組合長(76)は「いくら薄めるといっても消費者は買わずに魚離れしてしまう」と危惧する。新型コロナウイルスの影響で飲食店向けの売り上げが振るわないことも指摘し、「風評被害が起きないようなよっぽど良い話でもない限り、全面反対だ」と語気を強めた。
 県内の水産物を販売する那珂湊おさかな市場(ひたちなか市)の事務局担当者は「風評被害により、東日本大震災の後は人出が戻るまで3年かかった。国は安全だという根拠を示し、国民に丁寧に説明するべきだ」と話す。さらに、「コロナ禍で経済状況が苦しい中、海洋放出が決定されればダメージは2倍になる。コロナが落ち着いてから決定してもらえないか」と訴えた。
 福島県と隣接する北茨城市の大津漁業協同組合の担当者は「(この日菅義偉首相を訪ねた)全国漁業協同組合連合会に、各地域の漁協の総意を提出してもらっている」とした。【藤田花、深津誠、韮澤琴音、小林杏花、森永亨】
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