[2024_01_10_07]油断を生んでいないか?地震調査委の「予測マップ」に潜むリスク 石川も熊本も「安全」じゃなかった(東京新聞2024年1月10日)
 
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油断を生んでいないか?地震調査委の「予測マップ」に潜むリスク 石川も熊本も「安全」じゃなかった

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 能登半島地震で最大震度7を観測した石川県。国の地震調査委員会の「全国地震動予測地図」では、2020年から30年間に震度6弱以上の揺れが起きる確率は県の大部分で「0.1%〜3%未満」とされていた。県はこの予測を企業誘致のPRに活用していたが、専門家は「低確率地域では逆に安全との誤解が生まれて油断を生じさせている」と指摘する。(小沢慧一、榊原智康)

 地震調査委員会 阪神・淡路大震災で地震の研究成果が国民に伝わっていなかった反省から設立した政府の特別機関「地震調査研究推進本部」の下部組織。地震学者を中心に19人で構成し、地震の発生確率などの予測をまとめる「長期評価」を検討する。委員長は平田直(なおし)・東京大名誉教授。

 ◆ホームページで企業誘致にも利用

 「30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率の分布から、石川県の地震リスクは小さいと言えます」ー。県が企業誘致をPRするホームページ(HP) では、予測地図の石川県部分を示し、安全性を強調する文言が並ぶ。県によると、10年間で25社を誘致。今回の地震で大きな被害の報告はなかった。
 16年に熊本地震が起きた熊本県、18年に北海道地震があった北海道なども同様に予測地図を企業PRに使い、地震後にHPから削除した。石川県の担当者は取材に「太平洋側に比べると確率は低く、リスクは低いと思って示していた。国の出している情報なので信頼感もあったが、HPからの削除も検討する」と話す。

 ◆文部科学省の担当者も「安全宣言ではない」

 地震調査委の事務局を務める文部科学省の担当者は「予測地図は確率の高低は示しているが、低い地域に『安全宣言』を出しているわけではない」とし、「全国どこでも地震が起きる可能性があることも同時に伝えている」と説明した。
 予測地図は、02年から地震調査委が発表し、20年版が最新。30年以内に震度6弱以上の揺れが起きる確率を色別に示したものが代表的で、複数の種類がある。震度6弱以上の確率の地図では、南海トラフ沿いや首都圏の大部分は「26%以上」とされた。

 ◆「高い予測は不可能。防災意識を偏らせる」

 名古屋大の鷺谷威(さぎや・たけし)教授(地殻変動学)は、予測地図について「確率で色分けしているのだから、全国どこでも地震が起きる可能性があると注釈を入れても低確率地域の受け手が安全宣言と捉えるのはむしろ当然」と指摘。「高い確度の予測は不可能なのに、南海トラフ沿いや首都圏など確率が高い地域にばかり注目が集まり、防災意識を偏らせる結果となっている」と話した。

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 ◆<解説>役割が揺らぐ予測地図、確率には政治的要因もある

 南海トラフ地震の発生確率が「えこひいき」されるあまり、他地域に油断が生じているー。本紙が繰り返し指摘してきた問題が、能登半島地震でも浮かんだ。地震調査委員会は、全国地震動予測地図の在り方について抜本的な見直しから逃げてはいけない。
 予測地図は地震の発生確率を一律に評価し、行政がどこの災害対策を優先すべきかを判断する材料だ。ところが、確率が低い場所でばかり地震が相次ぎ、役割自体が揺らいでいる。
 地震の発生確率が「一律」に評価されていない欠陥もはらむ。南海トラフ地震の確率「30年以内に70〜80%」だけ、特別な計算式が使われた。他の地震と同様の計算式だと「20%程度」にまで下がる。特別な計算式の採用に「科学的に問題がある」と反対した地震学者たちの声は、国の委員会で「確率を下げると予算獲得に影響する」などの意見によってかき消された。
 現在の地震学では正確な予測は不可能で、確率には政治的な要因も絡む。その実情が隠されたまま、南海トラフ沿いや首都圏の高い確率ばかりが注目され、低確率の地域に油断が生じ被害拡大につながったならば、それは「人災」である。
 地震調査委の担当者は取材に「情報をどう使うかは自治体の判断で、われわれが個別に何かを言う権限はない」と話す。情報の発信者としてそんな無責任は許されない。(小沢慧一)
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