[2005_01_25_01]たんぽぽ舎発 今月の原発 史上最悪の津波災害 日本の原発も危険 津波襲来場所にわざわざ原発 津波災害防止の取り組みはどうなっていたか(たんぽぽ舎2005年1月25日)
 日本の原発も危険

 記録に残る限り、最大の津波被害が発生した。場所はインド洋。
 2004年12月26日、クリスマス休暇でにぎわうプーケット島や、分離独立運動で戦闘状態が続くスマトラ島北部アチェ州を襲った津波は、モーメントマグニチュード9という巨大地震が引き起こしたものだった。スマトラ島沖地震あるいはインド洋津波災害と呼ばれるこの災害で、実に23万人以上が亡くなったか行方不明となっている。(1月25日現在) 津波自身は自然災害であるが、その災害で大きな人的被害をもたらすかどうかは人の取り組みにかかっている。
 その意味では津波は自然災害だが津波の犠牲は人災的要素が大きい。
 津波は島国日本に住む私たちにとっては、恐ろしい災害であり、その被害を最小限にとどめるために国や地方自治体あるいはNPOを含めて長年取り組んできた課題である。
 古くは1792年「島原大変肥後迷惑」で知られる島原雲仙普賢岳の噴火災害に伴い発生した火砕流が有明海に達し津波が発生、現在の熊本県や天草諸島から長崎県にいたる広大な海岸線が30メートル級の津波に襲われ推定15000名が死亡あるいは行方不明となった史実がある。
 その後も津波災害の例は多い。安政東南海地震(1854年)に伴う大津波、明治三陸地震津波災害(1896年・死者22000余名)、東南海地震(1944年)、チリ地震津波災害(1960年)、近年では日本海中部地震(1983年)に伴う津波、北海道南西沖地震(1993年)に伴う津波など、100年程度をさかのぼってもいくつも起きている。
 特にチリ地震津波では、地球の反対側で起きたモーメントマグニチュード9.5という巨大地震により発生した津波が、丸一日をかけて太平洋を横断し襲いかかった。
 津波災害というのは、国を超えて襲いかかるものであり、国際的な監視警報システムが急務であることを、この地震は太平洋の国々に大規模な災害と共に教えた。
 アジアでのこれまでで最大の津波犠牲者は、1883年インドネシア・クラカトア火山爆発により発生した津波災害によるもので、死者行方不明者が36000名に達した。近年では1998年7月17日パプアニューギニア沖で発生した地震により巨大な津波が発生、少なくとも2200名もの人命が失われている。
 地震の大きさと津波の大きさは必ずしも相関するものではなく、大きな被害をもたらす地震であってもたいした津波が起きない場合もあり、地震動をほとんど感じなくても巨大津波が襲いかかることもある。これは海底の地形変位が大きく影響するためで、巨大地震であっても海底の地形変位が小さい場合もあり得るからだ。しかし海洋底のプレート境界で起きる地震の場合は、概ね大きな津波が起きると考えるべきであり、その対策は海岸線のある国にとっては義務と考えるべきものだ。
 その後、太平洋津波警報組織国際調整グループ(lCG/lTSU)という国際組織ができ、太平洋地域の国々が加盟している。
 米国のハワイに太平洋津波警報センターが設けられ、気象庁にもリアルタイムでデータが送られる。私たちもインターネットでそのデータを直接見ることが出来る。
 この警報システムの一つが「ツナミ一夕ー」と呼ばれる早期警戒ブイだ。太平洋に6基設置され、通信衛星で警報センターと直結されており、海中の異常な圧力変化を海面の高さの変化として読み取って警報を出す仕組みである。このブイがいくつかインド洋にあれば、少なくても警報を発することができたはずだという主張がなされている。
 ブイだけで津波災害対策は十分であると言うつもりはない。最も重要なのは、住民への啓蒙であり、引き波を見たら高台へ逃げろという知識の普及の方がはるかに大事なのは言うまでもない。しかしこのブイが一基2500万円程度であることは指摘しておく必要がある。

 津波襲来場所にわざわざ原発

 日本は周りを海に囲まれているだけでなく、そのほとんどの海岸線は津波災害を受ける恐れがある場所でもあるという、おそらく世界中を見渡しても他には例を見ない災害大国でもある。
 その海岸線のいたるところに原発を建てて稼動させているという意味でも、異様な国である。
 そのなかでも極めつけは東海地震の震源域の真ん中に建っている浜岡原発であろう。現在5基の原発が存在するが、古い1、2号機は長期改修工事中で炉心から燃料を抜かれた状態にある。残る3基が稼働している。
 古い原発を止めていることで、さしもの中部電力も原発と地震の危険な関係に気づいたのかと思いたいところであるが、そうであるような、無いような宙ぶらりんの状態である。(いやみで言っているわけであるが)
 浜岡原発を津波が襲う場合、同時に東海地震(あるいは東南海地震)が起きているのであるから、津波の被害だけを考えるわけにはいかない。巨大地震で揺さぶられた直後に巨大津波が襲いかかるのである。このような地震の場合、通常の冷却システムはほとんど停止しているか機能をしていないであろう。ECCSを含め主要配管も破損している恐れが高い。原発は停止していても燃料がある限り冷却を続けなければメルトダウンの危機が免れない。そういう意味では使用済燃料プールの冷却が失われることも極めて危険なのである。確かに浜岡原発は津波対策を取っている。海底取水口には巨大な貯水槽があり、引き潮でも海水を保持できるようにしている。しかしそれがうまく機能するという補償は無い。プーケット島などの海底では、大きな引き波と寄せ波により、海底地形が変わるほどの影響を受けていることがわかっている。いわば海底で土石流が起きたような状態になるのである。
 海底取水層も、この土石流で埋まってしまえば何の役にも立たないであろう。一端閉塞してしまえば回復は見込めない。
 また、原発全面には10メートル級の砂丘があるから原発には津波は届かないという中部電力の主張もまがい物である。仮に6メートル級の津波が襲ったとしても、津波とは高潮と異なり何10キロも海面が6メートル上昇して襲ってくるものである。その圧力はとてつもないもので、砂防提にぶつかると同時に駆け上がり、容易に乗り越えてしまうであろう。
 また、地震により砂防提で液状化が起きていれば、堤防の効果も無くなってしまう。実際に南海地震では砂防堤の液状化が見られたという。
 もともとある地点での津波の波高や最高到達点をあらかじめ知ることは不可能である。同じ場所で起きる地震であっても、二度と同じ津波は来ないと知るべきであろう。その時々の海底地形変位や海岸線付近の海底形状など、変動要因はたくさんありその変化の度合いも大きい。そのようなものをあらかじめ知ることは現在の知見では不可能である。
 であるならば過去の津波のデータをもとに、その数倍規模のものもあり得るとして考えるのが防災では重要なことである。
 地震・津波災害と原子力災害が同時に起きる。これを地震学者の石橋克彦神戸大教授は原発震災と名付け「原発集災ー破壊を避けるために」という論文を1997年の「科学」誌上で発表している。

 津波災害防止の取り組みはどうなっていたか

 今回の地震津波災害で被災した国のほとんどは日本のODA対象国である。これらの国々に津波災害の恐ろしさを伝え、警報システムの支援体制を取るべき立場に日本はあったのだ。それこそが国際貢献である。
 確かにこれまで日本はパプアニューギニアの津波災害の後に、災害支援と共に防災体制の構築をすすめようとしていたことは事実だ。しかしインド洋に発生する地震に伴う津波対策は残念ながら何もなかった。
 米国は、既に地震発生直後に津波発生の危険性を知り、インド洋中央部に位置する英領ディエコガルシア島の米海軍基地に警報を発していた。この島は全島米軍が借り上け、アフガニスタン戦争やイラク戦争への出撃拠点として使っている。そういうところには警報が行くのに、何千万人もの人々が住む海岸地帯には何の警報もなかった。
 米国は3億5千万ドルの支援を申し出ているが、これはイラク戦争に使っている戦費のわずか数日分に過ぎないのである。
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