[2013_08_01_01]女川原子力発電所 及び 東海第二発電所 東北地方太平洋沖地震及び津波に対する 対応状況について(報告)(原子力安全推進協会2013年8月1日)
 
参照元
女川原子力発電所 及び 東海第二発電所 東北地方太平洋沖地震及び津波に対する 対応状況について(報告)

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女川原子力発電所 及び 東海第二発電所
東北地方太平洋沖地震及び津波に対する
対応状況について(報告)

平成 25 年 8 月
原子力安全推進協会

1 はじめに

 東北太平洋沖地震及び津波に伴う東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故について、原子力安全推進協会の前身である日本原子力技術協会が、電力会社及びプラントメーカーの協力の基、平成23年10月に、教訓をまとめ報告書を作成して公表した。この報告書では、事故防止及び影響の緩和のための対策として、主としてハード面での対策80項目をまとめ、更に深層防護の観点から重要と位置づけた対策23項目の実施を強く提言している。これらの対策は、各社の設備や状況に応じて導入されており、概ね全ての項目が導入済みもしくは導入検討中となっている。
 また、地震及び津波の影響を受けながらも、原子力災害の発生を防止し、安全にプラントを停止できた発電所が、東京電力(株)福島第二原子力発電所、東北電力(株)女川原子力発電所、日本原子力発電(株)東海第二発電所である。これらの発電所のうち、比較的被害が大きかった福島第二原子力発電所での震災対応について、東京電力(株)のご協力を頂き、ヒューマンファクター及び組織の観点から分析し、主としてソフト面での教訓を抽出して平成24年12月に報告書としてまとめ、公表を行った。
 これらの対策は、導入すれば完了というものではなく、今後も訓練等を通して改善が図られていくべきものである。
 上記2つの報告書は、原子力安全推進協会のホームページで閲覧可能であり、本報告書を作成する契機となったものであることから、ご一読して頂くことをお願いしたい。
 今回、残りの2発電所、女川原子力発電所及び東海第二発電所での震災対応について、記録として残すことを目的として、原子力安全推進協会内に検討チームを立上げ、東北電力(株)及び日本原子力発電(株)のご協力を得て、それぞれの発電所での震災対応について整理し、教訓のまとめを行った。
 女川原子力発電所では、建設時に敷地高さを決定する際に、保守的に想定津波高さをはるかに超える敷地高さが確保されたことから、プラント本体での津波被害がほとんど発生せず事故を収束することができた。また、東海第二では、津波対策として水密化工事を実施していたところであり、完成していなかった領域で若干の被害が出たもののすべての海水ポンプが機能喪失する事態が回避されたことで、事故の収束に至っている。これらの発電所でこれらの手立てが行われ、なぜ東京電力では行われなかったのか、組織のあり方の検討が行なわれることを望むところである。
 今回、両発電所での事故時の対応状況とそこから教訓を抽出して報告書としてまとめたが、今後、各社が安全性向上に取組んでいく際に参考として活用されることを望むものである。

(中略)

被害状況
  地震の被害を受けた設備のうち、電源および原子炉の冷却に関係する設備であり、今般の地震による設備被害の特徴を端的に示している設備について被害状況を以下に示す。

 a.高圧電源盤火災(1号機)
   1号機のタービン建屋地下1階において、3月11日15時30分、発煙を発見したことから、消火活動を行い、3月11日22時55分に消火を確認するとともに、高圧電源盤からの発煙であったことが確認された。
   原因は、高圧電源盤内の吊り下げ設置型しゃ断器※1が、地震による振動で大きく揺れたため、当該しゃ断器の断路部が破損し、高圧電源盤内で周囲の構造物と接触して短絡等が生じ、これに伴い発生したアーク放電の熱により、高圧電源盤内のケーブルの絶縁被覆が溶け、発煙したものと推定された。

 b.非常用ディーゼル発電機(A)機能喪失(1号機)
   4月1日、女川原子力発電所1号機非常用ディーゼル発電機(A)の定期試験を実施したところ、所内電源系へ接続するための同期検定器※2が動作せず、所内電源系への接続ができなかった。
   このため、同期検定回路の点検を実施していたところ、非常用ディーゼル発電機(A)が起動していない状態で、非常用ディーゼル発電機(A)のしゃ断器が自動投入される事象が発生したことから、4月5日より、非常用ディーゼル発電機(A)の点検を開始した。点検の結果、非常用ディーゼル発電機の電圧調整などに使用している回路の損傷が確認された。
   原因は、高圧電源盤の火災による影響により、同期検定器の回路を接続しているケーブルが地絡しており、同期検定器のスイッチを入れた際に地絡電流が流れヒューズが切れたため、同期検定器が動作しなかったものと推定した。
   また、同高圧電源盤の火災による影響により、同期検定器の回路を接続しているケーブルの絶縁被覆が溶け、別の絶縁被覆が溶けたケーブルと接触し、電気が流れる状態となっていた。このため、同期検定器の点検に伴い回路を高圧電源盤から切り離す作業の実施中に、非常用ディーゼル発電機(A)のしゃ断器が自動投入され、所内電源系から非常用ディーゼル発電機(A)の電圧調整などに使用している回路に過電圧がかかり、損傷したものと推定された。
   同期検定回路の切れていることが確認されたヒューズと損傷が確認された電圧調整などに使用している回路を取り替え、5月18日、動作確認を実施し、非常用ディーゼル発電機(A)が使用可能な状態となった。

 c.使用済燃料貯蔵プール冷却浄化系停止(全号機)
   地震により、3月11日14時47分に使用済燃料貯蔵プール冷却浄化系が停止したが、設備に異常のないことを確認し再起動した。停止期間中、使用済燃料貯蔵プールの温度に有意な上昇は認められなかった。
   原因は、地震の揺れに伴う「スキマサージタンクレベル低低」用レベルスイッチの動作、若しくは地震の揺れに伴う使用済燃料貯蔵プール水位の一時的な低下により、使用済燃料貯蔵プール冷却浄化系のポンプの吸込み圧力が低下したことによるものと考えられる。

 d.起動用変圧器停止(1号機)
   電源の状態は、松島幹線2号線からの外部電源を起動用変圧器を介して所内に受電していたが、3月11日14時55分、起動用変圧器が停止したため、所内電源がなくなり、設計どおり非常用ディーゼル発電機(A)および(B)による非常用母線への受電が行われた。
   原因は、高圧電源盤のうち常用メタクラ6−1Aの内部で地絡・短絡が発生(その後、火災に至る)し、起動用変圧器の過電流継電器が動作したためである。その後、外観目視および絶縁抵抗測定結果より起動用変圧器に異常のないことを確認のうえ、3月12日2時05分に起動用変圧器を復旧している。起動用変圧器の復旧後、常用メタクラ6−1A以外の常用母線について順次復電した。

  ※1:電気回路の接続や、過電流が流れた場合などに自動で電気回路を切り離す機器。
  ※2:定期試験時など手動でディーゼル発電機を所内電源系に接続する際に、接続のショックを和らげるため、電気の性質(電圧,周波数)が同じくらいかを確認する機器。なお、外部電源喪失時は、所内電源系に電気がないため、同期検定器を使用せずに、非常用ディーゼル発電機を自動で接続する。

(中略)

5.2震災対応の状況
 5.2.1地震発生直後
   地震発生後直ちに、発電所及び本店で対策本部が立ち上げられて対応が行われた。本店の非常災害対策本部は全社規模であり、原子力発電所との窓口は原子力部が原子力班として対応した。本店からは、資機材や食料等の手配や復旧のための手続き等で支援が行われた。本店の対策本部では、東北地方全体の設備の被害状況の把握及び復旧そのための資機材等の手配、広報活動及びお客様対応等で原子力だけに対応する状況ではなかった。
   1、2号機の原子炉主任技術者は、地震発生時、2号機の起動操作の監督のために1、2号機の中央制御室に居た。地震によるプラント停止を受けて、1号機の原子炉の冷却操作を指導していたが、その後1号機の火災及び2号機の浸水等が発生したため、これらの対応が落ち着くまで5時間近く中央制御室で運転員の指導・監督を行った。
   地震発生時には、中央制御室では天井から照明やルーバーが落下・散乱した。また、防煙垂壁の一部が破損した。このため、運転員はヘルメットを着用して操作を行った。制御盤には揺れに対して姿勢を保持できるようにてすりを設置しており、これにつかまり,なんとか監視姿勢を維持した。
   1号機では、14時46分に原子炉が地震で自動停止した。14時57分に火災報知器が発報し、運転員が現場確認に向かった。15時30分にタービン建屋地下から発煙が認められたため、15時41分に消防署に通報を行った。自衛消防隊が状況確認と消火のために現場に向かったが、発煙による視界不良により発煙箇所の特定ができなかったため、タービン建屋から作業員の退避を指示し避難が完了したことを確認して17時15分に二酸化炭素消火設備(主油タンク室,EHC(電気油圧式制御装置)制御油ユニット室,励磁機室)を起動した。念のために16時13分から発電機の水素ガスを窒素ガスに置換した。
   発煙の発生箇所はタービン建屋地下1階の高圧電源盤エリアと推定し、エアーラインマスクを着用して現場確認を行った。高圧電源盤のうち常用メタクラ6-1AのユニットNo.7とNo.8が焼損し過熱状態であることを確認し、粉末消火器7本で消火活動を行った。地震及び津波のために発電所の周辺道路が一部損壊しており、消防署員が入構できなかったため、協力企業の作業者で消防署勤務経験者が22時55分に消火を確認した。この火災は、地震の揺れにより高圧電源盤内で短絡・地絡が発生し、発生したアーク放電の熱により盤内ケーブルの被覆が溶けて発煙したものと推定される。
   3.11当時は、免震構造の事務新館は建設途中であり、緊急対策室は、事務本館内に設置されていた。緊急対策室には、保安電話、衛星電話、無線通信設備、防災FAX等の通信設備が備えられていた。また、プラントパラメータを監視できるようSPDS(原子炉安全状態監視装置)等を設置していた。事務本館は地震直後に一時的に停電したが、通信設備やSPDSはCVCF(定電圧・定周波電源)やUPS(無停電電源)等により電源が確保されていたため,特に支障はなかった。事務本館が停電していた間は、中央制御室から電話連絡でプラントのパラメータの状況を確認していた。なお,防災FAXについては発電所外のNTT回線が流されたので使用できなかった。ERSS(緊急時対策支援システム)による国へのデータ転送については、本店の停電により、一時、情報の伝達が途絶えた。一般回線と携帯電話は通じなかったため使用できなかった。東北電力の社内連絡用の発電所最寄のマイクロ波中継所では、停電時に非常用発電機が自動起動するようになっており、発電機の燃料の補給を適宜行っていたことにより通信を維持していた。
   震度6弱以上の地震発生時には自動的に非常体制発令となる決まりであり、平日の午後であったことから地震発生と同時に対策要員は対策室に集合した。対策本部の班編成は、対策本部(25名)、情報班(7名)、総務班(5名)、広報班(3名)、技術班(3名)、放射線管理班(4名)、保修班(10名)、発電管理班(3名)で構成されている。
   協力会社への人員確保の要請は、一般災害に係るマニュアルに基づき総務課長が行った。1〜3号機の原子炉が停止したことを所長から本店の原子力部長に連絡した。また、国及び自治体への連絡をFAXで行った。
   地震後は、50ガル以上又は震度5弱以上の場合に運転員及び設備担当課がパトロールを実施することとなっているが、その後津波警報が発令されたことを受け、屋外の危険箇所等を除外して非常時の連絡手段を確保した状態で被害状況の確認のパトロールを行った。パトロールの結果は、一旦中央制御室で集約してから、対策室に連絡した。
   中央制御室のパソコンやプリンタ等は、固縛していたため落下しなかった。
   中央制御室では、確認できていない配管破損が発生していることを想定して、サンプの水位やサンプポンプの発停頻度を確認していた。幸いに、配管の破損はなく、特別な対応は必要なかった。

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