[2021_10_26_04]原発を「実用段階にある脱炭素化の選択肢である」とする規定自体が間違い 再処理を含む核燃料サイクル政策を撤回すべき 「エネルギー基本計画」に対するパブリックコメント (その4)(了) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2021年10月26日)
 
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原発を「実用段階にある脱炭素化の選択肢である」とする規定自体が間違い 再処理を含む核燃料サイクル政策を撤回すべき 「エネルギー基本計画」に対するパブリックコメント (その4)(了) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 5.原発を止めるのか進めるのかが特にあいまい

◎ 「(3)電力部門に求められる取組」の、23頁「原子力における対応」について
 原発の現状は、極めて多くの問題が起きている。
 「安全を最優先し、経済的に自立し脱炭素化した再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する。」としながら、一方では20%程度を原発でまかない、さらにこれをベースロード電源と規定する。到底低減している姿ではない。
 明らかに方針と現実が乖離する計画になっており、全体の信頼性を大きく低下させる元凶にもなっている。

◎ まず、原発について「実用段階にある脱炭素化の選択肢である」とする規定自体が、間違いである。
 発電時においても、発電エネルギーの2倍を廃熱として海に捨てており、これが直接海を暖めることで、温暖化を促進させている。
 火力などは廃熱を徹底して回収する仕組みを通して、廃熱汚染を防止する方法はあるが、原発では効率よく廃熱を再利用する方法は無い。また、それについての技術開発さえ行われていない。

◎ 発電時の廃熱以外にも膨大な量の放射性物質を排出しており、その一部は温室効果ガスでもある。
 また、原発への燃料生産から廃炉、さらに廃棄物処理に関しても膨大な電力などのリソースを投入しなければならない。
 これらを総合した場合、発電電力量に比してどれだけのエネルギーを使わなければならないのか、正確に評価したものは存在しない。

◎ 「原子力に関しては、世界的に見て、一部に脱原発の動きがある」ことは事実だが、「一方で、エネルギー情勢の変化に対応して、安全性・経済性・機動性の更なる向上への取組が始まっている。」とは、何を指しているのか判然としない。
 今行われているのは、フランスがEPRを開発し、従来よりも安全性の高い原発を供給しようとしているが、従来の原発の3倍もの費用がかかる。
 発電電力量や基数を増やしていこうとしているのは、中国程度であり、UAEなど一部に初めて原発を導入する国があったとしても、全体に与える影響は微々たるものであり、温室効果ガスの抑制・削減に資するものではない。

◎ 「我が国においては、更なる安全性向上による事故リスクの抑制、廃炉や廃棄物処理・処分などのバックエンド問題への対処といった取組により、社会的信頼の回復がまず不可欠である。このため、人材・技術・産業基盤の強化、安全性・経済性・機動性に優れた炉の追求、バックエンド問題の解決に向けた技術開発を進めていく。東京電力福島第一原子力発電所事故の原点に立ち返った責任感ある真摯な姿勢や取組こそ重要であり、これが我が国における原子力の社会的信頼の獲得の鍵となる。」については、何一つ達成可能なものは見当たらない。
 バックエンド対策としながら、行っているのはわずかに実施した使用済燃料の乾式貯蔵への移行と、さらなる大量の放射性物質を環境中に放出する再処理工場の建設である。
 原子炉を新たに開発するかの記載については、「原発の低減」と真っ向から対立する記述で有り、矛盾も甚だしい。

◎ 人材の育成については、今のように、進むのか退くのかさえはっきりしない状況では、どの方向に人材育成をしていくのかが定まらない中では到底不可能である。誰がそのような不安定な産業に従事しようと思うだろうか。
 福島第一原発事故への取り組みが原子力の信頼性を高めるとの抽象的な表現で、何を言いたいのだろう。
 少なくても廃炉は100年以上かかる大変な事業であるが、ロードマップでは30〜40年で終わらせると、荒唐無稽な記載になっている。真摯さのかけらもない廃炉についての姿勢は、信頼を更に失うだけである。

◎ 今必要なのは、福島第一原発の安全性を確実なものにして、再度の放射性物質の拡散を許さないことだ。
 ところが地震対策にしろ津波対策にしろ、想定がどんどん大きくなっているのに強い放射能汚染が災いして、ろくに補修さえ出来ていない。
 原子炉は溶融し、格納容器の下部についてもどうなっているかさえ確認できない。それなのに600ガル程度の地震にも耐えると、ほぼあり得ない想定を繰り返している。
 デブリの取り出しを優先し、安全が犠牲になっていることが明白なロードマップ、これだけで安全性が犠牲になっていることがわかる。

◎ 「(1)現時点での技術を前提としたそれぞれのエネルギー源の位置づけ」(32頁)の「原子力」では、「原子力は、燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる低炭素の準国産エネルギー源」としている。
 しかし核燃料サイクル施設は全て停止しており、装荷中の核燃料だけでは一年程度しか動かせない。ウラン濃縮施設はそもそも稼働可能な遠心分離器はない。
 その他の核燃料サイクル施設が稼働したとしても、燃料体製造までの工程は、現状では一炉心分ができるかどうかである。
 現状では多くの燃料が燃料集合体の形で輸入されており、結局これが止まれば原発は止まる。
 電力会社の方針でも、高額な国産燃料体よりも遥かに廉価な輸入核燃料を選択しているのが実態だ。

◎ 「運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源である。」
 これでは福島第一原発事故後の原発評価として、何も変わっていないとの印象を強く持つ理由である。
 「一方で、依然として、原子力発電に対する不安感などにより社会的な信頼は十分に獲得されておらず、また東京電力柏崎刈羽原子力発電所における核物質防護に関する一連の事案など、国民の信頼を損なうような事案も発生するとともに、使用済燃料対策、核燃料サイクル、最終処分、廃炉など様々な課題が存在しており、こうした課題への対応が必要である。」

◎ 「不安感」を拡大再生産しているのは、東電を始めとした電力会社や規制委員会の姿勢に負うところが大きい。
 これは「不安感」どころか、心底不安になる行為である。
 繰り返される不正行為や不祥事は、一発で設置許可取り消しに相当するようなものもある。
 特に悪質なのは、記載のある東電の違反と、日本原電による敦賀原発2号機のデータ偽造がある。
 これらは、直ちに設置許可を取り消すべきレベルの不祥事である。
 さらにこれらが電力会社が組織として実行していたこともまた、信頼を失った大きな理由である。

6.核燃料サイクル政策を進める根拠はさらに薄弱に

◎ 68頁「対策を将来へ先送りせず、着実に進める取組」では、使用済燃料について記載があるが、「将来へ先送り」しないとはどういう意味か。
 使用済燃料は再処理しようとしまいと、10万年以上の隔離が必要な放射性廃棄物だ。
 将来の世代に負担を掛けることは明白である。いまさら将来の世代を引き合いに出すくらいならば、最初から原発を導入すべきではない。

◎ いま、再処理を選択すれば、将来の世代には拡散し汚染した海と大地を引き渡すことになる。
 再処理は大量の放射性物質を環境に放出する装置だ。そのくらいは認識していなければならない。
 将来の世代に可能な限り「選択可能な」状況を引き渡すことしか、私たちに出来ることはない。
 選択可能とは、使用済燃料に封じ込められた放射性物質を環境中に拡散させる再処理をしないこと、使用済燃料をできる限り安全に保管するため、乾式貯蔵方式で原発の敷地に貯蔵施設を作ること、それについて原発立地自治体の住民と真摯に対話し、納得をしてもらうこと、さらには再処理事業を中止するため、六ヶ所再処理工場に貯蔵されている使用済燃料を乾式貯蔵容器に格納し、原発敷地に戻すことを各電力会社と自治体の住民との間で話し合うことを開始することが必要だ。
 東京など消費地に保管することも考慮すべきであろう。その際は当然ながら東京などの住民との対話が必要である。

◎ 高レベル放射性廃棄物だけでなく福島第一原発事故により生じた汚染物についても、その処理方法を議論すべきである。
 先送りしてはならないのは、これまで原発を運転し、又は、廃炉にした際に生じた放射性廃棄物について、何処に、誰の責任で、どのようにして保管するのかの対話を開始することだ。

◎ この国は、とにかく何についても説明責任を果たそうとしない。
 そのような姿勢でどうして理解を求めることが出来るのだろうか。
 真剣に考えなければならないのは、決定に至るまでの適正手続きである。
 これが常に欠如している。しらないままに実態を進め、後戻りできないようにしてしまう姿勢こそが、信頼を失う理由だ。
 再処理を含む核燃料サイクル政策を撤回すべきである。
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