【記事84450】【社説】週のはじめに考える 火山国に住む心得は(東京新聞2019年6月16日)
 
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【社説】週のはじめに考える 火山国に住む心得は

 クイズです。○か×で答えてください。(1)噴火する危険性がある山を活火山という(2)噴火の規模が大きければ予知できる−。正解と説明をしましょう。
 噴火しているのが活火山、噴火の記録はあっても現在は噴火していないのは休火山、記録のないのは死火山と、昔は呼びました。
 火山噴火予知連絡会は二〇〇三年に「おおむね過去一万年以内に噴火した火山」などを活火山と定義しました。百十一あります。

◆大山の噴火に備えろ
 (1)の正解は○? いえ、×なのです。
 昨年十二月、原子力規制委員会が関西電力に対して、大山(鳥取県)が噴火した際の火山灰の影響を調べて報告するように求めました。京都市で厚さが二十五センチもある大山の火山灰層が見つかったのを受けての指示でした。
 大山は活火山ではありません。火山灰は、八万年前の噴火によるものです。火山活動は一万七千年前が最後です。
 火山学者の巽(たつみ)好幸・神戸大教授は規制委の判断について「当たり前の話。火山の寿命は少なくとも百万年程度」と話します。
 最後の噴火から何年ではなく、活動開始から百万年以内の火山は、噴火の可能性があるというのです。巽教授は「待機火山」という名称を提案しています。北方四島を含む日本列島に二百八十四あります。問い(1)の正解は×です。
 (2)の予知はどうでしょうか。
 噴火予知が見事に成功したことがあります。二〇〇〇年の北海道・有珠山噴火では二日前に「今後数日以内に噴火する可能性が高く…」と初めて“予知情報”を出し、犠牲者はゼロでした。 有珠山には北海道大有珠火山観測所がありました。繰り返し噴火が起きていたので、科学的な観測データが整っていました。

◆天の岩戸伝説に学ぶ
 当時の岡田弘教授らが、自治体の防災対策や防災教育に力を尽くしていたことも、犠牲者ゼロの理由とされています。
 一方、突然の噴火だったのが岐阜・長野県境の御嶽山や、群馬県の草津白根山でした。ともに水蒸気爆発でした。
 予知はマグマの移動を地震計などでキャッチすることで可能になります。水蒸気爆発はマグマが大きく移動するわけではないので、前兆が分かりにくいのです。噴火としては小規模でしたが、山頂付近にいた人が被害に遭いました。
 規模が大きければ前兆現象も捉えやすいのでしょうか。
 巨大噴火、あるいは破局的噴火と呼ばれるのが、阿蘇山などで起きた巨大カルデラ噴火です。九州や北海道、東北で起き、平均一万年に一回程度です。
 阿蘇山が巨大噴火を起こした場合の予想では、火山灰は関西で五十センチ、関東で二十センチに達します。東京では、江戸時代に起きた富士山の宝永噴火を上回る規模です。数センチの火山灰で交通機関はマヒし、送電線は切れるといいます。
 最後の巨大噴火は七千三百年前の鬼界カルデラ噴火です。鹿児島県の南の海底にあるカルデラで、九州南部の縄文文化を滅亡させたとされます。古事記にある「天の岩戸伝説」は、噴火後、火山灰で太陽が隠され、世界が暗くなった様子を伝えている、と考える研究者もいます。
 鬼界カルデラを研究している巽教授は「巨大噴火はこれまで、人類が一度も科学的な観測をしたことがないので、巨大噴火に至るまでの経緯が分かりません。前兆はあるでしょうが、起きてみなければ分かりません」と言います。

 データが少ない火山の予知は難しいようです。(2)は限りなく×に近い、でした。

 愛媛県の伊方原発3号機の再稼働停止を求める仮処分申請で、阿蘇山の巨大カルデラ噴火が争点になりました。一度は停止が認められましたが、広島高裁は仮処分を取り消しました。根拠は(1)国は具体的な対策を策定していない(2)想定しなくてもよいとするのが社会通念である−でした。
 発生確率が低い災害を軽視する。対応できないものは、想定外で済ます。それが大きな不幸を招くという、3・11の教訓を忘れてはいけません。

◆運命とあきらめない
 噴火するまで何もしないのでは、縄文人と変わりません。備えるべきは原発や政府だけではありません。日本列島に住む、私たち一人一人が考えるべきことです。
 まずは正しい知識を身に付けることです。そして、時々は(1)山にいるとき噴火したら(2)自宅などで火山灰が降ってきたら(3)長距離の避難を迫られたら(4)被災者を助ける立場になったら−といったことを話し合ってください。私たちは火山国に住んでいるのです。

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