【記事84380】現在運転中の原発はテロ対策も「免震重要棟」もできていない 伊方、川内、大飯、高浜の9原発は直ちに運転を止めるべき 小坂正則(脱原発大分ネットワーク)(たんぽぽ舎2019年6月13日)
 
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現在運転中の原発はテロ対策も「免震重要棟」もできていない 伊方、川内、大飯、高浜の9原発は直ちに運転を止めるべき 小坂正則(脱原発大分ネットワーク)

1.来年3月に川内原発が運転停止へ

 今年4月19日の朝日新聞に「対テロ施設、建設間に合わない原発9基が停止の可能性」という以下の記事が出ていました。
 再稼働した関西、九州、四国の電力3社の原発全9基が停止を迫られる可能性が出てきた。新規制基準で義務づけられている原発のテロ対策施設の建設が設置期限に間に合わないためだ。3社は期限の先延ばしを含めた対応を原子力規制委員会に求めているが、委員からは厳しい意見が相次いでおり、3社の見通しの甘さが露呈された形だ。
 3社によると、九電川内(鹿児島県)や玄海(佐賀県)、関電高浜、大飯、美浜(いずれも福井県)、四電伊方(愛媛県)の6原発12基で建設工事が遅れ、設置期限を1年〜2年半ほど超える見通しという。  (ここまで引用)
 そして4月24日には規制委員会の更田委員長が「原子力発電所に設置が義務付けられているテロ対策施設が期限内に完成しない場合、原則として原発の運転停止を命じる」と会見で述べました。
 この5年の猶予が最初に切れるのが川内原発1号機の来年3月17日だそうです。ただ少し気になるのが、「原則として運転停止を命ずる」と言ったことです。原則には必ず例外があります。新規制基準では「原発の運転は原則40年とする。ただし例外的に20年延長もあり得る」が、今では20年延長運転が当たり前になっているのです。

2.テロ対策なら急がなくてもいいか?

 4月19日の新聞を読んだときに私はあまり関心を持ちませんでした。なぜなら1昨年末に北朝鮮の脅威を安倍政権はことさら騒ぎ立てていましたが、ここ1年で随分おとなしくなったし、「航空機が墜落する可能性」といえば、それは地震が襲うよりも遙かに小さな確率でしかないと思ったからです。 でも、テロ対策をしていなくても大事故時の安全対策はキチンとやってもらわなくては困ります。
 「そう言えば2016年に『免震重要棟』は建設費がかかりすぎるから、格下げの『耐震施設』へと、九州電力は変更申請を行っていたけど、『緊急時制御室』は完成しているのだろうなあ」と、ちょっと気になりました。そこで私は4月23日に九電本店の広報課に電話をして以下質問をしました。

私:「特重施設」の建設はまだだということですが、福島第一原発事故で活躍した「免震重要棟」のようなバックアップ施設は完成しているのですよね。
職員:「いえ、免震重要棟から耐震設計棟へ変更になりましたが、その施設もまだ完成していません」
私:「えっ、完成していないのですか?バックアップ施設がなくて運転しているんですか。」
職員:「いえ。ただし原子炉の近くに耐震施設に代わるような建屋で事故時にバックアップできるようにはできています」(ここまでが会話)
 ということは、いざ事故が起こって原子炉がメルトダウンしたら仮施設で、あのような過酷事故対応を行う気なのかと呆れてしまったのです。

3.福島第一原発に免震重要棟がなかったら東日本は死の街になっていた

 そもそも東電福島第一原発の免震重要棟は、2006年の中越沖地震のおりに東電の柏崎刈羽原発の緊急時対応室が地震でドアが開かず機能を果たさなかった問題を受けて、新潟県の泉田知事が東電に申し入れて、柏崎刈羽原発と福島第一原発に作らせたものです。 しかも3・11事故の8ヵ月前に完成したばかりでした。もし免震重要棟がなかったら、原発事故で放出された膨大な放射能によって、運転員は中央制御室から全員撤退しなければならず、冷却水注入など手の打ちようがなくなり、東日本全体が壊滅的な被害を受けていたかもしれないのです。

4.「特重施設」はテロ対策ではなく福島第一原発級の事故対策

 3・11以降にできた原子力規制委員会は福島第一原発事故で、メルトダウンした1〜3号機の水素爆発を防ぐことができなかったことの反省を踏まえて、「免震重要棟」や「特定重大事故等対処施設」(略称:特重施設)の設置を義務化した「新規制基準」を作ったのです。
 そこには「テロ対策」も含まれていますが、マスコミが「テロ対策」と強調することで、福島第一原発事故を遙かに超える大事故を想像する方もいるかもしれません。
 しかしテロ対策や航空機墜落対策と言うならば、二重の格納容器やコアキャッチャーなど、欧米では標準装備の施設を設置すべきなのです。この「特重施設」は、私に言わせれば福島第一原発事故級の自然災害対策です。
 ですから、規制委員会は、「特重施設」が設置されてないのに9機の原発の再稼働を許可したこと自体がおかしいのです。
 現在、福島第一原発級の事故が運転中の原発を襲ったら、少なくとも福島第一原発にあった「免震重要棟」級の設備はないのですから。

5.5層の「深層防御」とは

 「深層防御」という考え方について少し説明します。
 原子力発電の事故防護策を講じる「深層防護」の基本的な考え方は、第1層「異常の発生防止」、第2層「異常の拡大防止」、第3層「異常が拡大しても、過酷事故に至らせない」、第4層「過酷事故の進展防止」と続き、第5層「放射性物質の影響から人と環境を守る」までとされています。
 これまで、日本の原発には3層の「過酷事故に至らせない」ための緊急炉心冷却装置(ECCS)などまでしかありませんでした。
 しかし、福島第一原発事故の反省からやっと、第4層の過酷事故を防ぐ施設として「免震重要棟」や「特重施設」が義務づけられたのです。
 原子力規制委員会のHPによると「特重施設等の設置に向けた更なる安全向上の取組状況について」には次のように書いています。
 「シビアアクシデントを起こさない対策に加えて、大規模自然災害やテロも含めて様々な事象により万が一シビアアクシデントが起きた場合の対策として必要な機能を全て備えることが求められている」といいます。
 そして具体的には「緊急時制御室(免震重要棟)」に「電源」「水源と溶融炉心冷却ポンプ」「格納容器スプレイポンプ」など、原子炉格納容器や建屋内にある緊急時の施設が使えなくなった場合に、遠隔地からバックアップするための第4層がこの「特重施設」なのです。第5層の避難計画は日本の規制委員会では審査対象ではありません。日本の第5層は、自治体任せで、避難計画は机上の空論でしかありません。

6.いま南海トラフ地震が来て原発がメルトダウンしたらどうなる

 日本は地震と津波と火山噴火という世界一の自然災害列島です。
 日本中どこで直下型地震が起きてもおかしくないのに、それへの対応施設がなくて、「原発を動かしている」こと自体が異常なことなのです。
 しかも、30年以内に70〜80%の確率で南海トラフ地震が襲ってくると言われています。マグニチュード9.0〜9.1の巨大地震が起きる可能性があるのです。
 一刻も早く稼働中の伊方原発と川内原発と大飯原発と高浜原発の9原発は直ちに運転を止めるべきです。
(「つゆくさ通信」発行:脱原発大分ネットワーク 2019年5月20日No155より了承を得て転載)

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