[2024_01_23_06]なぜ能登半島地震は国の「長期予測」から外されていた? 南海トラフばかり強調の理由は「予算獲得の都合」も(デーリー新潮2024年1月23日)
 
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なぜ能登半島地震は国の「長期予測」から外されていた? 南海トラフばかり強調の理由は「予算獲得の都合」も

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 多額の公金を投入し、国が大地震の発生確率を予測しているのは周知の通り。が、能登大地震はその予測から漏れていたというから、とんでもない失態である。

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 政府の地震調査研究推進本部では現在、全国の144の主要活断層や、6地域の海溝型地震について「長期評価」を出している。その地震の規模と「〇年以内に〇%」といった発生確率を予測するものだ。
 よく知られた例では、マグニチュード8〜9クラスの南海トラフ地震が今後30年以内に起こる確率は70〜80%という数字がある。

 県が“地震リスクは小さい”と強調

 ところが、だ。
 今地震は能登半島沖の海底活断層が動き、震源となったとみられるが、前出の長期評価では、この断層はそもそも対象にすら入っていなかったのである。
 「活断層は陸域にも海域にも存在しますが……」と言うのは、東京新聞記者で『南海トラフ地震の真実』の著者・小沢慧一氏だ。
 「当初、長期評価では陸地の断層のみをターゲットにしてきました。都市の直下で地震が起きると被害が大きくなりますし、観測もしやすいからです。海域活断層については遅れて2017年に評価が始まり、5年かけて中国地方から九州地方までをようやく発表できたばかり。当該の能登半島沖は、検討が始まったばかりでした」
 また、地震本部は数年に1度、「全国地震動予測地図」を公表。これは30年以内にその地で震度6弱以上の揺れが起きる確率を色分けしたもの。色が濃ければ確率が高く、薄ければ低いことを示し、ハザードマップも公開しているが、
 「この予測地図を見ても、最新の2020年版では、石川県の大部分でその確率は0.1〜3%未満と分類されていました」(同)
 これを見て人々が安心していたのは想像に難くなく、
 「県が企業誘致のために開設したHPを見ると、予測地図の石川県部分を示し、“地震リスクは小さい”と強調しているくらいです」

 “外れマップ”

 なぜこのようなことが起こるのか。
 「地震の予知はもちろん、予測も不可能なんです」と喝破するのは、東京大学名誉教授で地震学者のロバート・ゲラー氏だ。
 予知とは、地震の前兆現象を捉え、“今後3日以内に○○県でM8の地震が起きる”などとピンポイントに言い当てるものだが、「地震との因果関係が証明された、もしくは統計学的に有意な関係が確認された前兆現象は何ひとつないのです。前兆がわかると主張する研究者は“前兆幻想”にとらわれているというしかない」
 他方、予測とは、30年以内などの長期のスパンで、ある地域に地震が起きる確率をはじき出すこと。しかし、
 「これは、地震は一定の間隔で発生すると考える『周期説』に基づいています。が、国内外のデータ解析研究成果は周期説が誤りであることを示しました。1978年以後、日本で発生した死者10人以上の地震をハザードマップと比較したところ、阪神・淡路、東日本、熊本、能登など多くの震災が、危険が低いとされる地域で起こっていることがわかる。ハザードどころか“外れマップ”だったわけです」

 「予算獲得の都合が絡んでいる」

 それにもかかわらず、政府は「長期予測」を繰り返してきた。その中でもとりわけ強調されてきたのが、前出の南海トラフ地震である。死者数が最大で32万人とされる地震が、あれだけの高確率で起こると言われれば誰もが驚愕(きょうがく)するが、「そこには政治的意図も含まれていると思います」と小沢氏が言う。
 「切迫した危険があると言った方が防災対策の予算は通りやすい。実際、地震本部は、他の海溝型地震について『単純平均モデル』という方法で発生確率を測定しているのに対し、南海トラフ地震だけは、科学的に問題があると指摘される『時間予測モデル』を用いているのです。前者で測ればその発生確率は20%程度まで下がります」(同)
 むろん警戒や備えは必要だが、“えこひいき”された数字だと指摘するのである。
 地震本部の事務局を務める文科省に聞くと、
 「科学的根拠に基づいて予測をしております」と言うが、
 「南海トラフ地震ばかりあおるのは、予算獲得の都合が絡んでくるからでしょう」とゲラー氏も言う。
 「日本ではいつでもどこでも不意打ちで大地震が起こり得る。政府の出すいい加減な情報に頼らず、誰もが防災に関する意識をより高めなければなりません」(同)
 世界で起こるM6以上の地震の約20%は日本周辺で発生しているという。能登大地震を機に、改めてこの国に暮らすことの“覚悟”を固めておいた方がよさそうだ。

 「週刊新潮」2024年1月25日号 掲載

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